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730:その系譜に連なる者


 かつて東霊府の長を務めた「賢者」ボッサーンの一人娘、リネス。

 実年齢は二十五歳……とはいえ、エルフは人間の四倍の寿命を有するかわりに、成長及び老化速度が人間の四分の一以下という種族だ。リネスも人間換算ではまだ六歳か七歳相当の子供。外見に至っては、同年代と子供らと比較しても小柄で痩せぎすで、さらに幼く見える。


 そんなリネスだが、こと魔法の才能と実力に関しては、エルフの森全体でも飛び抜けている。俺が見たところ、現長老サージャや前長老メルにも引けを取らない魔法の天才だ。

 もともと高い素養があったのだろうが、歩く巨大魔力タンクというべきサージャなどとは違って、リネスの保有魔力量そのものは、エルフの平均的な水準でしかない。リネスがこの年齢にして、大魔術師というべき実力を身につけるに至ったのは、やはり幼少から優秀な教師について学んでいた点も大きい。そのリネスの師匠筋こそ、魔術師レンドルの技術と知識を代々継承してきた、いわばレンドルの系譜に連なる者たち。それを今日に受け継ぐリネスもまた、現代におけるレンドルの弟子筋というも過言ではあるまい。


 ……などという事情を、七百年前から地縛霊やってるレンドル本人が知る由もない。しかしレンドルは感じ取っていたようだ。リネスの纏う魔力が、自分とゆかりのあるものだということを。


(おいガキ、おまえ、名前は?)


 レンドルに訊ねられて、リネスは少々ムッとしたように答えた。


「リネス。東霊府の長だったボッサーンの娘だよ。いまはアークの愛人だけど」

(愛人……?)


 ふと、レンドルが俺にジト眼を向けた。やめろ誤解だ。そんな眼で俺を見るんじゃねえ。いや実際今の俺はガチロリコン大精霊エロヒムと融合してて、実にヤバい状況なんだが、なぜかリネスにだけは、そういう感情が一切湧かない。ゆえに本当に誤解なのだ。


(……ふっ。人それぞれだな。オイラもまあ、年下の魅力にやられて、結婚までする羽目になっちまったしなあ)


 それミレドアの曾祖母のことだな。そういやミレドアの家で読んだ日記には明言されてなかったが、文体など見るに、若いというか……少女っぽいイメージがあった。つまりレンドルもロリコンだった可能性が……いや今はそんなことはどうでもいいが。


(まーいいや。んでよ、リネスだったか。おまえにひとつ、聞きたいことがあんだけどよ)


 レンドルは再びリネスへ向き直った。


「なに?」

(……☆○●◎★☆○●◎★)


 ん? いまなんつった?

 なんかよく聴き取れなかったというか、まったく意味不明の記号っぽい羅列のようだったが。


 首をかしげる俺の傍らで、リネスが、ふんふんとうなずいてみせた。


「○△▲◎☆□☆○△▲◎☆□☆」


 レンドルの問いかけに、リネスも、まったく澱みなく、わけのわからん記号で応えた。どういうことだ。

 リネスの答えを聞くと、レンドルは莞爾として渋い笑みを浮かべた。


(ふふふ、そうか、やっぱりそういうことか。オイラの魔術コードは、オイラが死んでも、きっちり受け継がれてたんだな。エウリードめ、いい仕事をしてくれたぜ)

「あ、その名前、聞いたことあるよ。ボクの師匠の、そのまた師匠だね」

(エウリードはオイラの弟子よ。正直、あんまり出来のいい弟子とはいえなかったが、ちゃんとオイラの言いつけは守ったみたいだな)

「……どういうことだ」


 と、横から俺が訊ねると、リネスがこちらへ向き直って説明した。


「レンドルの魔法ってね、プロテクトがかかってるんだよ。その解析コードを受け継いだ魔術師でないと、レンドルの魔法を使えないようになっててね」

(そう。それを受け継いでる奴が来るのを、オイラはここでずっと待ってたようなもんだ。まさか、こーんなちっこいのが来るたぁ予想できなかったがな。だが素質は十分すぎるほどだぜ)


 レンドルの弟子エウリード……かつてレンドルが、魔王軍との大戦に従軍すべく、ダスクに妻を残してエルフの森を出ようとしたとき、いきなりレンドルにジャンピング土下座をかまして弟子入りを志願してきた少年がいた。それが当時、エルフの森では評判の天才魔法少年といわれるエウリードだった。以後は常にレンドルの側近くに仕え、ほどなくレンドルが勇者パーティーの一員となり、ゴーサラの畔で落命するまで、身辺の世話などしつつ、その特殊な魔術を学んでいたという。

 レンドルの死後は、その遺命にしたがってエルフの森へ戻り、魔術道場のようなものを開いて、最高位の高弟一人にのみ、新生属性魔法……レンドルの魔術の解析コードを受け継がせた。その高弟が、後にボッサーンに招かれてリネスの家庭教師となり、新生属性魔法をリネスに授けている。


 ここでリネスが、始祖たるレンドルの幽霊と邂逅したというのは、これもまた何かの巡りあわせというべきか。


(おい、アーク。ついでだ、てめぇもちょっと手伝え。これからリネスに、特別授業をやってやるからよ)


 いきなりぶしつけに告げてくるレンドル。なんだそりゃ。俺に何かできることがあるとも思えんが……。


「特別授業?」


 と、リネスが訊くと、レンドルは大きくうなずき、不意に鋭い眼光でリネスを射抜いた。


(オイラが死ぬ間際に悟り、完成させた、瞬間移動魔法。それを受け継げるのは、この世でリネス、おまえ一人だけだ。その術式を含むオイラの魔術の奥義を、おまえに授けてやろう。エウリードにはあえて教えなかったものまで、全てを……な。覚悟はいいか?)



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― 新着の感想 ―
[良い点] とても良く出来た世界観の小説ですね。 一週間掛けて一気読みしてしまいました。 次回更新が楽しみです。 [気になる点] 色んな伏線回収も終わって、作品自体のエンディングが近いのかな、と寂しく…
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