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707:格納庫に待つもの


 もとよりルミエルも、なんとなく察してはいたらしい。

 俺の言動や態度のうちに、ただ純朴な十六歳の少年や、伝説に語られる正義の勇者などにとどまらない、もっと深遠に近い、禍々しい何かを――俺に接するごとに感じ取っていた、と。


 ……やっぱ日頃の行いが悪かったのかねえ。ルミエルが格別鋭いわけでなく、サージャもリネスも、俺が魔王だと知ってむしろ納得してるふうがあったし、ルミエルもそうだと。

 ただ、今の時点で、そのへんあまり大っぴらに喧伝されても困る。いずれ俺自身の口から、この大陸の全住民に向け、正式に宣言するつもりだからだ。俺は勇者であり、魔王でもあると――。


「わかりました。アークさまがそうおっしゃるならば、秘密は守ります」


 俺が口止めを頼むと、ルミエルは相変わらずうっとりとした眼差しのまま、そう答えた。なんでそんな嬉しそうなのかよくわからんが……。

 その後、二人して中庭に戻ると、農兵長官レマールと、ルザリク魔法工学研究所長ことティアック・アンプル、ピンクのレオタード幼女ことクララの三人が、打ち揃って宴会に飛び入りしてきた。


「主のご帰還と聞きまして、急いで仕事を片付けて参りました」


 レマールは穏やかに微笑んで、鄭重な礼を施した。相変わらず律儀な奴だ。


「おじちゃん……。あたし、ねむいぃ……」


 クララは、なんか半分寝てる。もう夜も更けてきてるしな……って、だったらわざわざ出てこんでも。眠いけど俺の顔が見たかったんだとか。それはそれで、いじらしいというべきなのか。

 一方ティアックは……。


「やること多すぎなんですけどー。アーク様ったら、とんでもない仕事を押し付けていくんですから。もう大体の作業は終わってますけど、人手が足りなくて、ほんと大変だったんですからね」


 どうも不満たらたらのようだ……。

 近頃、俺がティアックに頼んでいた仕事は、二つ。ひとつは、翼人の精神薬を原料とする、特殊な触媒魔法の開発。人間の認識や感覚を一部強制的に塗り替える効用があり、たとえばお子様の野菜嫌いを克服してヴィーガンにしてしまったりもできる。やりすぎだ加減しろ馬鹿。これはティアックの祖母マドレニアとの共同開発で、既に大量生産の目処が付いているらしい。


 そして、もうひとつ――。

 酒礼一巡して、宴会もぼちぼち落ち着いてきたところで、俺は再びティアックに声をかけた。


「例のブツだが……もう作業は終わってるって、さっき言ってたな?」

「ええ。ほぼ完璧に動かせるようになってますよ。例のシステムの組み込みも」

「おお、そりゃ凄いな。さすがだ。よくやってくれた」

「当然ですよ」


 俺が褒めそやすと、ティアックは、えっへん! と胸を張った。わかりやすい。


「あとは実際に乗っていただいてから、各部の点検がてら、細かい調整をやることになると思います」

「そうか。……よし、それなら、これから、みんなで見に行こう」

「みんな?」


 俺の言葉に、ティアックは、きょとんと目を見開いた。


「そうだ。特に、フルルには早めに見せておかんとな」

「え? あたし?」


 突如、話を振られて、フルルも目をぱちくりさせた。俺はそれにあえてかまわず、宴会中の一同へ声をかけた。


「みんな聞け。宴会はこれまでとしよう。これから全員、魔法工学研究所に移動するぞ。正確には、ラボの隣りに新設した格納庫だ。そこでみんなに見せたいものがある。アズサも来い」

(ん? アタシもか?)

「いったん空に上がって、こっちが合図を送ったら、そこへ降りてこい」


 そうして、俺たちは一斉に移動をはじめた。庁舎から研究所まで、さほど距離もないので、アズサ以外は徒歩で。街の一般市民らが、なんの集まりかと好奇の目を向けるなか、俺たちはぞろぞろ列をなし、商店街のアーケードをくぐった。





 ほどなく、魔法工学研究所へ到着。

 研究所の中には入らず、まずは隣接する格納庫のシャッター前に全員を集めた。そこから、上空へ魔力球を放り投げて合図を送る。空中で待機していたアズサが、大きな翼を折り畳みながら、俺たちのもとへ舞い降りてきた。


 ルミエル、フルル、メル、ハネリン、ティアック、レマール、アル・アラム、クララ、ユニ、そしてアズサ……ルザリク常駐の主要な顔ぶれが、ここに揃ったことになる。あとリネスとワン子も。このうちの何人かは、これから俺に同行して北へ向かうことになる……。

 ティアックが、おもむろに格納庫のシャッター脇のボタンを押すと、ゆっくりと鉄のシャッターが上がりはじめた。まさか自動式とは、地味に凄いというか無駄にカネかかってやがんな。この格納庫の建造には、ルザリクの公金が惜しげもなく投入されている。つまり市民の血税だが、ティアックはとくに気にしてないようだ。


 格納庫の内部は真っ暗で、まだ何も見えない。シャッターが上がりきると、ティアックが中に駆け込んで、壁面の端末を操作した。 天井の魔力照明が、一斉に点灯する。

 途端、一同、あっと驚きの顔をあげた。アズサも、目をしばたたいた。


 輝く照明のもと、格納庫内に傲然とたたずむ、巨大な人型。

 全高二十メートル、全身紅蓮に輝く、しなやかな立ち姿。これこそ――。


 いずれ来るバハムートの侵攻に対抗すべく、ティアックに修復と改装を急がせていた最終兵器。

 フィンブルの遺産、ヒヒイロアーム改め――機神ロートゲッツェ。



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