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007:魔王の優雅な朝食

 ハーレムのベッドで目が覚めた。

 窓の外では、始祖鳥どもがギャアギャアと朝のさえずりを楽しんでいる。なんでそんなもんがいるんだこの世界は。


 ふと周囲を見渡すと、素っ裸の女どもがシーツの上に転がって雑魚寝してる。人間の元貴族のオウメサン、行商人の娘オケイハン、翼人の王女だったツバサン、その妹のハバタン。

 ……ああ、思い出した。昨日はハネリンのとこに行ったが、あんまり激しくしすぎて、あいつ、あっさり失神してしまってな。本人はえらく幸せそうだったが、俺はちょいと物足りなかったので、大部屋に適当に女どもを集めて、さらに頑張ってみたわけだ。そいつらも今はこんな有様で、まだしばらく目覚めそうにもない。


 俺は女どもを放っといて部屋を出た。そろそろ朝メシの時間だ。

 のっしのっしと廊下を歩いてハーレムを出て、王宮へ戻る。ハーレムにも食堂はあるが、俺は王宮の食堂のほうが好きなんでな。


 朝食は軽めに、炊きたてごはんに納豆と味噌汁、お新香で。

 この世界、米や大豆はおろか、味噌も醤油も納豆も普通にあるのが素晴らしい。もっとも、納豆は地獄の食い物だとかいわれてて、魔族しか食わないんだがな。ニワトリを城内で飼育してるから生卵だって食えるぞ。


「今朝の納豆は、素晴らしい出来です。やはり温度管理が決め手ですなあ」


 コック長の畑中洋介さんがニコニコしながら言う。生粋の男淫魔──インキュバスだが、男女のあれより料理が好きという、ある意味変態だ。なんでこういう名前なのかは俺は知らない。本人も知らないそうだ。


「うん、香りがいい。この半年履きっぱなしの靴下のような匂いと、鼻を突くアンモニア臭。辛抱たまらん」


 ほかほか湯気を立てるごはんと、しっかり糸を引いている納豆を前にして、俺は頬をほころばせた。おそらく傍目には、物凄く不気味な笑みに見えるに違いない。前世から納豆は好物なもんで、つい。

 王宮の食堂はそれほど広くない。むしろこぢんまりとしてて、場末の定食屋みたいな雰囲気になっている。石造りの城内で、ここだけコンクリートの床に木の柱。テーブルも椅子も木製だ。色あせた木目調の壁には手書きのメニュー一覧が貼ってあったりする。これらの内装は畑中さんの趣味らしいが、なんでそんな趣味なのかは本人も知らないそうだ。あんた実は前世では普通に日本人だったんじゃないか? 俺と同じで。


 俺は納豆を軽くかきまぜ、ズロロローっと啜り食った。暖かいごはんをかきこみ、味噌汁をズズッとひとくち。あー日本人で良かった。いや、今は日本人じゃないけど。そもそも人類じゃないな。


「焼き魚もお出ししようと思ってたんですが……いい鮎が入りましてねえ」


 畑中さんが言う。鮎か。あれ旨いんだよな。直火で塩焼きとか最高だ。


「だったら、それは昼メシに頼むわ。ごっそさん」


 俺はのれんをくぐって、気分よく食堂を出た。

 定食屋で納豆を食う魔王が、この世界に一人くらいいてもいい。それが自由というものだ。





 朝食を済ませ、広間へ向かう。

 まったく唐突に、白い骸骨が俺の前に姿を現した。


「うお。スーさんか」


 魔族多しといえど、瞬間移動を使いこなせるのは魔王たる俺と宰相スーさんのみ。しかもスーさんは俺と違って一日五、六回くらいは使用可能らしい。なんせ骨だけなので、移動に要する魔力が少なくて済むからだそうだ。そりゃいいが、いきなり目の前に出てこんでくれ。どこのホラーハウスだ。

 そのスーさんが顎をカタカタいわせながら言う。


「ゆうべはおたのしみでしたね」


 ああ、楽しんだとも。徹夜でトランプ遊びをな!


「スーさん、今日の予定は?」

「私の予定は、とくにありません。デートのお誘いなら、いつでもオーケーですよ」


 朝っぱらから無茶振りしよるわこの骸骨。ていうか、あんた女だったの?


「スーさんの予定じゃなくてだな」

「むろん、冗談でございます」


 スーさんは顎をカックンカックンと揺らした。笑っているらしい。


「今日の陛下のご予定でございますな。午前中に、翼人の代表者がここへ訪ねてくるそうです。陳情でしょうな。午後は、例の研究について、チー殿から報告があるそうで」

「おお、水晶球の件だな。そいつは楽しみだ」


 俺が翼人の都から持ち帰った水晶球。いまは玉座の間に置いて、監視カメラみたいな使い方をしているが、実際はそんな程度の代物じゃなくて、様々な魔力が込められた、超古代の強大な魔法アイテムだという噂だ。その全容解明のために、そういうのに詳しい連中を集めてチームを組ませ、ずっと研究させている。チーはその研究主任だ。わざわざ報告に来るということは、何か大きな発見があったんだろう。


「わかった。んじゃ、これから玉座の間に行くから」

「かしこまりました。あ、ところでデートの件ですが、本当にいつでもオーケーですので。私とて、昔は床上手のスーと呼ばれた女。陛下のお相手だって務まりますよ」


 本当に女だったのかよ! つうか、昔ってどんくらい前だよ。骨しか残ってないじゃん。あとその二つ名はどうかと思う。



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