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710:竜たちの望み


 激しく慌しい夜だった。

 庁舎では、ルミエルをはじめとする女どもが、いつもの雑魚寝部屋に集結し、猫耳を装着して待ち受けていた。


 ルミエル、ハネリン、メル、レマール、ユニなどの面々である。魔法工学研究所から連れ戻ってきたフルルのぶんも、きっちり猫耳セットが用意されていた。

 無論、そこで怯む俺様ではない。猫は丁寧に可愛がってやらねばな。


 さすがにリネスとクララは別室に寝かしつけたが、その後は新顔のワン子をも巻き込み、夜更けまで、猫の宴が続いた。途中、例によって例のごとく、雑魚寝部屋の畳を吹っ飛ばし、女忍者コンビも乱入してきた。すなわち巨乳のジーナと黒先端のリリカ。東霊府での諜報を終えて帰還していたらしい。

 襲い掛かる猫どもを、俺はまとめて返り討ちにして、雑魚寝部屋は、累々たる猫どものあられもない寝姿で埋まった。


 翌早朝――。

 俺は、ひとり中庭へ出て、まだ明けやらぬ暁闇の空を仰ぎつつ、これまでの状況や、ここで新たに得られた情報などを振り返って、ざっと整理してみた。


 まず、ジーナとリリカがもたらした、東霊府の状況。

 あそこには、ルミエルの宗教的弟子となったフェイドラを放り込んである。その後の状況は、俺の目論見通り……どころか、それ以上に、とんでもないことになっているようだ。


 いまや東霊府は、俺を神そのものと崇め奉る新興宗教都市と化しているという。かつての府庁舎が、俺の姿をかたどった彫像をご神体とする大神殿へと建て替わり、教主フェイドラの指導のもと、霊府全体がすっかり怪しげな教義に染まりきっていると。内容自体はルミエルがでっちあげた新興宗教のコピーだが、それが完全に霊府の政治と経済まで乗っ取ってしまった点で、その熱狂度はルザリクの比ではないのだとか。

 多分あれだな。霊府の上空で、俺とアズサが殴り合ってみせた茶番劇。あれが効いてるんだと思う。まるで凶暴の二文字が羽生やして空飛んでるような巨大ドラゴンを、俺がきっちり殴り飛ばして退治してみせた――数多くの市民が、その光景を実際に目撃している。そこへもってきて、もともと地元の土着宗教において重要な立ち位置にあったフェイドラが、全力で勇者教の布教に取りかかった――。


 東霊府については、もう完全に俺の領土といってよさそうだ。なんの問題もあるまい。ただフェイドラの体調や精神状態については、ちょっと心配もある。過労で死なれたりしちゃ困るし。なるべく早めに使者を送って、一度ルザリクに召還したほうがよさそうだ。

 なお、大神殿に祀られているご神体は、西霊府の隠れ集落から「虹の組合」の隊商を介して購入した彫像で、作者はパスリーン・エルグラード……という。あの女装美少年パッサの作品だと。そういや、前に隠れ里へ行ったとき、たしかにパッサは俺の似姿の像を彫って、嬉々として飾ってやがったな……。


 そのパッサだが、あいつもついでに集落から拉致して、今回の北上に同行させるつもりだ。あの凶悪な魔導兵器……黒熱焦核爆炎球の製造技術を、魔王城にもたらしてもらうために。

 場合によっては、あれもバハムート相手に使用することになるかもしれない。環境への配慮は充分に考えておく必要があるが……。


 いっぽう、北霊府だが、あちらはまだ混乱の只中にあるようだ。対翼人融和派と強硬派の争いは膠着状態に陥っており、終熄の気配もないのだとか。これはまだ放置でよかろう。先にサージャとの婚儀を済ませ、中央の権威と実権を充分に掌握したうえで、あらためて平定に乗り出すとしよう。

 このルザリクについては、現状、とくに変事は起こっていないようだ。ルミエルも近頃は税率を下げるなどして市民の機嫌を取ってるというし、壁の外ではレマールの指揮下、新設の農兵部隊が周辺の開墾に乗り出し、順調に進行しているという。かのスワナ隊長率いる偽乳特戦隊の面々も、一緒になって畑を耕してるらしい……。あいつらどうせ暇だろうし、べつに問題ないか。なんとも平和な話よな。





 ――とまあ、一通り状況を整理してみたが、とくに後顧の憂いは無さそうだ。いくつかの問題は先送りにせざるをえないが。

 あとは、目下最大の懸案たるバハムートの侵攻を、きっちり粉砕するのみ。移動手段は、俺自身は飛べるし、ハネリンにはトブリンがいる。あとの連中はアズサに輸送してもらうことに……。

 ……と、ふと気付くと、俺の周囲に、トカゲ竜どもが数頭、集まってきていた。なんかピーピーと可愛らしい声をかけてきている。


「ん? なに? おまえら、北へ帰るって?」


 どういうわけか、いつの間にやら、俺はこのトカゲ竜どもの鳴き声から、なんとなく、その意思を感じ取れるようになっていた。以前はこんなことはなかったんだが……あるいは、俺がエロヒムを取り込んだことが関係しているかもしれない。この世界の上位存在として、人類以外の動物などとも、多少は通じあえるようになったのかも……もちろんあくまで推測にすぎんが、他に思い当たるフシもないのでな。

 ともあれ、こいつらの言うことには……故郷の山脈も、近頃は暖かくなり、自分たちがここにとどまる理由はなくなった。はぐれていた仲間も見つかったし、もしあなたが北へ行くなら、自分たちも一緒についてゆきたい……と。厳密には、もっと砕けた、大雑把な言い方をしてるんだが、大意として、こんな感じになる。


 仲間ってのはトブリンのことだな。トブリンを連れて、故郷の山へ帰ると。そういや、こいつらはもともと、北方の寒冷現象で故郷にいられなくなり、こんな南方まで逃げてきたんだった。その寒冷現象は、大精霊シャダイが引き起こしていたものだが、現在は解除されて、本来の気候気温に戻りつつある。どうやってそれを知ったのかはわからん。俺の理解も及ばない、なにやら超自然的な察知能力でも持ってるのかもしれん。なんせ見ためは空飛ぶ巨大トカゲのくせに、知能も戦闘力もナーガ以上という連中だし。俺が北へ行くこと自体は、昨夜、俺とツァバトやスーさんとの会話などから察していたのだろう。


「そうか。ならば、ついでだ。おまえらもついて来い」


 俺が告げると、トカゲ竜どもは一斉に翼をぱたぱたさせて、かわいらしく喜びを表現してみせた。

 ほんと、愛嬌たっぷりだなこいつら。トブリンが例外的に無愛想なだけで、本来人懐こい種族なのかもしれない。



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