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748:ようこそ魔王城食堂


 城に入ると、真っ先に迎えに出てきたのは、ミレドアとシャダーンだった。


「勇者さまー! ずっと待ってましたぁー!」


 人目もはばからず、まっしぐらに俺に胸へ飛び込んでくる金髪碧眼の美少女エルフ、ミレドア。そりゃもう愛人だしな。これくらいアリだよな。相変わらずミレドアは可愛らしい。とくに目が。くるくるっとした、朗らかな瞳が魅力的だ。


「あー、ミレねえちゃん、ずっるーい! ボクもやるー!」


 声をあげつつ、リネスが横から飛びついてきた。なんでこの子は、無駄に周囲へ対抗心を燃やすかね。かわいーけど。


「まだ他にも愛人がいたのか……本当におまえってやつは」


 アイツが、ちょっと呆れ顔に言う。いや、だってなあ、仕方ねーじゃねーか。後宮行きゃ、こんなもんじゃねーぞ。魔王だしな。


「ならアタシも! パイセン、受け止めてください、この想い!」

「やかましい」


 なぜかワン子も飛び掛ってきたので、デコピン喰らわして、吹っ飛ばしといた。いくら俺が節操無しといえ、さすがにJKの皮を被った名状しがたい何かまで愛人にした覚えは無い。……いや、なんか先日、乱交の場にいつの間にか混じってた気はするが。それはそれっていうか。

 常人なら、死なないまでも気絶して動けなくなる程度のダメージは与えたはずだが、ワン子は平然と起き上がってきた。


「くぅっ、なかなか手強いですねパイセン! ですがいつか、身も心も攻略して、アタシにメロメロにさせてやりますよ! まずは触手プレイとかでじっくりSAN値を削っていきしょう!」


 やめんか禍々しい! どっから出したそのうねうねする触手! だんだん本性出してきやがったなコイツ……。


「ホホホ、賑やかなことだねえ」


 シャダーンが、肥えた腹を揺すりながら、声をかけてきた。


「そういや、オマエとミレドアは、ツァバトと一緒に、ずっと城にいたんだよな?」

「ああ、そうさ。なんせ誰かさんが、急に行方不明になっちまったからねえ」

「ありゃ偶発的な事故だ。最初は、そこの邪神の仕業かとも思ったが、そういうわけでもなかった」


 空に走る真っ黒い亀裂――次元断裂とか空間断裂とか呼んでるが、べつに正式名称があるわけではない。ともあれ、あの謎現象が、近頃さらにおかしな状態になっているようだ。ヴリトラどもが突然吸い込まれて、こっちの世界に来ちまったりな。多分、俺とリネスが巻き込まれたのも、そういう断裂の活発化による事故だろう。それについての対策も、これから構じねばなるまい。


「ここじゃ、アタシにできることなんて、何もないからねえ。占いカウンターで小銭を稼いでたよ」


 ダスクのミレドアの店でやってみたいに、この城内にも勝手に占いカウンターを設置して、お悩み相談とかやってたらしい……。たくましいというか、なんというか。

 そりゃ魔族にも色々と悩みはあるしなぁ。日光に弱いとかニンニクが苦手とか、あるいは胸に杭を打たれたら死ぬとか……いやそれ誰でも死ぬわ。俺以外は。





 ハネリンがしきりに空腹を訴えてくるので、まずは食事――ということで、俺たちは、ぞろぞろ打ち揃って、城の食堂に入った。

 床が打ちっぱなしコンクリート風で、内壁が木目の板張りになってて、短冊状のメニューがずらりと貼られている。親子丼とか、うどんとか、蕎麦とか納豆定食とか焼き魚定食とか。椅子とテーブルも、いかにも安っぽい木製で、カウンターもあるが貧相で狭っくるしい。


 そう、ここは魔王城食堂。なぜかそこらの定食屋っぽい、なんとも世知辛い内装が魅力の、わが懐かしの食堂だ。


「おおっ! 陛下! ようやくいらっしゃいましたな!」


 ここの店主にして魔王城の料理長たる畑中洋介さんが、カウンターで出迎えてくれた。畑中さんは歴とした魔族で、種族はインキュバスなんだが、外見は人間のおっさんと見分けがつかない。料理大好きな悪魔であり、三度のメシより料理好き。いやメシ作れるんだからそれ食えよ。一応なんでも作れるが、基本的に和食の鉄人である。ゴーサラ砦のシェフ、畑中功は弟らしい……。

 畑中さんとは、先日、一度魔王城に帰還した際にも顔をあわせている。だがあのときは色々慌しくて、食堂でメシ食う間もなかったからな。今回は久々に、畑中さんの和食をいただきたい。


「ここって……まるで、学校の近所にあった定食屋みたいだな」


 アイツが、驚き顔で呟いた。すごく懐かしげな様子。そりゃ、もともと日本人だもんなぁ。やっぱ定食屋は日本の庶民のオアシスだよ。


「見ためだけじゃなくて、味も定食屋そのものだぞ。なんでも旨いし」

「へええ……! じゃ、じゃあ、鯖味噌はあるの?」


 おお、定食屋といえばサバミソ。サバミソ定食。


「もちろん、ありますよー。人気の定番メニューですからね」


 畑中さんが上機嫌で応えた。というかアイツって、一応、名家のお嬢様のはずだが……いや、学生の頃は、俺と一緒によくジャンクフード食ってたし、定食屋もちょいちょい行ってたな。たしかそのときも鯖味噌食ってた気がする。好きなんだろう。


「よし、じゃあ、せっかくだし、今日は全員、鯖味噌定食にしようか。俺の奢りだ、ごはん大盛りもいいぞ!」


 俺がおごそかに宣言すると、一斉に歓声が沸きあがった。異論はないらしい。この世界って、エルフも割と和風寄りで、魚料理にも抵抗ないからな。


「おかわりはー?」


 ハネリンが聞いてくる。


「かまわんが、みんなの分まで食っちまわないよう加減しろよ」

「はーい!」


 元気よく返事するハネリン。こいつ食欲魔人だからなあ。油断してると、お櫃がすぐカラッポになっちまいそうだ……。

 全員テーブルについてほどなく、ほかほか湯気をあげる鯖の味噌煮定食が、どんどん運ばれてきた。鯖味噌、大盛りごはんに豆腐の味噌汁。しば漬けも添えられてる。


 さっそく鯖味噌に箸をつけてみる。


「……んまい」


 柔らかい身、ほろりとくる舌ざわり。じんわーりと沁みるような、味わい。決して上品ではないが、ゴハンにやたら合いまくる、この味噌味。これだよこれ。

 いやー、ようやく、本当に、帰って来たんだな。魔王城に。


 まさか、鯖味噌でそんなことを実感するとは思わなかったが……。



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