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721:七仙ふたたび


 儀式は済んだ。

 あとは、互いの現状に対する認識をもう少し擦りあわせて、今後どうするかを取り決めねばなるまい。


 なにせ、俺はいま、バハムートとの戦場へ向かう途中なのだ。たまたま用事があって寄り道した先で、まさかアイツと再会することになろうとは、つい先ほどまで夢想だにしていなかった。

 アイツはアイツで、現在はこの地における新魔王城の建設計画に深く関与しており、領兵を統率して旧王都の警備と区画整理を行なうかたわら、仲介役のルードを介して、現場責任者のミーノくんとあれこれ話し合っている真っ最中だという。


 ようするに、お互い、多忙というにもほどがある立場だ。

 お付き合いする――という点では合意したものの、どうも当分、呑気に逢瀬など楽しんでいられる状況ではない。


 ……はずだが。


「俺は付いていくからな! そのためなら、いまの立場も、仕事も、ぜーんぶ放り出す。ここでおまえに会えた以上、領主ごっこを続ける必要もなくなった。だいたい、オッサンの変装なんて、もう嫌だ」


 って、いきなりワガママ全開かよ!


「だが、おまえがいなきゃ、ここの兵隊どもはどうするんだ。うちのミーノくんは築造奉行だし、それで警備の仕事も並行でやれるほど、器用じゃないしなあ」

「なんせ牛だもんな……」

「二足歩行の牛だけどな」

「ああいうファンタジーな存在を見てると、確かにここは異世界なんだなって実感できるよ。俺の領地には、魔族なんていなかったからなぁ」

「人間ときちんと意思疎通できる魔族って、それほど数は多くないからな。ミーノくんは、言語こそ話せないが、あれでかなりまともな部類だ」


 ああ見えてもミーノくんは高位魔族、知能は人並み以上。とはいえ実務家として、そう有能というわけでもない。腕っぷしだけなら魔族最強だけど。


「そういえば、おまえはルードさんとも親しいんだっけ。俺はよく知らないけど、この世界では有名な実業家だって聞いてるぞ。あの人なら、なんとかしてくれるんじゃないか?」


 アイツが言う。有名な実業家……。たしかに、中央霊府じゃちょっと名の通った高利貸しだけどな……。物は言いようだな。

 俺は首を振った。


「親しい……というほどじゃない。そりゃ、ルードに任せりゃ、後のことはどうとでもなるかもしれんが」


 おそらくルードならば、アイツがこの場を去っても、ミーノくんと協力して魔王城の建造を続けてくれそうだ。だが、そうなると、俺はルードにまたしても大きな借りができてしまう。あの人外闇金融が、その後どんな代償を要求してくるか……想像するだけで気が滅入る。利息はやっぱりトイチかね。

 しかし、アイツのワガママを受け入れるには、やはりルードの協力を取り付けるしか手はなさそうだ。


 だいたい、ルードは今日、俺とアイツの再会をわざわざ斡旋した張本人でもある。あるいは、こういう事態になることもハナっから織り込み済みなんじゃないか?





 ……というわけで、俺とアイツ、二人して天幕から出たところで、ルードがにこやかに待ち構えていた。

 もうすっかり日は暮れて、深夜にさしかかっている。天幕の周囲には盛んに篝火が焚かれていた。随分長いこと、アイツと話し込んでしまったようだ。


 ミーノくんは……待ちくたびれたのか、なんか篝火のそばに座り込んで寝てる。べつに待ってなくてもよかったのに。


「無事に再会を済まされたようですね。実にめでたい」


 やけに機嫌よさげに声をかけてくるルード。周囲に他の人影はない。おそらくルードが人払いしておいたのだろう。

 アイツは、そんなルードの様子に、なんだか不思議そうな顔を浮かべている。


 そうか。アイツはそもそもルードの正体なんて知らないし、逆に、自分の本当の素性をルードに教えてもいないはず。それなのに、ルードは、もう何もかもお見通しとでも言いたげな顔で出てきやがったからな。そりゃ不思議に感じるだろう。


「ルードさん、あなたは……」


 そうアイツが声をかけると、ルードはとびきりのイケメンスマイルで応えた。


「もちろん、最初からすべて知っていましたよ。あなたもよくご存知の叡智の大精霊ツァバト様は、私の先輩にあたる御方なので。あの方から、あなたのサポートをするよう頼まれていたのです」


 やっぱりツァバトが手を回してやがった……。先輩に頼まれちまうと、ルードも逆らえんのだろうな。あの森ちゃんも、ツァバトをパシらせたり、逆にツァバトの依頼で森ちゃんが動く場面もあったりと、大精霊どうしの関係ってのも色々あるようだ。


「あの光る玉みたいなのが、先輩?」


 アイツが首をかしげた。それへ、俺が横から告げる。


「この世界には、創造神から分かれた分霊というのが四体いる。ツァバトとルードも、その分霊のひとつだ。ようするに、神様のカケラみたいなもんだな」

「ええっ、ルードさんって、そんな凄い人だったの!」


 驚くアイツに、ついでに告げる。


「四分霊のうち、シャダイとツァバトは、いま北のほうにいる。俺がこれから向かう場所だ」

「じゃあ、あと一つは」

「残るひとつ……エロヒムは、俺の中に封印吸収されている。エロヒムの権能は、すべて俺が受け継いだ。ようするに、俺自身、いまは神様の切れっ端くらいにはなってるってことだ」

「うお……マジか……」


 アイツが驚き唸る顔なんて、多分初めて見たな。もっとも、たいして自慢できる話でもない。エロヒムの封印は、俺が望んだことではなく、ツァバトの思惑によるものだ。おかげで変な性癖まで付いてしまった。いや、今はそのへんはどうでもいい。

 ルードは、そんな俺たちの様子を、穏やかに微笑みながら眺めていたが、やがて、こう切り出してきた。


「子爵――いえ、もう、アイズどのとお呼びしましょうか。あなたは、アークさんについてゆかれるおつもりですね?」


 こっちから言おうとしてたことを、先に言われちまった。やっぱ最初から全部想定済みか。どこまでも食えねえ野郎だ。


「ええ」


 アイツは、決然たる面持ちで、迷わずはっきり答えた。


「では、私もお伴しましましょう。前々から、一度は魔王城を見物してみたいと思っていたのですよ」


 って、オマエもくんの!?


「いや、後のこととかは、どうすんだ」


 俺が訊くと、ルードは悠然とうなずいた。


「それは、彼らに任せておけば問題ありませんよ。ミーノどのもいますし」

「彼ら?」

「ええ。こんなこともあろうかと、依頼しておいたのです。……ちょうど、来たようですね」


 ルードの背後に、まったく唐突に、一群の人影が出現した。瞬間移動か。

 現れたのは、七人。その全員に、俺はきっちり見覚えがあった。


「おおっ勇者さんじゃねーか! 元気そうで何よりだぜロケンロー!」

「やあ、いつぞやはお世話になりました」

「まだ眠いっス……」

「責任取ってくださいね?」

「勇者さま、お体の具合はいかがですかぁー?」

「ふっ、はじまったな……終わりの始まりが……」

「地味ゆーな!」


 完全物質、仙丹から分離した自律型魔法人形にして、森ちゃんこと森野大精霊子さんの配下――すなわち七仙が、いきなり、ここに勢ぞろいした。まだ俺は何も言ってないぞ地味子よ。



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