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724:昔馴染みとマブダチ


 俺とアイツは、アズサらとともに野外で火を囲み、軽く一睡をとった。

 やがて夜が明ける。


 テントからは、まずアル・アラムが起きてきて、手馴れた様子で石を積んで竈を組み、鍋に火をかけて、朝食の仕度に取り掛かりはじめた。軍隊の中で雑用をやってただけあって、実に野営慣れしてる。

 ほどなくハネリンがテントから飛び出してきて、川べりでぶんぶん剣を振りはじめた。以前にも見かけたが、まだ続けてたんだな。あの朝練。相変わらず凄まじい豪剣だ。型もなにもなく、ただ腕力とセンスだけで、どんな達人も及ばないほど鋭く強烈な太刀筋を繰り出している。脳筋もここまでくると清々しい。


 そうこうしてるうち、リネスとフルルも、ふらふらとテントから起き出してきた。まだ眠そうだな。

 パッサはまだ寝てるのか……と思いきや、いつの間にかアル・アラムの脇で、肉を切り分けたり、魚を串に刺したり、楽しそうに手伝いをしていた。甲斐甲斐しく食材をいじくってる姿は、本当に女の子そのものに見える。外見的にもアル・アラムとよく釣り合いがとれてて、中学生カップルとかに見えなくもない……。いやパッサは男の娘だし、アル・アラムはエルフでは少数派のノーマル性癖らしいので、あの二人がおかしなことになる可能性はないけど。


 最後の一人、ティアック・アンプルは、なかなか起きてこなかった。あいつはいかにも朝弱そうだしな。結局、アル・アラムに叩き起こされて、ずるずるとテントから這い出てきた。

 ようやく全員揃って朝食、となったところで、俺はあらためてアイツを紹介した。


 当初、およそ皆の反応は「またこの色ボケ魔王が新しい女を拾ってきた」ぐらいのものだったが、俺と同郷の異世界人、それも昔馴染みである点を説明したところで、リネスが熱心に食いついてきた。


「へええ、じゃあ、アークと同じ学校行ってたんだよね? ねえねえ、アークって、あっちじゃどんな風だったの? やっぱケンカとか強かった?」


 なんでこんな食いつき良いんだろうと思ったが、そういやリネスは先日、俺と一緒に昭和の日本っぽい変な世界に飛ばされて、色々と見ている。俺の妹という設定のオマケ付きで。なんとなく、日本人のアイツに親近感が湧いたのかもしれない。それをいうならアズサもそうなんだが、なんせ見ためがな……。

 アイツはリネスの質問に微笑んで答えた。


「いや、昔は物静かで、あまりトラブルに顔を突っ込むタイプではなかったよ。時間にルーズで、ちょっとガサツなところはあったけど。女子にはすごくモテてたな」


 こら余計なことを。だいたい、そんなの俺自身、当時はまったく知らなかった話だ。アイツ以外とは、あまり話す機会を持とうとしなかったので、傍目には物静かという印象はあったかもしれない。

 ともあれアイツも、問題なくこの集団に迎え入れられた。ハネリンが言うには「なんだかレマちゃんとフンイキ似てるよね! 仲良くなれそう!」だそうで。レマールと似てるか……そういや、あれも、いかにも男装が似合いそうなタイプだったな。ヅカ的お耽美感というか、そういう共通点はあるかもしれない。


「やあ、みなさんお揃いのようで」


 ちょうど朝食を済ませたところへ、居並ぶ全員の前に、まったく唐突に人影が出現し、にこやかに声をかけてきた。亜麻の衣をゆったりまとい、銀の竪琴を抱えた黒髪白皙の美青年……いうまでもなくルードだ。

 驚く一同の前で、ルードはよっこらしょと焚火の前に腰をおろし、ふところから椀を取り出すや、鍋から残り物の粥を勝手に掬って、静かに啜りはじめた。


「ああ、これは美味ですね。野外料理とは思えないほど凝った味付けですよ」


 まだ呆気にとられている面々を見渡し、爽やかな笑みとともに感想を述べるルード。これはあれか。ツッコミ待ちってやつか。しょーがねえ野郎だ。


「ルード。いきなり出てくるなよ。もう少し普通に合流できなかったのか」

「ああ、皆様を驚かせてしまいましたか。アークさんが事前に説明してくださってると思っていたのですが」


 いや、ルードが合流するって話自体、ほぼ忘れかけてたけどな。もうさっさとここを引き払って出発するつもりだったし。


「え……アークさんのお知り合いで?」


 ティアックが訊いてくる。俺は、なんというか、渋々ながら「……そうだ」と首肯した。


「ええっと……なんか、前に会った、よね?」


 ハネリンが横から呟いた。ん? そういや、ハネリンは魔王城からエルフの森へ向かう道中、ルードに世話になったとかいう話、聞いたような聞かないような……。


「ええ。しばらくぶりですね、ハネリンさん」


 ルードは、爽快イケメンスマイルな流し目で応えた。


「では初対面の方々、改めてご挨拶を。私はルード。得意技は、いまご覧に入れました瞬間移動。旧王都からここまで、一瞬で飛んでまいりました」


 と聞いた瞬間、リネスの瞳がキラと輝いた。相変わらず、こういう話には興味が全力で向くようだ。

 ルードは穏やかに自己紹介を続ける。


「職業は、エルフの森で高利貸しなどを少々営んでおります。そして何を隠そう、アークさんのマブダチです」


 こんなマブダチ知らねーよ! いやもう本当に誰かこいつをなんとかしてくれ!



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