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760:白き船、転移


 ブランシーカーの瞬間移動については、俺とリネス、どちらでも可能だ。

 ただ、リネスは魔王城の構造については、まだよく知らないはずなので、転移先座標の設定に不安がある。


 で、結局俺がやることになるわけだ。


「周辺の警戒とかは、しなくていいの?」


 レールが聞いてくる。


「問題ない。それより、燃料補給の準備をしておけ。用意するよう、城のほうには指示してあるから」

「ん、了解!」


 ピシッと背筋を正し、小気味よく応えるレール。

 いや、本当に、すごくマトモというか、頼れる主人公という感じがする。さすがにこの船でいくつもの修羅場をくぐってきた船長だけのことはあるな。おまけに美少女だし。


 ……ボタン一発で男になっちまうのが、もったいないぐらいだ。ゲームの仕様だから、言っても詮方ないが。


「あぁーんっ、アロアちゃんー、そこはっ、そこはらめぇぇー! あっ! あああんっ!」

「ここねっ、ここがいいのねっ、うふふふっ」


 脇のほうでは、アロアが、リネスの足ツボマッサージをしている。なんでやねん。仲良さそうでなによりだ。


「ねえ、アーク」


 と、ちび妖精のブランが、ふわふわ俺の肩あたりまで漂ってきた。


「転移した後のことだけど……どうせ、たんにアタシたちをもてなしてくれる、ってわけでもないでしょ。燃料だってタダじゃないはずだし。何か、アタシたちに、やらせたいことがあるんじゃないの?」


 ……コイツも、なかなかシビアというか世知辛い思考をしてやがるな。これまでの経験がそうさせるのか、少々疑り深くなってるようだ。

 俺としては、別段、下心などはない。ただブランシーカーという途方もない戦力が、もしバハムート側について、敵に回ったりすれば、話がややこしくなる。ブランシーカーを魔王城へ転移させるのは、そういう事態を回避するための措置にすぎん。


 が、ブランのほうでそういう気構えができてるなら、せっかくだから、ちょっと働いてもらうかね。


「詳しいことは、転移後にあらためて話し合おう。今は、この船に燃料を入れて、動けるようにするのが最優先だからな」


 俺が告げると、ブランは、なぜか、頬を赤らめながらうなずいた。

 いや、なんでそこで赤くなる。


「……こうして見てると、けっこうイイ男よね、アンタって」


 いきなり俺を口説くな。なんで急にデレてんだ。

 これもあれか、レールが女になってる弊害か。周りに男がいないもんだから……。


「ね、アタシのイチゴぱんつ、見る?」


 見ねえよ! いったいなんの話だよ! これ18禁ゲームじゃねえよな!?





 ちび妖精は、とりあえず放っとくとして。

 どうせ何か腹に一物あって、俺に色仕掛けでもしてるんだろう。残念ながら俺は、掌サイズの妖精に欲情するような性癖は生憎、持ち合わせておらん。けっこう可愛らしい見ためではあるんだけどな。


「レール、船内に伝達してくれ。衝撃に備えるように」

「了解」


 レールが、コンソールのスイッチを押す。途端、けたたましいサイレン警報がスピーカーから流れ出した。

 ハンドマイクを手に、レールが船内放送を行なう。


「全乗員に告ぐ。各員、衝撃に備えよ!」


 なんだか映画のワンシーンみたいな情景だ。レールの船長ぶりが、実に様になっている。

 その間に、俺は操縦室の真ん中に立ち、脳内で瞬間移動魔法の術式を織り上げ、転移座標の指定を行なった。


「始めるぞ。みんな、じっとしていろ」


 おもむろに声に出して、詠唱を行なう。これだけの大質量を転移させるとなると、やはり相応の集中力と魔力、少々の時間が必要になる。

 リネスとアロアも、じゃれあいをやめて、隅のほうで、しっかと抱き合いながら、俺の詠唱を見守っている。


 ガンガンと警報鳴り続けるなか、俺の詠唱は完成し、ほどなく、瞬間移動魔法が発動した。

 ほんの一瞬――視界が真っ白になった。


 いままさに、亜空間を通り抜けている感覚。

 それを過ぎ去るや――。


 ずうんッ……! と、強い衝撃が、操縦室全体を大きく揺さぶった。

 室内のテーブルやら棚やら操舵席の椅子やらまで、ガラガラと音をたてて倒れ込み、レールやアロア、リネスも仲良く盛大に床へひっくり返った。


 ……おお、レールはイチゴぱんつだったのか。アロアとお揃いとは。

 この船、イチゴぱんつが流行ってんのか? いや、心底どうでもいい話だが。


「あいったぁー……。み、みんな、大丈夫?」


 そのレールが、いち早く起き上がり、周囲を見渡して声をかけた。

 俺はバランスを保ってきっちり立っていたし、ちび妖精とボルガードはもともと宙に浮いてるので問題無し。アロアとリネスも、なんだか複雑にもつれあう姿勢で倒れてるが、怪我などはなさそうだ。


 船窓の向こうの光景は一変していた。

 彼方にそびえるは、月夜にライトアップされた、壮麗なる白亜の王宮。


 無事に、城下への転移が完了したようだな。

 そのとき、操舵室の伝声管から、悲鳴のような声が聴こえてきた。


 レールがあわてて応答に出る。


「ど、どうしたの?」

「大変なんですっ! マルティナさんがっ……!」


 おや。マルティナって、さっきすれ違った、要介護スク水ドラゴン幼女だよな。


「え? マルティナさんが、どうしたの?」

「それがっ……! いまの揺れで、頭を打って……!」

「ええっ? 頭を?」

「はいっ、それで――窓から、飛び出して行ってしまったんです! いまこそ恋の季節到来じゃー! とか叫びながら!」


 なんじゃそりゃ……。たしか見た目は幼女だが、中身はボケ老人って話だったな。

 ほっといても問題はなさそうだが……先に別の用事もあるし。


 仕方ない。後で、ついでに回収しといてやるか。



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