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686:一閃、魔法少女


 白い輝きを身に纏い、可憐なレオタード装束で夜空を駆ける魔法少女。

 長い金髪と白いリボンを光の波のごとくなびかせ、胸には黄金のペンダント、幼い相貌に凛々たる意志をたたえ、前面の敵を見据えている。


 ……なぜ、リネスがこんなことになっているのか? 

 その白いひらひらハイレグレオタードはなんのために? よく見ると生地がかなり薄手で、微妙に肌色が透けてる……。


 また、そのいかにも手工芸品っぽい羽付きステッキはどこから調達したのか? いったいどんな能力が?

 そしてなにより、なぜわざわざ空間戦車の主砲からリネスを撃ち出す必要があったのか? 普通にハッチから出てきちゃいかんのか。


 これらすべて、発案はツァバト。

 衣装はツァバトのデザインをもとに、ミレドアが大急ぎで針仕事でこしらえたものに、ツァバトがある加工を施して完成させたもの。サイズは完璧だ。ちょっとぴっちりしすぎな気もするが。また、胸のペンダントはシャダーンが火風青雲扇とともに携えてきた特殊な魔法アイテムで、本来は二個一対になっているアクセサリーの片割れだという。いま一個はシャダーンが持っており、魔法による遠隔通信の機能を持つのだとか。ステッキはツァバトがリネスに与えたものだが、どういう能力があるのか、俺は聞いていない。あるいは、ただの飾りという可能性もあるが……。


 ともあれ、外見だけはもう完璧に、まるで妖精のように可憐にして優美、小さな身体にめいっぱいの勇気と愛を詰め込んだ、平成最後の魔法少女――リネス。

 惜しむらくは、魔法少女というにもまだリネスは幼い。人間換算六歳児だし。さらに、もともと痩せっぽちなので、レオタードごしに肋骨の影がくっきり浮き出てるし、足も針金みたいに細い。色気も何もあったものではない。いかにも幼児のコスプレという感じで、可愛らしさという点だけなら百点満点をあげてもいい出来ではあるが。


 そのリネスを、なぜ主砲から撃ち出す必要があったのか?

 実際の撃ち出しに用いたのは、もちろん荷電粒子ではなく圧搾空気で、まずリネスが主砲内部に入り込んで、自分自身をすっぽり覆うような形で物理結界を張り、ツァバトが風系魔法で主砲内に強烈な圧搾空気を送り込んで、リネスを外へ放り出すという仕組みだった。ようするに空気式のカタパルトだな。


 いまリネスの周囲を覆っている白い光は、外気や風圧からリネスの華奢な身体を守るために、ツァバトがあらかじめ施しておいた防護魔法によるものだ。そりゃ、リネスは飛行能力など持ってないので、戦場へ直接リネスを送り込むには、この方法が手っ取り早いのはわかる。だが、それならそれで、俺が空間戦車に戻ってさっさと連れ出してくればいいだけの話だ。なんでわざわざ、こんな手の込んだ真似をせねばならなかったのか。

 ツァバトいわく。


 ――魔法少女は空を飛ぶものだろう? 本当は魔法のホウキでも用意してやりたいところだが、今回は間に合わぬ。ゆえに特別な発進シークエンスを用意し、物理的に飛ばせることにしたのだ。

 ということらしい。すいません何言ってるのかよくわかりません。


 とにかく、すべてが叡智の大精霊の仕業。ツッコミ入れる気力すら起きん。もうどうにでもなーれって感じだ。





 その可憐なる魔法少女リネスが、白い輝きとともに飛んで来る。まっすぐ、俺めがけて。


「アークぅ!」


 ステッキをかざして俺を呼ぶ声は、凛として力強い。顔つきも真剣そのもの。ここが作戦上、最も重要な局面だ。リネスも、見た目はともかく、真面目に役割を果たそうとしているらしい。

 俺は両手を広げ、リネスを迎え入れた。ぼふんっ、と、俺の胸の中に飛び込んでくるリネスを、なるべく優しく受け止める。同時に、ツァバトの防護魔法が消失した。


 リネスは、俺の胸の中で、ちょっぴり不安そうな眼差しを向けてきた。


「ねえ、アーク。このカッコ、似合ってる? 変じゃない? ちょっと恥ずかしいんだけど、絶対アークは喜んでくれるって精霊様が――」


 騙されてるぞリネス。俺は空飛ぶレオタード魔法幼女を見て興奮するような性癖は無い。俺と融合中のエロヒムには、そういう趣味があったかもしれないが。

 とはいえ、ここで野暮な返事をするのもどうかと。わざわざリネスのやる気を削ぐこともあるまいし。


「そうだな。よく似合ってるぞ。可愛らしい格好だ」


 途端、大輪の花が咲くような笑顔になって、リネスは声をあげた。長耳をぴょこぴょこさせながら。


「ほっ、ほんとっ? やったー、ボク、アークに褒められちゃったぁー!」


 ……喜んでるようでなによりだ。実際、本当に可愛いとは思うしな。ただ、この場面でわざわざそういう格好をする必然というものが、俺にはどうしても見い出せないだけだ。ツァバトのほうには、俺の理解を超える何らかの必然性が見えているのかもしれんが。


「じゃあ、アーク。打ち合わせどおりに――」

「よし。すぐに始めるぞ」


 俺は両腕でリネスの小さな身体を抱きかかえた。定番のお姫さま抱っこ。これからまさに、ツァバトが立案した作戦の本番ということになる。ツッコミ等は後回し。今は気を取り直して集中せねば。

 後方へ振り返り、彼方の断裂の空を仰げば、例の人型の白濁光――邪神が、無数のレーザー光を地上へ指向したまま、ぐんぐんと自らの質量を増大させている。見ための体積もやや膨らんでるな。かの有名なミシュランのマスコット、ムッシュ・ビバンダムみたいな体型になってきてる。


 現在の質量は……おお、既に数億トン。これがそのまま地上に落ちただけでも被害は半端なかろう。しかも、こんなものはまだまだ序の口。最大九十垓トン……地球の一・五倍もの質量に達するという計算が出ている。急がねば。

 俺は、両腕に抱えたリネスの身体へ、ゆっくりと魔力を送り込みはじめた。こうすることで、俺とリネスの間に、目には見えざる魔力の径路が開き、二人の魔力が接続される。リネスのレオタードの内側には、その接続を補助する魔術回路なるものが、特殊な糸で縫い込まれている。もちろんツァバトの仕事だ。これは超古代の技術で、複数の人間の魔力を融合させたり、他人の魔力を引き出し、自分の魔力として使えるようにできるというもの。


 ほどなく、リネスと俺は魔術的に繋がり、二人の魔力は一体となった。

 ふと、リネスが、腰をもじもじさせながら溜息を吐いた。


「はふぅ……。んんっ、んぅ……! ああ、アークぅ、ボクっ、いま……アークと、繋がってるんだね……!」


 誤解を招く言い草はやめなさい……。変な声出すんじゃありません。繋がってるのは魔力だけだからな。

 ともあれ気を取り直して。


「準備はいいか、リネス」

「うん。えっと、あれに向かって……」

「遠慮はいらんぞ。思いっきりやれ」

「わかった!」


 俺にお姫様抱っこされた態勢のまま、リネスは羽付きステッキを彼方の邪神へ振り向けた。

 続いて、リネスの高速詠唱。相変わらず、にゃんにゃー、とか、ふんぐるにゃー、とか、かわいい仔猫が鳴いてるようにしか聴こえん。


 ……現在、俺とリネスの魔力は、見えざるパイプによって魔術的に接続され、一体となっている。これにより、今のリネスは、俺のほぼ無限の魔力を使って、魔法を行使できる。いわば、俺がリネス専用の魔力タンクになってるような状態だな。

 この状態で、こいつを放てば、どうなるか――それがツァバトの作戦。


 詠唱が完成した。


「いけぇーッ! ルミナリィ・ノヴァー!」


 ステッキの先端から、白い光が溢れ出す――。



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