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754:白き船、ふたたび


 黒いショートドレスに着替えて、赤い腰紐をきゅっとリボン状に結んで、黒いタイツに赤いショートヒール。

 ぴっちり白レオタード魔法幼女から一転、すっかり立派なゴシック風金髪エルフ幼女にスタイルチェンジを果たしたリネス。


「へへへ、どう? どう? アーク、似合う?」


 場所は城内高層のバルコニー。

 満天の星明かりをバックに、俺の前でくるりと回って、はじけるような笑顔を向けてくるリネス。長い金髪は太めの三つ編みに結わえて、頭には大きな黒いリボンを乗っけている。


 いやもうなんとも、可愛らしい。物語に出て来る、大貴族の小さなご令嬢って感じだ。実際リネスは東霊府の長の娘で、名家の出身ではある。


「すごく似合ってるぞ」


 と、素直に褒めると、リネスは嬉しそうに俺に飛びついてきた。


「ほんと? やったぁ、アークにほめられたー!」


 こういう様子は本当に外見相応なんだがな。これでエルフの森でも屈指の天才魔術師ってのが、またなんとも凄い。


「でも、そんな服、どこから調達したんだ?」


 うちの城に……少なくとも、魔族にこの手の服装をしてる奴はいない。サキュバスとかヴァンパイアのねーちゃんたちとか、だいたい超ド級の巨乳揃いで、なおかつボディーラインのぴっちり出る、かなり際どい服装しかしないし。


「これね、スーさんから貰ったんだよ。なんか、昔ここにいた人間の女の子のお下がりなんだって。きっとボクに似合うだろうからって」


 なるほど、後宮か。あそこには、この手の子供服も、かなりあるだろう。昔、大陸各地から捕虜として城へ連行した人間の貴族や王族たちの中には、リネスくらいの子供らも少なくなかった。

 長いこと留守にしてたから、後宮で保護されてたそれらの子供らも、もう立派な大人になっちまってるか、あるいは病気とかで死んでるか、どっちかだろうな……。


 なんでスーさんが、わざわざリネスにそんなプレゼントをしたのかよくわからんが、いつまでも白レオタードってのも、なんだしな。

 リネスには、おしゃれなドレス姿が一番似合ってる気がするし、スーさんも俺と同じ事を感じていたのかもしれん。





 ……着替え終えたリネスは、俺にぴったり張り付いて離れようとしない。いや丁度、話もあることだし、いいんだけどさ。

 てわけで、北方の旧魔王城跡地に、いきなりブランシーカーが出現中という話を、リネスに聞かせた。


「ええー? あの船が? こっちに来てるの?」


 素っ頓狂な声をあげるリネス。そりゃ驚くよな。


「まだ、完全にブランシーカーだと決まったわけじゃない。同型船って可能性もあるしな」

「だったら、すぐ行って確認しようよ!」


 リネスも俄然、その気になったようだ。


「もしそれが、ボクらの知ってるあの船だったら、またアロアちゃんに会えるってことだよね」

「そうなるな。だが、場合によっちゃ、こちらに敵対する可能性もあるが――」

「そのときは、ボクが説得する!」


 力強く、リネスは言い切った。


「そうか。なら、瞬間移動で向かうぞ」

「あ……でもボク、そこの座標って知らないんだけど……行ったこともないし」


 そりゃ、旧魔王城付近なんて北方の僻地も僻地。これまで、そんなとこに足を踏み入れたエルフなんて、おそらく大陸の歴史上、一人もおるまい。エルフって大陸南端の住民だからな。

 でもって、レンドル直伝の瞬間移動魔法は、あらかじめ指定座標がしっかり決まっていないと、正しく発動できないようになっている。ルミナリィ・ノヴァみたいな暴発状態にならないよう、術式にプロテクトが掛かっている。


 ようするに、術者本人が行ったことのない場所、見知らぬ場所には行けないってわけだ。


「問題ない。俺も瞬間移動が使えるからな」

「あ。そういえば、そうだっけ」


 リネスは正攻法でレンドルから瞬間移動の秘術を修得したが、俺は身体に直接、教え込まれている。いや正直、二度と経験したくないけどな。黒板がわりとか。


「場所のほうも大体わかる。なんせ……昔は、あのへんに住んでたこともある」


 旧魔王城。そもそも、俺がこの世界に召還された場所が、そこだった。

 それからしばらくは、貧相な木砦で、絶滅寸前の魔族どもと好き勝手に暮らしてたが、やがて深刻な物資不足に陥り、心機一転、山を下って、人間どもへ戦争を仕掛けたのだ。


 その旧魔王城は、いまや跡形もなくなっちまったが、そんな場所に、あのブランシーカーが出てきたってのも、奇縁を感じる話ではある。


「んじゃー、アーク。連れてってよ」

「ああ。準備はそれでいいか?」

「ん。いいよー」


 リネスの小さな掌が、俺の手をしっかと握る。

 俺はレンドル直伝、瞬間移動魔法を発動させた。位置座標は、さきほど映像でみていた、ドローンの墜落地点付近。


 一瞬、視界が漂白され――。

 俺とリネスは、だだっ広い夜の荒野に、立ち尽くしていた。


「わー、なにここ!」


 リネスが声をあげた。

 見渡す限り、一切起伏のない平地。星明りの下、視界の左右には空間戦車の列が、まるで黒い壁のように連なっている。


 ここは、さっき見ていた空間戦車の大ガレージ、その北辺あたりになるか。

 さいわい、周囲に、人影というか、龍人の気配などはない。


 視界の彼方に……見えている。

 空間戦車とは明らかに異なる、城のように大きな船影が、車列の向こうに、静かにその姿をとどめていた。


「あ! あれ、ほんとにブランシーカーだ! 行ってみようよ、アーク!」


 リネスが俺の手を引き、駆け出しはじめた。そんな急がんでも。


「待て待て、リネス。もう少し、じっくり様子を見たほうがいい」


 と、俺は、あえてリネスの手を引いた。


「えっ、なんで?」

「……よく見ろ」


 俺は、ブランシーカーの船上を指さした。


「すでに、乗り込まれちまってるようだな」


 ちょうど甲板のあたりに、複数の黒影がうごめいているのが、かすかに見える。

 あれは、バハムートどもだ。


 船のほうからは、迎撃などを行なっている様子は一切見られない。

 無人なのか。あるいは、何らかの方法で船内を制圧されてしまったのか。


 もしくは、すでにバハムートと協力関係にある可能性もある。

 さて、どうするか。


 強引に突っ込んで行くべきか、それとも……?



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