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752:ドローンは見た


 空間戦車の内部は、以前と少々変わっていた。

 正確には、元通りになったというべきか。ミレドアやシャダーンらを同乗させるために設けていた居住区を撤去し、本来の、いかにも兵器然とした内装に戻されている。


 バハムート用の巨大な前方座席に、俺はあぐらをかいて座り込んだ。その後ろでクラスカがシミュレーターの起動準備をしている。

 イレーネは外でまだ兵装類のチェックをやってるようだ。なかばサイクロプスどもに見とれながらの作業だが。


 クラスカが小声でそっと俺にささやいてきたところでは、近頃のイレーネはずっとそんな調子で、あんまり役に立ってないらしい……。

 ただ、兵器の扱いなんてイレーネの本業ではないし、仕方ない部分もあるだろうけど。


「よし、準備できたぞ。これから起動させる」


 クラスカが告げてきた。いったん車内の照明が落ちて真っ暗になり……続いて、周囲の情景が一変した。

 どこまでも続く、真っ平らな白い大地。その一画に、きわめて近代的な造型の人工構造物……白銀の塔が連なっている。


 なんだ、これは。

 旧魔王城付近の映像じゃないのか? あのへんは大陸有数の険峻な山岳地帯で、この時期でも冠雪した峨々たる山嶺が壁のように連なりそびえていたはず……。


 と、そこで気付いた。

 ……そうだ。あの近辺は、シャダイがワン子の侵攻を防ぐために、ひと頃、絶対零度の状態に置かれていた。


 それによって、あのへん一帯のあらゆる自然物は凍結崩壊し、山岳さえも、いまや跡形もなくなっちまった、ということだろう。

 もちろん、木造の山砦でしかない旧魔王城など、痕跡すら残っておるまい……。


「あれは近頃、五色連盟が新たに構築した拠点だ。各種施設はもうすでに完成しているが、まだ物資や人員の輸送に手間取って、本格的な作戦行動は始めていないようだ」


 クラスカが解説する。しかし見たとこ、急ごしらえの前線拠点というには途方もなく大規模で、もう立派な一都市のごとき偉観すら漂わせている。

 この魔王城より面積が広く、規模壮大という他にない。そりゃバハムートの構造物だから、なんでもかんでも巨大になるのはわかるが。


「こんな映像、どうやって撮影記録したんだ?」


 と俺が訊くと、クラスカは「それはだな」と応えつつ、のっしのっしと俺の隣りまで歩み寄って、コクピットにどっかと腰をおろした。


「遠隔操縦の無人小型偵察機によるものだ。この戦車は、もともと偵察隊に所属していたものだからな。少数ながら、そういう装備も積み込まれている」


 つまり最近流行のドローンか。これまた、この世界には存在しない技術だな。


「もっとも、今回は肝心なところで燃料切れを起こして墜落した。おかげで貴重な偵察機を一基失ってしまったが、そのぶん、得られた情報は大きいと思う」


 燃料切れか。敵に発見されて撃ち落とされたんじゃないだけマシかもな。もしそうなってたら、バハムート側に、こちらの存在を勘付かれて、警戒されていたかもしれない。


「さて、ここからどんどん接近していくぞ」


 クラスカが言う。映像は、白い地平をぐんぐんと降下し、銀の塔群をやや俯瞰するぐらいの高度で移動してゆく。

 建ち並ぶ建築群は、いずれもカドというものがなく、ふくらんだ円筒形にドーム状の天蓋といった組み合わせで、なめらかな曲線を描いている。


 このへんは以前見た虹都とやらの映像と同じだな。あれも直線や直角といった鋭いフォルムは一切見当たらなかった。あらゆる建築構造が、楕円形を基調として丸っこく構成されている。

 そこにどんな意味があるのかはわからんが、そういう感性でもって発展してきた文明なんだろうな、とだけは、おぼろげに推測できる。


 それらの、一見大都市でもあるような建造物群の一画を抜け、映像はその北方に広がる、灰白色の海のように舗装が施された、広大なフィールドへと移る。

 この高度からでも、はっきりとわかる……そこに整然と並んでいたのは、空間戦車の大群だ。つまりこれは、空間戦車のガレージ。


 あきらかに、いま俺たちが乗ってるものよりさらに大型で、いかにも頑丈そうな車体が、いったい何百両あるのやら、映像で見る限り、地平線の彼方までずらりと砲列を連ねて並んでいる。

 もし、俺という存在がこの世界にいなかったなら……この世界は、あいつらに一瞬で蹂躙されて、終ってしまいかねないのではないか。それほどまでに圧巻な情景だった。


 もちろん、今の俺ならば、逆に一瞬ですべて消し飛ばすことも可能ではある。あえて今回、そういうことはしないが。


「たしかに凄まじい戦力だとは思うが……」


 俺は呟いた。


「だが、この程度なら、まださほど対処は難しくないな。さっき言ってた、厄介な問題ってのは、なんだ?」

「うむ。もうそろそろだ」


 クラスカが応えた。


「たしかに、きみの言う通り、ここまでは、ただ戦力の規模が拡大したというだけの話だが……新たに発生した問題というのは、あれだ」


 映像が、数百両という空間戦車の列を俯瞰し、さらに北へ北へと進んでいく。だが速度がだいぶ落ちているようだ。もしかして、もう燃料が尽きかけてるのか?

 映像の高度がどんどん落ちてゆく。巨大ガレージを抜け、再び白い大地が映りはじめる――その片隅に、なにやら異質なシルエットが映り込んでいた。


 ぱっと見は、船……に見える。

 しかし、バハムートのものではない。基本的に流線型ではあるが、ところどころ鋭角的なフォルムを擁しており、バハムート世界ではありえない意匠であることは一目瞭然。


 ふと、映像にノイズが走り、ザザッ、と雑音が響きはじめた。どうやらドローンの墜落が近いようだ。

 それでもなおと、食い込むように、映像は謎の船へと接近してゆく。


 だんだんハッキリと、その船影が見えてきた。

 見覚えがある。


 つい先日まで、俺はそれに乗って旅をしていたのだ。それがなんでまた、こんなところに。

 ……そこに鎮座していたのは。


 どこからどうみても。

 先日、俺とリネスが異世界で遭遇した「白き船」。


 すなわち、陸上巡航船ブランシーカー。





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