691:特別編03「悪意の蠢動」
数度に渡るモンスターの襲撃を切り抜けつつ、「白き船」ブランシーカーは、黒い砂漠を北へ北へと進み続ける。
アーク「こちらの事情は、さきほど説明した通りだ。よければ、そっちの事情も聞かせてもらいたいところだな」
精霊ブラン「いいよ。んでさ、もしよかったら、アンタらも戦闘参加してくんない? ウチ人手足りなくてさー」
アーク「話によっては、協力してやらんでもない」
アロア「あっ、じゃあ、わたしが説明するー! わたしとレールの運命の出会い! そして愛の逃避行の物語っ!」
選択肢
『じゃあ説明はアロアに任せるよ』
『ブラン、頼む』
精霊ブラン「そうね……アロアに任せてたら長くなりそうだから、アタシが説明するわ」
アロア「えー? そんなに長くないよー」
リネス「ボク、アロアちゃんのお話も、ちょっとキョーミあるかも。ね、後でゆっくり聞かせてよ」
アロア「わ、本当? じゃあ後で、じーっくりとね!」
精霊ブラン(アロアが語り出したら、それこそ半日くらい止まらなくなるんだけどね……誇張脚色ありまくりの大河ドラマになっちゃうから……この子、絶対途中で寝ちゃうと思う)
機神ボルガード「前方ニ敵影。警戒セヨ」
リネス「えぇー、また襲撃?」
精霊ブラン「仕方ないわね。話の続きは、この敵を蹴散らしてからよ! 詳しくはチュートリアルで!」
『戦闘は最大6人パーティ制のオート進行となっており、敵味方のパーティ編成と装備、地形効果、属性相性、レベル補正などに応じて彼我の基礎ダメージが計上され、さらに命中判定、クリティカル判定、即死判定、追撃判定等の発生確率を大小の乱数と掛け合わせて最終結果が表示される。乱数によるマイナス方向への振れ幅がきわめて大きく、どれほど強力なキャクターであろうと敵のクリティカル判定一撃で戦闘不能になる可能性がある一方、味方に有利なクリティカル判定は滅多に発生しない。しかし、キャラクターに充分な基礎能力が備わっていなければ、そもそも攻撃が命中することすらなく一方的に敗北してしまう。有料ガチャでのみ稀に排出される高レアリティのキャラクター及び装備は能力上限が高いため、勝つためには有料ガチャとレベリングが必須。じゃぶじゃぶ課金し、そのうえでさらに人事を尽くして天命を待つ――という戦闘システムになっている』
アーク「なんという投げやりなチュートリアル……」
精霊ブラン「あー、それ、この世界の創世神が書き殴った開発者向けテキストが、そのまま内部に残っちゃってたらしいのよね。ディーエ・ムエム……だったかな」
アーク「ちゃんと消しとけよ生々しい!」
戦闘後――。
アロア「みんな、おっつかれー! ゴハンいこー!」
アーク「さっき食ったばかりだろーが。また食うのか」
精霊ブラン「いやしっかし、強いわねアンタら……あらためて驚いたわ」
リネス「とーぜんだよ。アークは勇者で、ボクは勇者パーティーの魔法使いなんだから」
精霊ブラン「そのへんの事情はさっき聞いたけどさ。アークが、異世界で崇められてる魔王兼勇者……とか、さすがにちょっと話半分くらいに思ってたわ。レアリティーは低いし、職業ステータスは通行人Bだし」
アーク「職業が通行人Bってどういうことだ……どうやって生計立てるんだそれ」
精霊ブラン「それがまさか、デコピン一発でカンストダメージの防御貫通無属性全体攻撃なんてね。どこのラスボスよアンタ。おかげで、一瞬でなんもかんも吹っ飛んじゃったじゃないの」
選択肢
『楽な戦いだったね』
『全部吹っ飛んで、トレジャー回収しそこねた……』
精霊ブラン「経験値は入ったんだから良いでしょ。どうせカスアイテムしか落ちないし」
アーク「身も蓋も無いなおまえら……」
ブランシーカーが砂漠の只中で奮闘している、その頃――。
サーガン砂漠北部、オアシス都市メメント。その一角で、怪しげな影が蠢きはじめていた……。
ここは、メメント中央神殿の一室。二人の男が、声をひそめて囁きあっている。
???「諜報部からの報告だ。例の異邦人たちだが……どうも、白き船に拾われたらしい」
???「我等の主が、とくに注意せよと仰せられた、あの二人組か。よりによって、白き船に……」
???「あの船に、蒼き翼の天使が乗り込んでいる限り、我らには手が出せぬ。本人はただのアホの子だが、護衛のボルガードが強すぎる。船長とかいうのも、キレるとすぐ次元歪曲砲をぶっ放す物騒なガキだし。地下帝国はあいつらを刺激したせいで滅びたようなものだ」
???「だが、そうも言っていられまい。我が主がおっしゃるには、あの異邦人たちは、この世界に真の破滅をもたらす可能性があるイレギュラーだというぞ」
???「なんと? 本当に我が主がそのように? おおっ、世界の破滅……! 我らが長年待ち続けた、真の大破局を、その異邦人どもがもたらしてくれるというのか……!」
???「そうだ。ゆえに、どうにかして異邦人どもを白き船から引き剥がし、我等のもとへ引きこまねばならぬ」
???「世界の破滅、それこそ我らが悲願……! おお、想像するだけで胸躍り、脈拍が上がり、血圧も上がって、だんだん意識が遠のくようだ……!」
???「それはただの動悸息切れ眩暈だ」
???「くっ苦しい、お、おクスリをくれ、いつものおクスリをを!」
???「ほらよ、強心剤。用量用法を守ってほどほどにな。さて、それではこれから、具体的なプランを立てるとしよう。この見捨てられし世界に、真の終わりをもたらすために……!」
???「し、真の終わりを、もたらすために……! ぜぇぜぇ」
???「おい、しっかりしろ。貴様が先に終わってどうする」
はたして、この二人は何者なのか? 世界の破滅とは何か? そして、二人を背後から操る「主」とは何者なのか? そんな陰謀などつゆ知らず、ブランシーカーは北上を続け、刻一刻とメメントへ近付きつつあった……。




