694:特別編06「大聖堂炎上」
メメント旧工業区、燃料公社ビル。
レールとアークは、重水素燃料の補給手続きに時間を取られていた。
アーク「たかが燃料を買うだけで、こう何枚も書類を書かされるとはな。面倒なことだ」
選択肢
『大きな取引きだからね』
『やっぱり砲撃しとくべきだったかな』
アーク「なんでそう無闇に砲撃したがるんだよ!」
選択肢
『ロマンだから!』
『このビルが木っ端微塵になるとこ、見たくない?』
アーク「なぜこんな人格破綻者一歩手前みたいな奴が船長やってんだか……あの妖精の苦労が偲ばれるな」
そのとき、公社ビルの玄関に、息せききって飛び込んできた人影がある。アロアたちショッピング組の護衛に付いているはずの……宇宙忍者テルメリアスだった。
テルメリアス「船長、一大事よ!」
選択肢
『またアロアの身に何かあったの?』
『またアロアが何かやらかしたの?』
アーク「また、ってどういうことだよ。そんなしょっちゅう何かやらかしてんのか」
テルメリアス「いえその、リネスちゃんが……」
アーク「……リネスが?」
メメント市街地。テルメリアスの案内で、レールとアークは事件現場に駆けつけ、アロアたちと合流した。
アロア「ご、ごめんなさい……! わたしが、ほんのちょっと目を離した隙に、リネスちゃんが攫われてしまって……」
ダイタニア「追跡しようとしたけど、とんでもない逃げ足でね」
テルメリアス「宇宙忍者の私でも目で追いきれなかったもの。あの速さは人間業じゃないわ」
アーク「……そうか。で、そこに転がってる黒いのは?」
ダイタニア「さっきまでアタシらを尾けてた連中だよ。テルるんが気付いて、二人で叩きのめしたんだけど……」
テルメリアス「そっちは頚椎骨折で死んだわ。もう一人のこっちは服毒自殺。服装はアルガム教団の下っ端僧侶のものだけど、変装の可能性もあるから、まだ教団の仕業と断定はできないわね」
アーク「おまえら、尾行されてたのか?」
テルメリアス「ええ。私たちが、この二人とやりあってる間に、もう一人がお店の中からリネスちゃんを攫っていったのよ。たぶん、最初からそういう手筈で動いていたんでしょう」
アーク「組織的犯行ってことか……目的はなんだ?」
テルメニアス「さあ。見当がつかないわ。営利誘拐かしら……」
ダイタニア「それって、身代金払えー、ってやつ?」
アロア「そんなぁ。わたしたち、一千万円なんて持ってませんよぉ」
アーク「なんで身代金の相場が一千万円なんだよ!?」
選択肢
『教団を砲撃しよう!』
『街中を捜索しよう!』
アーク「砲撃マニアは座ってろ。なに、リネスのことなら、わざわざ捜すまでもない」
アロア「え? リネスちゃんのこと、心配じゃないんですか?」
アーク「リネスを攫ったのがどんな奴か知らんが、そいつの安否のほうがむしろ心配だな」
ダイタニア「え、どういう意味……?」
アーク「ぼちぼち始まる頃合だと思うが」
テルメリアス「ねえ、あっちのほう、なにか煙が上がってるような……」
ダイタニア「え。あれって、アルガム教団の神殿じゃ……うわっ、いま、ぶわーって大きな火の手が……」
選択肢
『大聖堂が……燃えてる!』
『誰が撃ったの?』
アーク「おお、派手に燃えとるな。あれが大聖堂とやらか」
ダイタニア「なんでそんな落ち着いてるの!?」
アーク「そりゃ、リネスの仕業だからな。今はあそこで暴れてるんだろう」
テルメリアス「そ、そうなの!?」
アーク「間違いない。放っといたら神殿丸ごと吹っ飛ばしかねんぞ。俺は迎えに行くが、オマエらも来るか?」
選択肢
『もちろん行くよ!』
『信頼してるんだね、リネスちゃんのこと』
アーク「信頼……ねえ。そんな大層なものでもないが」
ダイタニア「あ、なんかちょっと嬉しそう。やっぱり、なんだかんだいっても、少しは心配だったんでしょ?」
アーク「……ふん。どうだろうな」
アロア「あの、リネスちゃんを助けに行くんですよね?」
アーク「そうだ」
アロア「なら、わたしも行きます! ボルちゃん! おいでっ!」
アロアが決然と空へ手をさしあげると、黒い鋼鉄の球体が、その掌の上に出現した。
機神ボルガード「状況ハ、モニターシテイタ。全テ把握シテイル。主ヨ、イツデモ戦闘命令ヲ」
アーク「ほう、瞬間移動してきた……?」
アロア「ボルちゃんは、呼べばどこからでも転移してくるんです。だから、いちいち連れ歩く必要がないんですよ」
アーク「なるほど、便利なもんだな」
アロア「ボルちゃん、フライトフォーム! みんなを乗せて飛ぶよ!」
機神ボルガード「了解。フォームチェンジヲ実行スル」
テルメリアス「とか言ってる間に、大聖堂が今にも焼け落ちそうなんだけど」
ダイタニア「あ、またすごい爆発が」
アーク「少しは加減しろよリネス……」
ほどなく、機神ボルガードがフォームチェンジを完了した。シンクロンシステムなる謎技術により、外見だけでなく大きさと質量も変化しており、全高5メートル、全長20メートル、総重量2トン、まるでジェット戦闘機のような先鋭的フォルムを擁する。機神ボルガードの空中巡航形態、通称フライスター。
機神ボルガード「主ヨ、操縦席ヘドウゾ。ソノ他大勢ハ、後方ノ格納スペースニ搭乗セヨ」
テルメリアス「あからさまに主人とそれ以外の扱いに差を付けるのね、このAI……」
アーク「俺は遠慮しとくぞ。自分で飛んでいけるからな」
そう言いざま、アークはふわりと空中へ浮き上がった。
ダイタニア「え、あんた飛べるの? すごい! それってどういう魔法?」
アーク「魔法じゃねえよ。ほれ、ぐずぐずしてると市街地まで延焼しちまうぞ。俺に付いてこい」
アロア「わかりました! みんな早く乗って!」
テルメリアス「乗ったわよー。床がゴツゴツしてて、居心地最低ねこれ……」
アロア「ボルちゃん、離陸! アークさんの後に付いて行って!」
機神ボルガード「了解!」
先行するアークの背を追うべく、重力制御装置が唸りをあげ、フライスターは鮮やかに宙へ舞い上がった。
その行く手には、紅蓮の炎と黒煙を噴き上げ、いまにも焼け落ちかかる大聖堂。そこにリネスはいるのか? はたして燃え盛る炎の中で、何が起こっているのか? アークとフライスターは、風を巻いて現場へと急行する……。
リネス「シンクロンシステムってなに?」
アーク「並行宇宙から質量を取り出すことでエネルギー保存則を保ちつつ対象物の質量を増大させる技術……だそうだ」




