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708:紅の偶像


 命名はティアックだ。機神ロートゲッツェ……赤い偶像。

 若干、中学二年生が喜びそうな響きではある。なんにせよヒヒイロアームより万倍マシだ。フィンブルも技術者として間違いなく天才だったが、ネーミングセンスだけはやっぱどうかと思うわ。


 中央霊府に長らく転がっていたヒヒイロアームを、スーさんの瞬間移動で回収してもらい、ティアックが俺のプランに応じて修復と改装を実施した。名前だけでなく、外観も大きく変化している。

 ヒヒイロアームは甲冑をまとった騎士のような、いかにも勇壮な姿だったが、このロートゲッツェは、全体に優美な曲線を帯びた、しなやかなプロポーションを擁し、女性的な……というか女性そのものの外観になっている。それもフリフリドレスのような外装をまとい、各部に宝玉をあしらったリボン飾りもふんだんに施されている。


 頭部には、まるで女神の彫像でもあるような鼻筋すっきり美少女顔が掘り込まれ、ぱっつんロングヘアーに見立てた精巧なつくりのヘルメットもかぶせてある。このヘルメットの後頭部には二十本の可動多関節マニュピレーターが組み込まれており、自動制御でさながら本物の頭髪のようになびき動くようになってるという凝りっぷり。

 結果、全体として、いきなりマイクを掴んで歌って踊り出しそうな、かわいらしさと躍動感あふれる、おそろしく趣味的な外観に仕上がった。プロポーションもしっかりボンキュッボンと。


 赤い偶像ロートゲッツェ……すなわち、装甲材であるヒヒイロカネの燃えるような紅蓮の輝きはそのままに、フリフリドレスなアイドル人形風味の巨大ロボットに生まれ変わったというわけだ。ヒヒイロアーム最大の特殊技能、空中浮遊も可能。

 搭乗者も既に決まっている。もちろん俺じゃない。アイドルといえば、そう、フルル。


「え、あたしが乗るの? あれに?」


 フルルは、緋色に輝く巨大アイドルロボを見上げて、素っ頓狂な声をあげた。





 以前、フィンブルは、ヒヒイロアームの魔力供給生体ユニットとしてフルルを組み込んだ。その際、ヒヒイロアームのコアにあたる魔力制御結晶……あのロックアームの制御にも使われてた謎の球体のことだが、そこにフルルの生体認証データが登録されてしまっており、フルルの魔力のみを動力源として利用するようになっていた。このコアが内部に残っている限り、外観や名前がどう変わろうとも、フルルが乗らなきゃ動かない。今でもコアはそのままなので、もはやこれはフルル専用機なのだ。

 逆に言えば、そのコアを交換してしまえば誰でも乗れるんだが、あの制御結晶はフィンブルの完全オリジナル技術によるブラックボックスに近く、ティアックの技術力をもってしても、複製品もしくは同等品の開発には、年単位の時間がかかるといわれてしまった。


 となれば、もはやフルルに乗ってもらう以外に選択肢は無い。せっかくだから、とことんフルルらしい機体に仕上げてやろう……というのが、ロートゲッツェのコンセプト。


「……わたし、あれに乗ったことがあるの? ぜんぜん身に覚えがないんだけど」

「そうだろうな」


 俺はフルルの髪をくしゃくしゃ撫で回しながら、説明してやった。


「おまえはフィンブルに攫われた後、工学魔術で生体ゴーレムにされていた。記憶がないのは当然だ。そんなおまえを救い、正気に戻したのが、そこにいるティアックの技術というわけだ」

「はへー、そんなことが……」


 目をぱちくりさせているフルルのそばで、なぜか大興奮しているのがクララだ。眠気も吹っ飛んだようで、さっきからワン子やメル、レマールらと一緒に、あれこれロートゲッツェの各部を指差しながら、なにか熱く語り合ったりしている。なんでワン子がまざってんだよ。


「あれ見て、スカートの中! ちゃんとイチゴの彫刻が入ったパンツっぽいのはいてる!」



 どこ見てんだよ! というかなんでイチゴぱんつなんだよティアック! そんな注文してねえぞ!


「ほぉー、細かいとこまで、よくできてますねぇー。でもー、個人的には、もう少し大人っぽい下着のほうが……」


 ワン子もなに言ってんだよ! パンツはどうでもいいだろ! どうせステージ用の見せパンだし。アイドルだからな!

 で、リネスは……と見ると、ルミエルとなにやら楽しそうに話している。二人とも、ロートゲッツェの大きさやデザインの奇抜さに驚きはしたものの、さほど関心はないようだ。そういやリネスは、ロボットやマシンにはあまり興味のないタチだったな……ちょっと拍子抜けかも。なぜかルミエルとは仲良くなってるようで、その点は喜ばしいが。


 アル・アラムは、ティアックからあれこれ説明を聞いては、ふんふんとうなずいているが、半分も理解している顔ではない。先読みの天才ではあっても、技術者の素養はあまりなさそうだな……。


(なー、アニキ様)


 アズサの念話が届く。


(確かにスッゲーけどさ、これで何すんだ? マイクで殴るとか?)


 そんな戦うアイドル(物理)みたいな使い方は、さすがに想定してない。いや、それはそれで面白そうだけど。

 俺は答えた。


「フルルをこいつに乗せて、対バハムート戦の最前線で、空中ライブをやってもらう」


 ――は?


 と、途端に一同、一斉に俺を注視した。急に何言い出すのこの人? というような眼差しで。

 こりゃ、もう少し説明が必要だな……。



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