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744:当たれば死ぬ戦い


 精神世界においては、俺の魔力も身体能力も、あまり役に立たない。

 たとえ力が山を抜き、意気が世を覆おうが、ここでは無意味。


 だがツァバトがいうには、精神力がイコール攻撃力になるそうで、イメージとイマジネーション次第で、どうとでも戦いようはあるという。ゆえに、対集団戦闘に適した戦法として、俺達はイメージ作成した銃器による強行突撃をチョイスした。

 俺はアサルトライフルっぽいもの、ツァバトは短機関銃っぽい何か。


 本来の俺なら、銃火器なんぞより素手のほうがよっぽど強いし、こんな特殊な状況でもなきゃ絶対に使わない武器だけどな。

 俺達は肩を並べ、前面へ銃撃を放ちつつ、銀の抗体幼女の大群、その真っ只中へと突っ込んで行った。


 撃ち出す銃弾は、もちろん鉛弾ではなく、持ち主の精神エネルギーの塊。したがってリロードの必要もなく弾数も無制限。精神力が尽きるまで――という条件付きではあるが、凡人ならともかく、いまの俺様にそのような事態はありえない。


「どけどけぇー!」

「消えさらすがよい!」


 口々に叫びつつ、突貫開始。ツァバトもすっかりノリノリだ……。

 俺達がデタラメに乱れ撃つ無数の精神弾が、流星群のごとき輝く軌跡を描いて、前面群がる抗体幼女たちを次々に打ち抜き、消滅させてゆく。しかし幼女たちも負けてはいない。次から次へと現れては、俺達の前に壁のように立ちはだかり、隙間なく隊列を組んで、「うりゃー」「ちょいやー」「えーい」「あたーっく」とか甲高い声で喚きつつ、手に手に銀色の槍を投げつけてくる。見た目はなんとも可愛らしいんだが……。


「あれに当たってはならんぞ。今の我らでは、一本でもまともに食らえば致命傷になりかねん」

「げ、マジかよ。……そうか、ここは外の世界とは法則が違うんだったな」


 幼女たちが投げ付けてくる槍もまた、精神エネルギーの塊だ。それも大精霊のアストラル体から作り出された、非常に強力なエネルギーを湛えている。同じ精神体ではあるが、俺達とは位相が異なり、かするだけでも大きなダメージになるのだとか。

 とはいえ、当たらなければどうということはない。俺とツァバトは、弾幕を張って、飛来する槍を片っ端から打ち落としつつ、さらに前進して幼女の壁へぶち当たり、強引に突破をはかり続けた。


「うおっと、危ねえ!」


 突進を繰り返すうち、側面からも抗体幼女の攻撃が飛び始めた。投げ槍ばかりでなく、こちらの弾幕をすり抜け、ナイフっぽい武器をかざして突っ込んで来る個体もいる。間一髪のところで身を翻して突進をかわし、素早く反撃して消し飛ばす――とかやってるうち、左右からも、さらには背後からまでびゅんびゅん槍が飛んで来るようになり、いよいよ対処が難しくなってきた。


「くそ、きりがないぞ! どんだけいるんだ、こいつら」

「すっかり包囲されてしまったな」


 見渡せば四方皆敵、幼女抗体の大群が、これでもかこれでもかと列を連ねて集まってくる。


「どいつもこいつもツァバトに似てるのが不思議だな」


 と、対応の傍ら、ふとそんな疑問を口にしてみた。


「それは逆だ」


 ツァバトは苦笑を浮かべつつ応えた。


「あれらこそ、エロヒムの理想の幼女像なのだ。そして我は、長年かかってエロヒムの嗜好を研究し尽くし、依り代の容姿を極力それに近付けた。似ていて当然だろう」


 なるほど、あっちがツァバトに似てるんじゃなくて、ツァバトのほうがエロヒムの理想像に寄せた結果、抗体幼女たちと似たような外見になったというわけか。





 一進一退――体感で、すでに一時間くらいは経ってるだろうか。突進しては、わずかに退いて、さらに突進。完全包囲下にありながらも、ここまでは、どうにか無傷で攻め続け、じりじりと前進している。

 疲労のようなものは特にないが、とにかく気を抜けない。俺がこれほど大真面目に、緊張感をもって戦闘に臨むなんて、そうそうあることじゃない。一撃でも当たればアウト――そのスリルが新鮮ではある。楽しんでるような余裕はさすがにない。


「当たれ当たれ当たれー!」


 眼前の一集団を、横薙ぎの連射で瞬時に消し飛ばす。消える瞬間に「ほにゃああー」「うきゃー」「はみゃあ」とか、断末魔にしては無駄に可愛らしい声を響かせるので、悲壮感みたいなものは全く感じない。

 少しずつ、抗体幼女らの行動パターンが読めてきて、銃撃の精度も上がってきた。もう目視だけで予測射撃が可能だ。幼女側の反応は相変わらず素早い。隊列に穴があいても、的確にフォローが入る。反撃の手槍もびゅんびゅん飛んで来る。しかし、かなり数が減ってきたようだ。


「あれら抗体も、決して無尽蔵に作り出せるわけではない。あやつが霊基のカケラ全てを吸収するためには、一定以上の精神エネルギーが必要になるのでな。それを温存しながら、我らにも対処せねばならんのだ。そろそろ限界が近付いておるようだな……おっと、まだ来るか!」


 ツァバトは、解説しつつ、短機関銃を逆手に抱えて、突貫してきた幼女の一個体を見事な体術でさばき、その後頭部へ銃把を叩き込んだ。そんな使い方もありかよ!?


「ふみゅみゅみゅ……」


 銀の抗体幼女は、頭を抱えてうずくまりながら消滅した。その仕草がまたなんとも可愛い……じゃなくて。見とれてる場合じゃねーな。


「ふっ、我に奇襲を仕掛けるなぞ、五十億年早いわ」


 ドヤ顔なツァバト。五十億年も経ったら星が寿命を迎えそうな気がするが……。

 ふと見れば、周囲の抗体幼女どもの姿も、だいぶまばらになっている。動きもすっかり鈍っており、緩慢に付近を飛び回るだけ。もはや、こちらに攻撃してくる者も少ない。


 すでに俺の霊基たる黒い巨塔は、もう指呼の間にそびえている。それにがっしりと巻き付いている光の巨蛇の姿もまた、ほぼ眼前にまで迫っていた。


「ここからどうするんだ?」

「うむ。汝はここにとどまり、残る抗体どもを始末しておるがよい」


 俺の問いかけへ、ツァバトが応えた。


「我は、これより、あやつの注意を引きつけ、引き剥がしにかかる」

「引き剥がすって、どうやって」


 と訊くと、ツァバトは、短機関銃を虚空へ放り捨て、キリッ! と光の大蛇を鋭く睨みつけた。


「むろん、お色気作戦だ」


 なんだそれ……。いや、エロヒムには有効なのか?

 ……ああ、ツァバトがここまでわざわざパンツ一丁で来てたのって、そういう。



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