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 突如、この場に現れた七仙。

 ルードがいうには、あらかじめ、こういう事態を予想して、森野大精霊子さんに援助を依頼していたらしい。


(まだそのネタ引っ張りますか?)


 ふと、どこか遠くから、声が聴こえたような気がする。いや気のせいだろう。森野センパイはいま、中央霊府の地下の特殊空間……エリュシオンにいるはずだ。サージャと俺の婚儀のために、準備などで忙しいと聞く。で、自分では動けないため、七仙を代理として派遣してきたのだろう。


(やーい悪魔悪男ー)


 やめーやその名前! ていうか、やっぱハッキリ聴こえてるよ森ちゃんの声!


(七仙を機能拡張するついでに、念話中継用のマイクロチップを埋め込んでおきました。彼らが近くにいる間は、わたしと念話が繋がりますよ)


 あー、そういうこと……。マイクロチップって、そんな技術をいったいどこから導入したのか。そりゃ森ちゃんの能力なら、大概のことは不可能ではないだろうけど。


(無事に彼女と再会できたようで何よりです。ですが、あなたはうちのミルサージャちゃんのお婿さんでもあるんですからね。彼女とイチャつくのは、ほどほどにしておいてください)


 別にイチャついてねーし……まだ。

 それに、それはそれ、これはこれだ。ハーレム持ちであるがゆえに、そういう分別は、意識せずともキッチリやっている。恋慕と愛情が別物ということもな。


(はいはい。せめてミルサージャちゃんを泣かさないよう、振る舞いには気をつけてくださいね)


 あ、なんか微妙に信用されてない……。しょーがねーなもう。せいぜい気を付けておこう。


「……この人たちは?」


 横から、アイツが訊いてきた。ちょっと驚いてる。なんせ瞬間移動でいきなり出現してきたからな。


「こいつらは、七仙といってな。見た目はエルフだが、実は生き物じゃない。限りなく人間に近い超AIロボットみたいなもんだな」

「この世界にも、AIなんてあるのか?」

「俺だって、つい最近まで、そんなものがあるとは思わなかったが……こいつら本当に無機物だからな。そうとしか説明しようがないんだよ。あまり細かいことは気にするな。おまえの仕事は、こいつらが引き継いでくれるってさ」

「はあ……」


 まじまじと七仙を眺めるアイツ。火仙アグニや水仙メビナ、光仙アンジェリカなんかは、あまり特徴の無い白いローブをまとっていて、まだ比較的まっとうなエルフに見えるが……風仙ビョウは相変わらずロケンローな鋲打ち黒革ジャケットにツンツン頭の鶏ごぼうだし、金仙マテルは赤いハードレザーにキンキラキンのアクセが光りまくりのメタル少女だし、闇仙デモーニカに至っては……どっからどう見ても、黒装束の忍者。まだ忍者ごっこやめてなかったのか。

 あらためて見ると、珍妙としか言いようがない集団だ。あとはひたすら地味で目立たない駄目なチビっ娘とか。


「いま、どっかでアタイのことボロカスいう声がきこえた気がする」

「気のせいだぞキャクよ」


 土仙キャクは変わらずのイジられ芸人っぷり。かわいい奴め。地味だけど。

 ふと、金仙マテルと目が合った。――ミニスカメタル少女だが、今日のパンツは何色だろうか。いやどうでもいいんだけど。


 そのマテルが、腹のあたりをさすりながら呟いた。


「ああ、勇者さま。どうか責任を……」

「誤解を招くようなマネすんじゃねえ」


 おかげでアイツにちょい怪訝な眼差しを向けられてしまった。いや、森ちゃんはこいつらの修理は完了したって言ってたが……。


「さあ始めようか。荘厳なる闇、深き漆黒に燃ゆる蒼き炎、悲しくも麗しき宿命の翼を広げて……」


 オマエはもう何言ってんのかわかんねーよデモーニカ! 一言ごとに変なポーズ取るのやめい! やっぱまだどっか壊れてんだろコイツら!



 旧王都の警備と新魔王城の建設関連は、とりあえずミーノくんと七仙に任せる、ということで、一応この場の話はまとまった。


「俺はもう行くぞ。カンニス河の畔に、お供の連中をキャンプさせてるんでな。いったんそっちに戻って、明朝、あらためて北へ出発する」


 と俺が告げると、アイツは鼻息荒く俺の腕を掴んだ。


「もちろん、俺もついていくからな?」

「わかってるって。そう慌てるな」


 そんな俺たちの様子に、何かほほえましいものでも感じたのか、ルードはやけにほっこりした顔つきで言った。


「では、お二人は先に、そのキャンプへ向かってください。その間に、私は七仙への仕事の引き継ぎと、兵隊たちへの記憶改竄をやっておきますので。明朝までには私も合流いたしますよ」


 なるほど、記憶改竄ね。そりゃー領主である子爵様が、突然何もかも放り出して旧王都から出奔しちまうわけだからな。このまま事態が推移すれば現場は大混乱だろう。そうなる前に、こっちに都合のよいように、兵隊どもの記憶を書き換えちまうと。具体的に、どんな方法を用いるのか、ちょっと興味がないでもないが……どうせルードのことだ。訊いても、企業秘密だとかいって、教えてくれんだろう。


「あの、勇者さま」


 つと、光仙アンジェリカが、俺に歩み寄ってきた。穏やかな微笑、優美で上品な物腰。もう見るから癒し系の、ふんわり、蕩けるような雰囲気の美女。なるほど、これが本来のアンジェリカか。以前会ったときは色々壊れてたからなあ。


「森の大精霊様からのお預かり物です。北へ向かわれるついでに、これを、大精霊ツァバト様に届けていただきたいと」


 そう言って手渡してきたのは、掌にすっぽり収まるサイズの、錫の小壷。なんだこりゃ。

 首をかしげていると、また森ちゃんの念話が届いた。


(ツァバトから注文がありまして。その中身は、エリュシオンにのみ自生する、特殊な魔法触媒の材料となるものです。ツァバトは、わたしを通販サイトか何かだと思ってるんでしょうか、まったく……)


 いやそんなこと俺に言われましても。


(とにかく、ツァバトのところまで配達をお願いします。会員限定送料無料のお急ぎ便で)


 なんの会員だよ! そんなサービスやってねえよ!

 ……と、色々あったが、やがてルードと、目をさましたミーノくん、七仙らに見送られ、俺はアイツをお姫さま抱っこして、星降る夜空へと舞い上がり、旧王都を離れた。


 なんとも騒がしい奴らだが、七仙ならば、土木建築ぐらい造作もあるまい。後のことは、あいつらに任せてよさそうだ。俺たちは、急いで北を目指すとしよう。



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