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676:魔族最高幹部の集い


 避難民を地上へと誘導し、王宮内への一時収容を済ませた後――。

 俺は久々に城内の謁見室へ足を踏み入れ、懐かしい俺の玉座に腰をおろした。


 うーむ、ずいぶん大きい。魔王時代、俺の身長は二メートル以上あったからな。それに合わせたサイズだから、現在の俺の身体ではちょっと持て余し気味だ。

 王宮周辺はチーの結界に守られていたという。おかげで建物の強度も問題はなさそうだ。それでも城内あちこち寒波による凍結の影響がみられた。謁見室も結露などでずいぶん濡れたり汚れたりしていたが、奴隷どもが真っ先に清掃作業にあたり、今では床も壁もきっちり昔のように綺麗に磨かれている。


 といっても、別段、ここで誰かと正式に謁見する予定や必要があるわけではない。なんとなく、久しぶりに魔王として振舞ってみたくなった。それだけのことだ。スーさんたちにはいくつか伝達すべき事項があるしな。

 いま、玉座の前にはスーさんとチー、エナーリアという魔族最高幹部の三人だけが横に並んで、恭しく拝跪の礼を取っている。余人はあえて退けてあるので、本来ならそう堅苦しい礼儀など抜きでもいいんだが、こいつらが勝手にそういうポーズを取ってるだけだ。特にチーなんて、以前は人目があっても礼儀など一切気にかけない、間違っても俺を拝むような殊勝さなどカケラもない奴だったんだがな。なんか心境の変化でもあったのか、あるいはふざけてるだけなのか。どっちでもいいか。


 まず、チーとスーさんの二人には、留守の功労をねぎらい、エナーリアには、俺の口からあらためて大将軍の階位を与えた。これ以降、半魚人エナーリアは、ミーノくんの後継として、魔王軍の最高指揮官となる。見た目はユーモラスだが、先代魔王の時代にも将軍として活躍した歴戦の武将。これくらいの地位を与えても、そう破格ということはなかろう。


「な、なんとも、もったいない仰せ……! このエナーリア、陛下のおんため、粉骨砕身いたしまするぅ……!」


 老婆のほうの顔を感激に震わせながら、エナーリアは大仰に平伏した。心なしか、魚のほうの目もちょっと潤んでるように見える。喜んでるようで何よりだ。

 ……もっとも、昔と違って、現在の魔王軍は特にどことも争ってないし、ゴーサラ砦を拠点とする前線警戒はベリス公爵が仕切っている。エナーリアが管轄すべき魔王城の近辺は、いまや廃墟と荒野が広がるばかり。当面はこれといった仕事もないので、ひたすら暇なだけだろうな。適当に練兵でもやっといてもらうか。


 スーさんについては、今更言うべきこともない。今後も変わらず、宰相として魔族の手綱を握ってもらう。俺にはベタ甘なスーさんだが、部下には非常に厳しい面もあり、ミーノくんの一件でもわかるように、締めるところはきっちり締めてくれる。なればこそ、俺も安心して城を留守にできるというものだ。当面の仕事としては、ミーノくんが手がける予定の新魔王城建設にあわせ、遷都の計画を立ててもらわねばなるまい。


「ははっ。陛下の御心のままに……!」


 スーさんは恭しく応えた。ようするに数万人を引き連れての大規模な引っ越し計画。かなり忙しくなるだろうな。

 ただ、瞬間移動能力というものがある以上、スーさんには、まだまだ俺のサポートとしても飛び回ってもらわねばならない。スーさん一人に全てを負わせるのは無理がある。そこでチーの出番だ。


 本来、チーは魔王城の技術屋兼俺の愛人という立場にすぎず、魔族の政治なんぞに関わる義務も義理も無かったはずだが、俺の転生後、意欲的に魔族の掌握につとめ、充分な実績を打ち立てている。スーさん不在の間も、チーが留守番してくれてれば、まず安心だろう。正妃に迎えるのは、さすがにもう少し先のことになるけどな。


「チー、こいつを預けておくぞ。さっき説明した、火風青雲扇だ」


 言いつつ、俺は懐中から火風青雲扇を取り出した。驚くべきことに、さっき凍って抜け落ちた羽毛が、いつの間にやらきれいに生え揃っている。軍師ビームでおなじみ、あの御方ご愛用のふっさふさの羽扇の外見に復元している。どういうカラクリになってるのやら。再生能力でも備わってるんだろうか?


「おおー、それがウワサの気象兵器! うん、見ただけでわかるよ、それって精霊の魔力が込められてるねー」


 チーが目を輝かせて、がばと立ち上がった。さすが魔族随一の技術屋、一見しただけで、そこまでわかるのか。


「ねーねー、これ、解析しちゃっていい? いいよねー?」

「かまわんが……いきなりバラしたりするなよ? こいつを預けるのは、おまえの魔力を注いで、気象状態を維持してもらうためだからな」

「もちろん、わかってるよー。魔王ちゃんがもういっぺん戻ってくるまで、アタシが操作して、現状を維持しとけばいいんだよね?」

「そうだ。おまえなら、ちょっと触れば、具体的な操作方法はすぐにわかるだろう。任せるぞ」

「ん、りょーかい! ……ほー、こりゃなんとも渋いインターフェースだねー。搭載術式のバージョンは2・11Bかぁ……かなり古いけど、こんな時代から独自のGUIを編み出してシェルにおっ被せてるなんて……これ作った人は相当な凝り性だねー。気合とか魂が込もってるよ」


 俺の手から羽扇を受け取るや、チーは嬉々として早速、柄に嵌め込まれた本体部分の宝玉を指先でいじくり回しはじめた。何を言ってるのかようわからんが、チーがそこまで言うってことは、魔法アイテムとしてかなり上等な部類なのだろう。搭載術式のバージョンとかシェルとか、いったい何の話だよ。技術屋はこれだから。

 ……ともあれ、これで、魔族に関わる用事はひととおり済ませた。上空にはクラスカたちを乗せた空間戦車が今も待機中だ。急いで戻るとしよう。



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