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758:ゲームアプリ世界


 次元放浪のすえ、こちらの世界に辿り着いたブランシーカー。

 様々な世界を渡って来たという。


 魔法少女が軍隊のかわりに戦場で殴りあう世界。

 金髪の幼女神が人間どもの勘違いで火炙りにされてる世界。

 武士が超音速の太刀筋で斬り合うイカれた戦国世界。


 などなど……って、なんかどっかで見たような気がする話ばかりだな。

 そんな苦難の旅路の末、この世界に到着した直後、ブランシーカーは燃料切れを起こし、立ち往生する羽目になった。


 しかも周囲には、きわめて高度な文明の産物とおぼしき、鋼鉄の機動兵器が、整然と列をなし、見渡す限りの視界を埋め尽くす、異様な光景が広がっていた。

 さらに周辺を監視してみると、人間の姿はまったくなく、かわりに二足歩行の巨大なドラゴンたちが、のっしのっしと歩きまわっている。レールやアロアなどは、内心、どうなることかと、気が気じゃなかったそうだが、守護精霊ブランだけは、むしろドラゴンたちの姿を見て、嬉声をあげていた。


「あれって、ディーエ、ムエムと同じ種族だよ! 上位世界の住人たちだよ!」


 ブランたちの世界を構築した「開発者」ディーエとムエムは、どちらも巨大なドラゴンであったという。で、ブランの持つデータと、ブランシーカーの周囲をのし歩くドラゴンたちの種族的特徴は、完全に一致していた。

 ……ようするに、ブランたちのデジタル世界は、もともとバハムートの世界で「開発」されたゲームアプリだと。


 まさに衝撃の事実ってやつだな。いったい何の因果やら。いや確かに、バハムートの文明レベルなら、それくらいのことはできるのかもしれんが……。

 上位世界へと乗り込んだことで、すでに彼らはデジタル圧縮されたデータではなく、アナログ世界の物理的存在へと自動的に変換されているらしい。これも、詳しい理屈はよくわからんが……。


 やがて、ブランシーカーは多くのバハムートたちに包囲された。ブランがボルガードのスピーカーを介して、外に呼びかけを行なったところ、いわゆる念話でもって返答があった。


(我らは五色連盟軍である。ここは、我が軍の前線基地。貴船の所属を明らかにせよ――)


 意思疎通が可能ならば、後はどうとでもなる。お互いに事情を語り、しばしの話し合いの結果、ブランシーカーと五色連盟軍は、協力関係を結ぶことで合意した。


「なんせこっちは、重水素が切れちゃって、まったく身動きできないしね。ぶっちゃけ、他の道を選ぶ余地もなかったのよ。あっちはあっちで、この船の空間歪曲砲に興味を持ったみたい」


 この協議の中で、ブランは、そもそもこの船が次元を渡る動機となったイベント……エピック・マーケットについて、質問してみた。


(ああ、黄都で、年二回開催されていた、同人誌即売会ですね。ただ、大戦の勃発と同時に途絶えてしまって、近年では開催されておりません)


 ここにきて、ブランの記憶と推測が完璧に正しいことが証明されてしまった。残念ながら、現在は開催されてないらしいが……。

 というか、バハムートが同人誌作って即売会までやってたって、なんか想像しづらい絵面だが……。クラスカかイレーネなら知ってるかもしれん。後で聞いてみるか?


 ところで当初、ブランは、ここがバハムートの世界だと思っていた。

 ところが、五色連盟側の龍人たちの話をじっくり聞くと、どうも違うらしいということがわかってきた。


 バハムートの世界と、五色連盟軍の本体は、上空にある巨大な断裂の彼方にあり、ここはまた別の世界なのだという。

 龍人側のいわく――ここは悪の大魔王に支配された闇の世界であり、五色連盟軍は、その大魔王を倒して、この世界に平和を取り戻すために派遣されてきた義勇軍であると――。


 さすがにブランも、その話をまるっきり鵜呑みにはしなかった。裏があるのは間違いないが、なにせブランシーカーは身動きがつかないし、ボルガードの性能をもってしても、五色連盟軍の基地の外側までは探知が及ばない。自力で動けるようになるまでは様子見を決め込むしかなかった。

 協議の後、バハムート側からは当面の食糧や船体用の補修材が提供されることになり、まさについ今しがた、その受け取りを済ませたところなのだとか。


 さっき俺たちが見かけたのが、その搬入風景だったってわけだな。ブランシーカーの外殻は特殊合金の複合装甲になっており、なんとバハムートの空間戦車と同じ補修材で修理可能らしい。

 ただ、肝心の重水素燃料については、基地にもストックがなく、本国から輸送する必要があるため、調達には時間がかかるのだという。


 ……それは多分、嘘だろうけどな。なにせ、いま魔王城にある空間戦車も、重水素燃料を使っている。その空間戦車の大規模集結地たる前線拠点に、燃料のストックが無いなんてありえん。ブランシーカーを足止めするための口実でしかあるまい。

 ともあれ、肝心のイベントは開催されていないというし、大魔王がどうとか、なんとも面倒ごとに巻き込まれそうな形勢で、ブランとしても、少々途方に暮れかけていたところで……。


 ボルガードが、まったく唐突に、俺とリネスの生体反応を捕捉し、アロアにその旨を告げてきた――。


「す、すぐに! すぐに連れて来て! 彼らなら、必ずこの状況を打開してくれるはず!」


 で、いま、俺たちが操縦室まで連れられてきたってわけだ。





 ブランシーカー側の事情については、およそ諒解した。

 となれば、今度はこちらの事情を語らなばなるまい。


 ってことで、俺は、この世界の大体のあらまし、俺が勇者にして魔王たること、バハムートどもが何しにこの世界へ乗り込んで来たのか、ざざっとブランとレールに説明してやった。

 アロアは……リネスと、なんか嬉しそうに話し込んでる。ほっとこう……。


「つまり、ドラゴンたちは、エーテルとやらを狙って、この世界を侵略しに来た連中ってわけね。で、アークさんは、この世界の魔王で、世界を守るためにドラゴンを追っ払おうとしてる、と」


 美少女船長なレールが、ふんふんとうなずいてみせた。なんか、男のときより、いまの女のほうが、しっかりしてる感じだな。ちゃんと人の話を聞くし、正しく理解してくれている。男のときは砲撃しか頭にない変態だったが……。


「それは、アンタがそういう選択肢ばっか選んでたからよ」


 横から、ブランが鋭いメタツッコミを入れてきた。

 あー、たしかにコラボイベントのとき、わざとそんな選択をしてた気がする。


 ようするに、性別に関係なく、本来のレールはごく真面目な少年少女ってことか……。変態に見えるのはプレイヤーのせいだと。

 お互い、事情はわかった。


 では、これからどうするか。


「俺の城に来い。こんなとこにいても、ろくなことにならんぞ。レールもブランも、侵略行為のお先棒をかつぐ気はなかろう?」


 と、提案してみた。


「来いったって、この船、まったく動けないんだけど」


 ブランが憮然と呟く。


「問題ないさ。なあ、リネス?」


 俺が話を振ると、リネスは、アロアとがっちりハグしながら、笑って「うん、問題ないよー!」と応えた。ってなんで抱きあってんのキミら。仲良いにもほどがある。

 レンドル直伝の瞬間移動魔法は、座標の設定には制限が設けられているが、対象の数や質量については無制限。


 つまるところ、俺かリネスの瞬間移動を使えば、この船まるごと、魔王城まで転移させることが可能だ。しかも城内には、空間戦車用の重水素燃料もある。


「わかったわ。あなたたちを信じて、お任せします」


 キリッと表情を引き締めて、船長のレールが告げた。おお、本当に、以前とは別人みたいに凛々しいな。まさに主人公のオーラを感じる。

 それでは、万事任せてもらおう。キッチリ面倒みてやろうじゃないか。



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