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709:赤いアイドル誕生秘話


 もともと、それを思いついたのはスーさんだった。

 以前から、フルルがアイドルとしてステージに立つ姿を、スーさんは魔王城の神魂の映像によって度々見ていた。


 フルルの天性の美声と、歌にかける若い情熱。これになんらかの利用価値がありはしないか――いかにも魔族の宰相らしく、そんなことを考えたらしい。

 その後、エルフ美女に化けたスーさんは、俺たちに同行してフルルのライブを実際に体感した。


 ――これは使える。

 俺もそう思っていたし、スーさんもあらためて確信を持ったらしい。ライブの直後、ふとそんな思惑の一致をみて、俺とスーさんと、一緒にほくそ笑んだりする一幕もあったな。


 そして計画は動き出した。フルルの歌声を、今後来たるべき戦場に活用する――。

 ようするに、フルルを音波兵器として利用する、ということだ。その歌声に、魔力による魅了や麻痺などの特殊効果を乗せて、広範囲に浴びせかければ、それだけで敵の戦力を大幅に低下させることができる。おそらくバハムートにも効果があるはずだ。


 歌い手は、別にフルルじゃなくてもできないわけではないが、もとより充分な声量と、一日中でも歌い続けられるスタミナと気力……そういったものを備えたプロのアイドルなればこそ、最大限の効果が期待できるというもの。

 具体的には、まずフルルの歌声に様々な魔力を乗せるという新技術の開発。これはティアックの得意分野といっていい。フィンブル謹製の生体ゴーレムの魔力を解析し、対消滅させる術法を、ごく短期間で思いつき、実際にやってみせた天才だ。


 ティアックは俺の注文を聞くと、けっこう興味をそそられたようで、直後にライブ会場へ足を運び、実際にフルルの歌声を解析したうえ、その波形に魔力術式を織り込んで大音量で広域放射する、いわゆる魔法拡声器のプロトタイプを組み上げた。その間、わずか半日。さすがとしかいいようがないが、さしものティアックも、そこで壁にぶつかってしまった。

 小型化・軽量化の問題だ。重量のほうは、さほどでもないが、フルルの声を増幅放射するアンプとスピーカーを、個人で携帯可能なレベルまで小さくするのは、さすがに無理があった。しかし意外なところに突破口は開いていた。


 本来、フィンブルの遺したヒヒイロアームの修復改装と、フルルを音波兵器として利用するプランは、まったく無関係で別々に進行していた。ほどなく、ヒヒイロアームにフルルの生体認証が登録されていることが判明し、それならば、懸案であったアンプとスピーカーをヒヒイロアームに搭載し、それにフルルを乗せて、巨大音波兵器として運用すればいい――俺とティアックの考えは、ここで見事に一致した。

 以後、予算に糸目を付けず、膨大な金額を費やして人手を集め設備を整え、ヒヒイロアームの改修と音波兵器の組み込みが急ピッチで進んだ。


 そしてようやく完成にこぎつけたのだ。空という無限のステージを自在に翔けめぐり、歌って踊って敵を撃つ、フリフリスタイルにお茶目なリボン飾りがチャームポイントな巨大人型アイドル音波兵器ロボ――赤い偶像、機神ロートゲッツェが。

 ただ、機体は完成したが、今後当面、フルルを乗り込ませたうえで、細かい調整を行なわなければならない。機体と魔法拡声器の動作確認、それにともなう問題箇所のリストアップと、その修正の実作業――急いでも数日かかるはず。


 だが、既にバハムートの侵攻が始まっている現状、そうのんびりと待ってはいられない。今夜はさすがにルザリクで一泊するつもりだが、明朝には魔王城へ向けて出発する。その際、フルルとティアックも同行させるつもりだ。ロートゲッツェは、後でスーさんに魔王城へ運び込んでもらう。全高二十メートルと、図体こそ大きいが、実は総重量は一トンにも満たない。ヒヒイロカネは地上最強の硬度を誇りながらも、きわめて軽い特殊魔法合金。スーさんの瞬間移動でも、じゅうぶん一発で運べる程度の重さ。アイドルは羽のように軽いのだ。

 輸送後、最終調整は魔王城で行なえばいい。あそこにはチーとクラスカという優秀な技術者たちもいることだしな。


 ただ、その前に……当のフルルとティアックに、伝えておかねばならんことがある。いきなり何の説明も無しに魔王城へ連れて行ったら、さぞ面食らうだろうし。





 いったん、格納庫前での集まりは解散させ、フルルとティアック、リネス、ワン子を除く面々は庁舎へ帰らせた。リネスとワン子はルミエルたちと一緒に戻らせるつもりだったが、二人とも、いまは片時たりと俺のそばを離れる気はないとかで。いいけどな別に。

 魔法工学研究所の応接間。相変わらず散らかっていてホコリっぽい。だからなんで本棚に本を平積みにしてんだよ!


 俺たちはホコリを払ってソファに腰掛け、フルルとティアックに大事を打ち明けた。


「ええっ、魔王? 勇者さまが?」


 フルルはきょとんとしていたが、ティアックは――あまり動じなかった。


「あはは、いやまー、どーせそんなことだろーなーとは、なんとなく。アークさまって、全然、正義の味方って感じしませんし」


 やっぱり日頃の行いって大切だな……。ティアックの反応に、リネスが横でうんうんとうなずいている。おまえら俺をなんだと思ってやがんだ……。


「ええー? パイセンって、そんなややこしい立場の人だったんですか?」


 なぜかワン子が素っ頓狂な声をあげた。なんでオマエが一番驚いてんだよ! そもそもオマエの正体のほうがよっぽどトンでもねえだろうが!

 ……ともあれ、他言は無用と、しっかり念を押しつつも、フルルとティアックへのカミングアウトも済ませた。フルルはけっこう驚いてたが、そもそも俺の奴隷だし。俺の正体がなんであれ、フルルは、今後も俺についてゆくと――そう胸を張って宣言していた。忠義な奴隷の鑑だな。俺の感覚的には、奴隷というより放し飼いのペットに近いけど。


 あとは、こいつらを魔王城へ連れて行くだけだ。ルザリクからは、さらに数名、今回の出発に同行してもらう。アズサの背中に乗せれば、全員まとめて運ぶことが可能なはず。必然的にアズサも同行者の一員となるわけだが、あいつのことだ、嫌とはいうまい。

 あとのことは明日にしよう。今夜は庁舎に戻って、ひと休みかな。リネスもさすがに眠そうにしてるし。



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