表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
754/856

753:ラッキースケベ


 シミュレーターを終了し、クラスカともども空間戦車から降りると、イレーネが外で待ち受けていた。


「どうだった? 変なものが映ってたでしょ」


 イレーネが訊いてきた。


「ああ、見た」


 俺は短くうなずいた。

 ……どう説明するべきだろうな、こういう場合。


 映っていたのは、確かによく見知った、あの船。陸上を、ホバーのように浮いて移動するという、特殊な超大型船舶だ。

 ……ただ、同型船という可能性も、なくはない。あの世界では、過去に大戦争があって、ああいう陸上兵器も大量に造られていたそうだし。


「あれは、我々の世界の技術ではないし、といって、この世界のものでもあるまい」


 クラスカが呟く。


「かなり高度な技術の産物であることは間違いないと思うが、いったいどこから、どういう経緯であそこにいるものやら……」


 それについては、推測がつく。仮にあれが、俺の見知ったブランシーカーそのものだとすれば、間違いなく、あの船の主砲、次元歪曲砲による影響だろう。船長のレールは、何かっていうとあれを撃ちたがる変態だったしな……。


「クラスカ、イレーネ」


 と、俺のほうから呼びかける。


「近頃、空間断裂が不安定化してるって話をしてたよな?」

「ええ。ヴリトラたちが出現したのも、たぶんそのせいだろうと推測してるけど……」

「これまでに収集した情報によれば、かなりイレギュラーな事態が起きているようだ。こちらでは詳細まで確認できないが、我々の世界の側で、いくつも新しい亀裂が生じているらしい」


 それ、たぶん、あいつらのせいだと思う……。


「……その別世界の兵器については、少し、心当たりがある」


 俺がそう告げると、クラスカが驚いたように眼をむいた。


「え、なんだって?」

「これから、ちょっと調査してみる。うまくいけば、面白いことになるかもしれんぞ」

「どういうこと?」


 イレーネが首をかしげた。


「あの船を、わが魔王城に招くことができるかもしれない、ってことさ。まだ、そうできると決まったわけじゃないがな」


 もし、あれがブランシーカーで、中身もそのまんまなら、直接会って説得することが可能かもしれない。

 そうでなくとも、あんな物騒な超兵器を、この世界で野放しにしておくわけにはいかん。バハムート側の戦力に加わってこちらに敵対などされたら、大惨事になりかねん。


 まずは、リネスを連れて、様子を探りに行くとしよう……。






 この後はチーに会いにいくつもりだったが、事は急を要する。一刻も早くブランシーカーの現状を確認し、必要な手を打たねばならん。

 ってわけで、アロアと特に仲の良かったリネスを連れて行きたいわけだが、今どこにいるのか。


 ハネリンに連れられて、他の連中ともども客舎のほうへ案内されたか、もしくはみんなで城内観光ツアーと洒落込んでるか。

 ……この城、なんだかんだで結構広いからなあ。なんの手掛りもなしにリネスを探すのは、ちょいと骨が折れる。


 こんなときは。

 ドラゴンレーダー……って、あれはドラゴンとエルフの位置が大雑把にわかるというもので、まだ個体は特定できないんだよな。


 一応、取り出して起動させてみると、光点が三箇所に分散していた。そのいずれかにリネスがいるわけだが。これだと、いちいち見て回るより、訊いたほうが早いか?

 というわけで、腕時計型通信ガジェット、陛下トレーサーの出番。大概、スーさんかチーが城内側通信端末のそばに常時いるらしいので、どっちかが出てくれるはず。さっそくポチッとな。


「おや、陛下、いかがなされました?」


 と、聴こえてきたのはスーさんの声。もう美女の着ぐるみは脱いじゃってるようだな。


「ああ、すまんが、リネスが、今どこにいるかわかるか?」

「は。あの子供でしたら、いまは上階のバルコニーへ出ているようですが」


 さすがは魔族の宰相、居ながらにして、城内の状況を手に取るように把握している。


「呼び出しをかけますか?」

「いや、場所さえわかれば、俺のほうから出向くよ。ご苦労さん」

「いえいえ。ところで、陛下。例の、大きな鉄人形ですが……」

「ん? ロートゲッツェのことか?」

「はい。とりあえず、さきほど、ルザリクより瞬間移動でここまで運んでまいりまして」


 ああ、そう頼んでおいたからな。歌って踊れるアイドル機神ロートゲッツェ。いわゆる人型巨大ロボだが、装甲材が非常に軽いヒヒイロカネなので、見た目よりはずっと軽く、スーさんの瞬間移動でも十分運べる重量になっている。


「何か問題が?」

「その、チーどのがですね、あれを」

「チーがどうかしたか」


 なんだ? チーは魔王城のお抱え技術者ではあるが、これまでロートゲッツェの計画に、とくに関わりはないはずだが。


「ひと目見て、なにやら随分と気に入ってしまわれたようで」

「はあ」

「いま、大広間で分解を始めてます。一応、止めたのですが……」


 なにやってんのくれてんのあいつは……。なにか、よほどチーの琴線に触れるような技術でも見出したのかね。

 たとえここでバラしても、また再組み立てはできるだろう。とはいえ、これまでルザリクのハンガーに籠って、徹夜で組み立て作業をして、仕上げまでやってたティアックがそんなん聞いたら泣くぞ。


「……わかった。あとでティアックを大広間に向かわせるから、それまでは好きにやらせとけ」

「は。承知いたしました」


 通信が切れた。

 ロートゲッツェについては、技術者どもに任せておいてよかろう。最終調整にはパイロットのフルルも立ち会わせねばならんが、それはまだ後回しだ。


 今は、リネスを連れ出すのが最優先。

 俺は、額に手を当て、軽く念じて、魔術師レンドル直伝、瞬間移動魔法を発動させた。


 一瞬にして、城のバルコニーへ移動完了。


「きゃっ、アーク!?」


 いきなり、リネスの驚声が響いた。そりゃ、突然俺が目の前に出てきたら誰でも驚くわな。

 リネスは、例の白いレオタードを脱いで、お着替え中だったらしい。かぼちゃパンツにシミーズ姿で、どこから調達したのか、黒いショートドレスを手に持っていた。というかなんでわざわざバルコニーなんかで着替えてんだ……。


「もーっ、アークのエッチ! 見ちゃだめー! あっち向いてて!」


 声をあげつつ、慌ててショートドレスを着込むリネス。

 これまで散々一緒に冒険してきた間柄。何を今更、という気もするが、リネスも乙女。そりゃこんな反応になるか。


 いわれるまま背を向けつつ、ふと思ったのは……ラッキースケベって、こういうのかな、とか。

 中身七歳相当の女児だけどな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ