表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
757/856

756:花嫁と旧スク水


 テルメリアス、ダイタニアの案内を受けてタラップを昇ると、乗員が何人か甲板に出て、荷物の搬入などにいそしんでいた。

 なかに、さっき見かけた若人……オレインの姿もある。


「ああっ! あなたは!」


 そのオレインは、俺の顔を見るなり、まるで鳩がクルップの88ミリ砲を食らったみたいな顔して、驚声をあげた。いやそんな戦車砲みたいなの食らったら鳩なんか跡形もなく消し飛ぶだろうが。

 どうも、俺のことはちゃんと覚えてたようだな。


「よう。しばらくぶりだな」


 と、俺が会釈してやると、オレインは運搬中の荷物を放り出し、慌てた様子で駆け寄ってきて、小声で俺に告げた。


「まさか、ここでまたお会いできるとは思ってませんでしたよ。自分も、色々事情を聞きたいですし、まず再会のご挨拶といきたいところですが……その前に、お耳に入れておきたいことが」

「なんだ」

「あのですね。アルカンシエルさんのことなんですが」

「ん?」


 アルカンシエルってのは、この船の機関室に、なぜか鎖で繋がれてる金髪のねーちゃんのことだ。

 どういう事情があるのか知らんが、もと大天使だとかで、大変な美女だった。いまはこの船の動力機関に魔力を供給するかたわら、船内の男どもの面倒……そう、面倒ごとを、ほとんど一手に引き受けているとか。


 かくいう俺も、そのねーちゃんにはかなり……そう、お世話に。なっていた。少なくとも当人は嫌がったり、無理矢理やらされてるというわけでなく、むしろ嬉々として誰の相手も務めてる感じだった。

 若干、目からハイライトが消えてたり、ちょっと焦点が合ってなかったりもしたが。船内の誰も、とくにねーちゃんを気にかけたりはしていない様子だったので、おそらく大した問題ではないのだろう。おそらく。


 オレインは、そのアルカンシエルの世話役であるらしい。


「この船が、こちらの世界に転移してきたからというもの……あなたの、つまりアークさんの名前ばかりを、ずっと呟き続けてるんです」

「はあ」

「正直、自分にも、わけがわからなかったんですが、いまあなたと会って、ようやくわかりましたよ。アルカンシエルさんは、どうやら、あなたがこの世界のどこかにいることを感じ取って、会いたがっていたんだと思います」

「あのねーちゃんが、俺に会いたがってると?」

「ええ。後でよろしいので、時間があれば、機関室においでください」

「……わかった。後でな」


 わけがわからん。

 あのちょっと正気か疑わしい状態の……げふんげふん、いやちょっと心に問題を抱えてる感じの大天使のねーちゃんが、俺にいったい何の用だというのか。


 そもそも、この世界に来た時点から、ずっと俺の名前をぶつぶつ呟いてるとか怖すぎる。避けられるもんなら、そのほうがいいのかもしれんが……。


「アーク、なんの話してんの?」


 リネスが不思議そうな顔で訊いてきた。


「大人の話さ」


 俺はあえてリネスと目をあわせず、応えた。なんとなーく、後ろめたいものを感じてしまっている。

 余人には決してそんな態度を取る俺様ではないが、なぜかリネスだけには、必要以上に下世話な話とか、あまり聞かせたくないんだよな……。





 甲板から船内通路へ入り、操縦室へ向かう間にも、以前見たような顔ぶれと何人もすれ違った。



(季節限定SSR)恋する花嫁修業姫アルジェリン

職業:魔法のリトルプリンセス

種族:人間(9・女)

戦闘力:27800

二身合体:不可

備考:亡国の姫君。仇への復讐を終え、恋に生きる魔法少女となる。現在はハッピーウェディングを目指して料理修行中。その腕前はスプーン一杯のスープで象百頭を即死させるといわれる。



 国を滅ぼした大臣への復讐を狙っていた少女……だったはずだが、どうやら無事に復讐イベントを終えたってことか。備考欄が、以前とは違う意味で物騒になってる気がするが。

 あと、ウェデングドレス姿で船内ウロウロしてんのはどうかと思うが……つまりそれが、季節限定バージョンってことか。



(季節限定SSR)渚の竜神マルティナ

職業:ひと夏のアバンチュラー

種族:不明(862・女)

戦闘力:19000

二身合体:可

備考:幻想界の要介護ドラゴン女王、ひと夏のロマンスを胸に描いて、太陽燃える渚に降臨。魔力を使いすぎて、見た目はすっかり幼くなってしまったが、おかげで可憐な水着幼女に大変身。旧スク水のおしりから伸びる竜の尻尾がキュート。しかし徘徊癖は相変わらず。



 ……たしか、前はそこそこ妙齢の美女っぽい外見で、長生きしすぎてボケが始まってる竜の化身……とかだったよな。

 それがなんで、紺色の旧スク水の幼女になってんだ。ちゃんと胸のゼッケンに「4年2組まるちぃな」ってマジックで書いてあるし。誤字かよ。


 で、その格好で、竜の尻尾ふりふり廊下を歩いてやがる……。恐るべし季節限定水着バージョン。

 リネスは、そういう連中とすれ違うたび、笑顔で手を振って会釈を交わしあっていた。あちらもリネスの顔は知ってるようだ。


 そうこうするうち、操縦席に到着。


「おーい、連れてきたよー」

「さ、入ってちょいだい」


 ダイタニアが扉を開き、テルメリアスに促されて、中へ入ってみると……。


「わぁ! リネスちゃん! ほんとにリネスちゃんだー!」


 アロアが大喜びで駆け寄り、笑顔でリネスの手を取った。コイツは相変わらずみたいだな……。


「待ってたわよ」


 操舵席のそばから、例のちび妖精の声がする。そちらへ顔を向けると、ちょうど席から立ち上がり、こちらへ歩み寄って来る、見慣れぬ美少女がひとり。


「や、しばらくぶりね、アークさん」


 快濶な笑顔とともに、そう声を投げかけてくる。

 いや、誰だこいつは。初めて見る顔だが。


 俺が少々困惑していると。


「……あ、そっか。こっちの姿で会うの、初めてだっけ。あたし、レールですよ、レール」


 美少女は、そう告げて、にっこり微笑んでみせた。

 ……船長のレールかよ! こいつ性別変えやがったな! これだからソシャゲってやつは!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ