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711:ウサギのお出迎え


 出発のときは来た。

 今回の北方行は、まず魔王城への移動が目的だが、俺は途中でちょいと寄り道しなければならない。


 よって今回、先頭に立って道案内するのはハネリンだ。もちろんトブリンに騎乗して飛行する。

 これに同行するのは、リネス、ワン子、フルル、ティアック、アル・アラムの五名。全員、アズサの背中に乗ってもらう。


 アル・アラムは、対バハムート戦における参謀役として連れてゆく。普段はおっとりした馬飼い美少年だが、先読みの天才であり、その真価は戦場でこそ発揮されるものだ。

 あとは、トブリンの仲間のトカゲ竜たちもついてくる。数えてみると十三頭もいた。そのうち二頭だけは、まだしばらくここに残るという。若いつがいで、雌が妊娠中なので動けないんだとか。世話のほうは、どうせ市庁舎の職員どもが引き続き、勝手にやるだろう。残る十一頭がこちらに同行する。ただ、こいつらの故郷である旧魔王城付近は、バハムート戦における主戦場となる可能性が高い。当面、魔王城の前庭あたりで遊ばせておくかね。ここよりずっと広いし。


 あとの連中は留守番だ。とくにルミエルには残ってもらうしかない。市長代行にしてルザリクのアイドルたるフルルが当面不在となるだけに、なおさら市政の手綱をしっかりと握っておいてもらわねば。

 アイドルというわけではないが、ルミエルのプロデュースにより、今後レマールもステージに立つ予定があるとか。レマールはぶっちゃけ歌はうまくないが、なんか華があるしな。タカラヅカ的な。しばらく農兵長官の仕事の合間を縫って、フルルの代わりをつとめるようだ。


 朝――もう日はだいぶ高い。穏やかな晩春の陽光のもと、中庭には出発メンバーと、それを見送る居残り組が勢ぞろいしていた。


「本当は、妾もついていきたかったんじゃがな。森の大精霊さまから、中央霊府へ戻るように命じられてしもうた。あっちも色々忙しいようでな」


 メルも居残り組。普段に似合わず、ちょっとしょげかえっている。傍若無人な暴れん坊前長老様も、エルフの女神様たる森ちゃんには逆らえないらしい。おそらく俺とサージャの婚姻の儀に関わる用事でもあるのだろう。


「それでは……アークさま。ご武運を」


 ルミエルが神妙に別れの挨拶を述べた。少し前まで市民の怨嗟の的だったが、税率を一気に下げたことで、今ではすっかり名助役などと持て囃されてたりする。現金なことだ。

 聞けば、ここしばらく、ティアックの研究や魔法工学研究所の拡張、ヒヒイロアームの改装などに膨大な費用がかかり、国庫を維持するのが大変だったらしい。それらがほぼ片付いたので、税率を下げて市民の機嫌をとることにしたのだとか。こいつもただの銭ゲバではなく、少しは考えているものだな。あとのことは完全に任せてしまって問題なかろう。


 他に居残り組としては、レオタード幼女クララと、巨乳出前娘ユニ……あと、この場にはいないが、魔獣スレイプニルも残してゆく。あの黒井馬夫とは相変わらず仲睦まじいようだし、ここの厩舎で、好きなだけ添い遂げさせておいてやろう。

 なお、ジーナとリリカの女忍者コンビには、既に別命を与えて出発させている。目的地は懐かしの故郷ウメチカ。二人をあそこに潜伏させ、しばらく状況を調査してもらう。いまどんな状態やら見当もつかんが、あそこもかなり混乱してるはずだ。


「よし。では出発だ。行くぞアエリア」


 言いつつ、腰のアエリアの柄を叩く。今の俺はアエリアの魔力に頼らずとも自力で飛べるんだが、なんとなく、そうするのが出発前の癖になってしまってるな。


 ――あふん。もっと、もっとぉ。ぶっ叩いてぇー。


 マゾか貴様。久々の台詞がそんなんでいいのかよ。以前と違い、アエリアの発音はマトモに聴こえるようになったが、内容は相変わらずだな……。

 ともあれ、まず俺が碧空へと飛び上がると、ハネリンを乗せたトブリンが大きく翼を羽ばたかせて、俺に続いた。さらにアズサとトカゲ竜どもも一気に舞い上がり、後続として従ってくる。


 俺は単独で西へ。他の連中はまっすぐ北へ向かう。もっとも、すぐにハネリンたちとは再合流することになるだろう。

 その前に、ちょっとした用事を済ませねばならん。





 西霊府の領域内、ちょうど移民街と漁村ダスクの中間点あたりから、街道を外れた森の中に、百人ほどの人間たちがひっそり暮らす隠れ集落がある――。

 隠れ集落といっても、移民街の虹の組合とは普通に取引きをしているし、西霊府の長オーガンも、その存在を知ったうえで黙認しているふしがある。事情が事情だし、無理に追い出す必要もないので放置ってとこかね。


 ルザリクから出発後、俺は急いで西へ飛び、この集落へと降り立った。ちょうど、上空からでもいい目印になる大きな教会がある。その門前に舞い降りたところ、いきなり教会の鉄扉が八文字に開いて、小さな人影が俺を出迎えた。異様に対応が素早い。

 どうやら、俺が上空から接近してくるのを、なんらかの方法で感知し、あらかじめ出迎えの用意をしていたようだな。もしかして対空監視レーダーでも置いてんのか。パッサの技術力ならありうる。


「勇者さん! お待ちしてました!」


 そのパッサ……相変わらず元気な女装美少年パスリーン・エルグラードが、満面の笑顔でご挨拶。……って、なんたる格好をしていやがる!


「どうですか? に、似合いますかー?」


 まず目に飛び込んできたのは、真っ赤なラメ入り生地の、ぴっちぴちレオタード風ハイレグボディースーツ。

 細い両腿には黒い網タイツ。


 足元を華やかに飾る赤いヒール。

 首には可愛らしい白いリボンタイ。


 ……そして、頭の上には、大きな白いウサギ耳が、ぴょこんぴょこんと揺れている。

 つまり、バニーガール。


 いや、男の娘だから、バニーボーイ……か?



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