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689:特別編01「赤い空、褐色の大地」


 創世の神話に曰く――。

 原初、この世界には、ただ泥海のような混沌だけがあった。


 上位世界から現れた二柱の神は、暗い混沌に光を注ぎ、秩序正しき新世界の形を築き上げた。混沌の泥海は、赤い空と褐色の大地に分かたれ、二柱の神々がそれぞれの領域を分け合って治めた。これが天神ディーエと地神ムエムである。ディーエとムエムは、いずれも漆黒の翼を持つ巨龍であったといわれる。

 天神ディーエと地神ムエムは、互いに不干渉の立場を取りながら、それぞれの領分で世界の発展と拡張につとめた。褐色の大地にはムエムの眷属たる九億の龍人が入植して独自の文明と文化を築き、人類の祖先となった。天空にはディーエが新たに浮遊大陸を築き、背に翼のある神人たちがそこに降臨した。ディーエの使徒たる一億の精霊たちが受肉した存在という。これが後の天使となり、超越的な科学力を駆使して、浮遊大陸に一大機械文明を築き上げることとなる。


 それから数万年……。原初の神々はすでに世界を去り、見捨てられた褐色の大地と赤い空では、人類の監視者を気取り、地上を抑圧する天使と、それに反発する人類との間で、激しい争いが生じていた。

 長い戦乱により、人類の都市の多くが壊滅し、浮遊大陸も地に落ちた。やがて両者痛み分けの形で闘争は終熄したが、天地は荒廃し、人類も天使も疲弊の極みに達していた。これを称して覇天大戦という。


 大戦終結後、人類と天使は共存を模索し、ともに傷ついた世界の修復へと取り掛かりはじめた。かつての繁栄は過ぎ去り、ただ荒涼たる砂漠ばかりが広がる大地。それでも人の営みはなお続いていた。そこに人ある限り、その宿業もまた熄むことはなく……。





 南方大陸の寒村に暮らす少年レールは、十六歳の誕生日を迎えた直後、大きな騒動に巻き込まれる。蒼き翼を持つ天使の少女が、謎の軍隊に追われているのを目撃したのである。

 レールは蒼き翼の少女を保護するも、村を包囲され、脱出困難な状況に追い込まれた。その時、少女の祈りに応じるように、村の守護神像として代々奉られていた巨大な鉄像が突如動き出し、謎の軍隊を蹴散らした。


 蒼き翼の少女――アロアは、古代天使文明の遺産たる自律兵器「機神」を使役する力を持つ最後の純血の天使であり、この村の守護神像こそ、覇天大戦時代に最強と謳われた伝説の機神ボルガードであった。大戦末期の戦闘で損傷擱坐し、放棄されたものの、長い年月をかけて自己修復を行い、新たな主が現れるのを待ち続けていたのである。

 その後、レールとアロアは、ボルガードのメモリーによって村の地下に埋もれていた「白き船」を発見した。古代地上文明の遺産、陸上巡航船ブランシーカー。その船体に宿る守護精霊「白羽の賢者」ブランは、発見者のレールを仮の船長と認め、数千年ぶりにエンジンに点火。白く輝く船体が地上へと姿を現した。


 精霊ブランの記憶によれば、はるか北の大地の果てに、この世界を衰退から救う特殊な技術が保管されているという。レール、アロア、ボルガードは、ブランシーカーに乗り込み、村の人々に見送られて、大砂漠へと旅立った。目指すは北方、この世界の果てにあるという伝説の地、太陽の都アマルナ――。





 大陸中西部、サーガン大砂漠。

 古代より、黒顕砂と呼ばれる特殊な砂に覆われており、陸上船無くしては踏破不可能とされている不毛の領域である。


 夕闇迫る黒い砂漠の只中で、一組の男女が途方に暮れたように座り込んでいた。ひとりは年若い黒髪の青年。いまひとりは、長い金髪の幼い女の子である。


???「ねえ、アーク。ここって……」

???「……どうなってるんだ、これは」


 青年の名はアーク。少女はリネスという。

 彼らは、こことは異なる世界で、ある「存在」と戦っていた。だがその最中、次元の狭間に吸い込まれ、この世界に「飛ばされて」しまったのである。


リネス「いったい何がどうなったの?」

アーク「わからん。たしか俺は、断裂の修復を始めたところだったはずだが……そこから先の記憶が飛んでいるな」

リネス「ボクもそうだよ」

アーク「詳しい理屈はわからんが、どこからどう見ても、ここは俺たちがいた世界じゃないな。大気組成も微妙に異なっている。おそらく異世界転移ってやつだろう」

リネス「亜空間じゃないの?」

アーク「まったく別物だ。だが、この空の色といい、この真っ黒い砂といい……殺風景すぎる。いったいどういう場所なんだ、ここは」

リネス「でも、なんだか体の調子はいいよ。魔力が身体中にあふれてる感じがする」

アーク「大気中の魔力濃度がかなり高いようだ。……何してるんだ?」

リネス「あ、えっと……このカッコ、ちょっと寒いかなって……」

アーク「そんな薄い布地じゃ、そうなるよな。これでも羽織ってろ」

リネス「わ、ありがと。えへへ、アークの匂いー」

アーク「マントをくんくん嗅ぐな」

リネス「いいじゃん。好きだよこの匂い。んでさ、これからどうする?」

アーク「やけに落ち着いてるな」

リネス「アークと一緒だもん。何が起こっても大丈夫でしょ。頼りにしてるよー」

アーク「……好きにしろ。まだ日暮れまでには間がある。いまのうちに周囲を探っておこう。ひょっとしたら、空間戦車もそのへんに転がってるかもしれん」

リネス「あ、そっか。ミレねえちゃんたちも、こっちに来てるかもしれないよね」

アーク「……待て。何かいるぞ。この周りに」

リネス「えっ、あれ、ほんとだ。いつの間に。って、取り囲まれてる?」

アーク「見ためは犬か狼っぽいが、それより大きいな。野生動物というには、少々禍々しい面がまえだ。数は……二十匹くらいか」

リネス「どう見ても、仲良くなりにきたってカンジじゃないよね。みんな、おいしそうなゴハンを見つけたーって顔になってるよ」

アーク「しゃらくさい。逆に切り刻んで食ってやろう。今日の晩メシは焼肉で決まりだ」

リネス「あ、じゃあボクがやるよ」


 周囲のモンスターが咆哮をあげ、一斉に襲い掛かって来る。リネスが素早く呪文を唱えると、風の魔法が巻き起こり、まるでカマイタチのように、見えざる空気の刃が舞い躍り、群がるモンスターたちを次々と切り裂いていった。


リネス「あれ、もう全滅? 見ためほど手ごたえはなかったね」

アーク「いや、油断するな。まだ何か来るぞ」

リネス「あ、ほんとだ。なんだろ、あれ?」

アーク「船……のようだが」


 アークが彼方を眺める先――薄暮の空の下、黒い砂煙をあげながら、白く輝く船体が、次第にアークたちのもとへと近付いてきていた。



アーク「いま倒した奴らの死骸から、変なプレートが出てきたが……」

リネス「ガチャ1回無料チケットって書いてあるよ?」

アーク「単発かよ。しけてやがんな」

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