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746:振り下ろす白刃


 もうはや至近距離まで、光の巨蛇――エロヒムのコアが迫り来ている。

 猶予は無い。


 なぜかツァバトが差し出してきたかぼちゃパンツを、俺はもう面倒とばかりひっ掴んだ。

 といって、捨てる間も惜しいので、そのまま直刀の柄に添えて……パンツごしに、あらためて直刀を握って、構え直す羽目に。


 緊迫の場面のはずなのに、なんとも締まらないことおびただしい……というかもう変態の所業だ。好きでやってるわけじゃねーけど!


「よしよし。それでよい」


 なぜかツァバトは満足気だ。なんでそんな、やりきった、みたいな顔してんだよ!

 ともあれ、光の巨蛇めがけ、俺は振り上げた刃を、まっすぐ振りおろした。


 この空間では、俺の精神力がそのまま攻撃力になる――という話なので、なるべく意識を集中し、一気に、まっぷたつに、ぶった斬るイメージを込めて、特大直刀の刃を、光の巨蛇の輝く胴へと叩き込む――。

 ガズッ! と、まるで冷凍肉を包丁で切るような手ごたえが伝わってきた。


 一応、刃はコアの胴に入った。入りはしたが――。

 一気にスッパリ斬り落す、というふうにはいかなかった。


 堅い。とにかく硬い。いや本当にこれ、カッチカチの冷凍肉をムリヤリ切ってるような感覚だ。

 相手が固すぎるのか、あるいは俺の精神力が不足なのか――さらに集中し、気合を入れて、刃をぐいぐいと押し込んでゆく。


 三分の一ぐらいまで、どうにか食い込ませたが……そこらへんから、なにか芯のようなものに当たって、まったく刃が通らなくなった。

 これは想定外の事態だ。マズい。もう時間もあまり残ってないってのに。


「心配はいらぬぞ、アーク」


 横から、ツァバトが微笑みかけてきた。全裸で。


「この我がついておるのだ。今の汝に、不可能などない」


 そう囁きながら、そっと俺に寄り添ってきた。全裸で。

 途端――。


 刀の柄を包んでいる、かぼちゃパンツ……が、いきなり白く輝きはじめた。

 新たな力が、俺の掌を通って、全身へと流れ込んでくる。……白く輝くかぼちゃパンツから。


 おそらくこれは、ツァバトの精神力。なんともすさまじいパワーを感じる。ひょっとして、こと精神力に限っていえば、俺のより強いんじゃねーのかこれ。それはそれとして、なんでよりによって、脱いだかぼちゃパンツ経由なんだよ……。このために、わざわざ俺にパンツを握らせたのか……?

 色々とツッコミ入れたいところではあるが、今は後回しにせざるをえん。


 なんにせよ、俺とツァバト、二人分の精神力が、直刀の刃に乗って、いまや切れ味は何倍にも跳ね上がっている。これなら――。

 ――斬れる!


 一旦、直刀を巨蛇の胴から離して振り上げた。

 そこから再度、気力の限りを尽くし、俺とツァバトの怒りを乗せて――。


 巨大な刃を、一気に振り下ろす!

 白刃が唸りをあげて、まるで栗きんとんでも斬るように、今度はたやすく、巨蛇の胴を両断した。


 あんなに悪戦苦闘してたのに、かぼちゃパンツが光っただけで、こうもあっさり斬れるとは。

 侮れんな、かぼちゃパンツ……。


「ふふふ。ご苦労だったな、アークよ」


 ツァバトが、やけに慈愛に満ちた目を向けてくる。いや、やめろよその目! 絶対なんかロクでもねーこと考えてるだろ!


「見事、目的を果たした褒美として、この場で我を自由にさせてやろう。ほれほれ、いまなら(自主規制)でも、あるいは(もっと自主規制)でも、なんなら(乱れ飛ぶ自主規制)でも、好きにするがよいぞ? なにせここは現実空間ではないからな、誰も見ておらぬし」


 だからイラネェっての! そんな目で俺を誘惑するんじゃねえ! とびっきりの笑顔で、全裸でしなだれかかるんじゃない! やばいこの子めっちゃ可愛い! この性癖なんとかならんのかよ! アカン超いとおしい! いや駄目だそれだけは! ああ押し倒したい! それやったら今度こそ運営様からアウト食らって連載終わるー!


「……ぬうう。ツァバト」


 俺は、かろうじて内心の衝動と葛藤を全身全霊で抑え込んだ。なんか別次元の叫び声が入り込んでた気もするが。


「まだ……終わってないだろ。切り落としたコアを吸収するんじゃなかったのか」

「ふっ、そうだったな。仕方ない、では続きは、戻ってからだ。あ、パンツはそのまま持っておるがよい」


 ツァバトは、いかにも残念そうに応えると、俺のそばを離れ、ふわりと宙を舞って、両手を前方にさしのべた。全裸で。

 というか、パンツなぁ。別にいらんけど……。


 いま斬り離したばかりの、エロヒムのコアと相対するツァバト。そのコアの切れっ端が、不意にキラキラ輝き、光の細粒のような状態に分解されつつ、ツァバトの胸元あたりへ、ぐんぐん吸い寄せられていく。おお、すごい吸引力。

 光る粉みたいに分解されたコアの切れっ端が、さながら天の川でもあるような輝く軌跡を描いて流れ、ツァバトの胸へと吸い込まれてゆく。


 吸収って、ああやるのか。そういや最初に、俺がエロヒムのコアを放り込まれたのも、胸元だったな。

 ともあれ、これで俺の霊基が侵食を受ける恐れはなくなったと。


 一件落着……かな?



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