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669:想定外の力


 少々加減を誤ったか。

 障壁の向こうに感じられていたシャダイの気配が、急激に遠ざかっていく。


 俺が障壁へ叩き付けた魔力の奔流に巻き込まれ、遠い彼方へすっ飛んで行ったようだ。

 すでに周囲の光景は正常な星空に戻っている。ともあれ、これで再び北進できるようになったはず。俺は静かに身を翻し、空間戦車へと帰還した。


「おかえりー! すっごかったねー!」


 ハッチをくぐり、内部へ降り立つや、待ち構えていたらしいリネスが、満面の笑みで俺の胸へ飛び込んできた。


「ここにいても、はっきり感じたよ! アークの魔力! あんな大きくて立派で逞しい魔力、初めてだよ! ボクね、ビクンビクンって震えちゃったよ!」


 そうか。大きくて逞しくて立派でビクンビクンだったか……。

 ……もう少しなんというか、リネスの語彙について、ちょっと教育が必要な気がしてきたな。


「こちらでも観測していたが、いやもう、途方も無いエネルギーだったな。計上された熱量だけでもハルバラス一発分に匹敵するぞ」

「もう驚きを取り越して、呆れたわ。その小さな身体のどこから、あんな力が出てくるの?」


 クラスカとイレーネが声をかけてきた。ハルバラス……というのは確か、バハムート世界の超兵器。大気中のエーテルとかいう謎物質を触媒とし、一発で大都市を消滅させるほどの威力を持つが、膨大なエーテル消費により、ほんの数発でバハムート世界のエーテルを枯渇に追い込む諸刃の剣だとも聞いている。


「ふふふ。その様子では、肩慣らしにもならなかったようだな」


 言いつつ、黒髪オッドアイ幼女なツァバトが、とてとて歩み寄ってきた。


「そうだな。ずいぶん抑えたつもりだったが……」


 俺は応えた。実際、先ほど障壁へ叩き付けた魔力量は、今の俺の感覚からすれば、かるーくデコピンしてみた程度のもの。もちろん疲労も消耗も無いに等しい。


「つい今しがた、シャダイが念話を通じて、文句を言ってきおった」

「ほう、なんと?」

「はかったなツァバト! と……叫びながら、どこかへ飛ばされていったようだが」


 なんでどっかの士官学校の同期の仮面男に裏切られた人みたいな台詞になってんだよ! どういう意味だよ!


「なに、ちょっとした手違いというものだ。汝が気にかけることではない」

「手違い……?」

「シャダイの計画ではな。本来、この我がエロヒムを打倒した暁には、その本体を百八の霊に分割することになっていた」

「分割? エロヒムを?」

「そうだ。その分割したうちのひとつを、汝の霊基に封印することになっていた。それにより、汝が既に備えておった魔力との相乗作用が生じ、汝の総魔力量はこの我に匹敵するレベルに達する……という想定ができていたのでな。残る百七の霊は、我が地下書庫に持ち帰って、二度と復活させぬよう分割したまま管理するという手筈であったのだ」

「なんだ? そんな話は聞いてねえぞ。だいたい、エロヒムの本体は、もう丸ごと俺の中に入っちまってるだろうが」

「手違いとは、そういうことだ。我がうっかり――そう、うっかり、エロヒムの本体を分割せず、汝に丸投げしてしまったがゆえにな」


 そう言いながらも、ツァバトは心底楽しげに微笑んでいる。この顔は……絶対、うっかりとか手違いとかではないな。明らかに故意にやった仕事だろう。


「だが、これにより、汝はシャダイの想定の百倍以上という魔力を得た。この計画が終われば、シャダイは無情にも汝を切り捨てるつもりであったらしいが……もはやそれは不可能であろうよ。なにせ、今の汝は、シャダイより遥かに強いのだからな。ふふっ☆」


 ツァバトはにっこりと笑って告げた。ふふっ☆じゃねーよ。可愛い子ぶりおって。しかもそれで実際むちゃくちゃ可愛いから困る。可愛すぎて今すぐ襲いかかりたい衝動にかられる。だが自制、自制せねば。

 ……そういやコイツ、先日言ってたな。シャダイは最終的に俺を捨てるつもりだが、ツァバトはそれには賛同していない……と。つまりそういうことか。





 電磁障壁の消滅により、空間戦車は飛行を再開した。

 それはいいが、障壁の断熱効果が失われたことで、周辺の気温が急低下しているらしい。クラスカがいうには、空間戦車のセンサーが、北方から押し寄せる猛烈な冷気を観測しているという。


「摂氏マイナス二十度以下という寒気の帯が、急速に南下してきている。このまま我々が北上を続ければ、あと十数分後には、その寒気の真っ只中へ突入することになるだろう。さらにその先には、上空気温マイナス八十度以下という領域が広がっている。そこまで行けば、地上でもマイナス五十度は下らないだろう」


 そんな細かいことまで予測できるのか。さすがはバハムートの技術。というか温度表記は摂氏なのか。華氏でも未知の基準でもなく摂氏。なぜだ。以前見たシミュレーターのテレビショッピングでは通貨は円だったし、バハムート世界も色々と突っ込みどころが多いな。


「……この戦車は、大丈夫なのか?」


 俺が訊ねると、クラスカは大きくうなずいてみせた。


「この車体は理論上、マイナス百度までなら、ほぼ支障なく行動できるようになっている。だが……」


 クラスカは、コンソールを前肢の爪先で、ちょいちょいっと操作し、前面のスクリーンに何やら模式図っぽいものを映し出した。


「空間戦車の外殻は強度こそ優れているが、断熱という意味では少々心もとない。外気温の影響を完全に遮断するのは無理だ。車内温度を維持できる実質の限度は、せいぜいマイナス四十度というところだな。それ以下となると、空調の出力も追いつかなくなる。我々バハムートはそれでもまだ平気だが、きみたちは……」

「半日くらいなら、ボクの魔法でなんとか耐えられると思うよ。でもそれ以上は無理かも」


 横からリネスが答えた。そういやリネスはそういう魔法が使えるな。リネス自身の魔力を燃料として、周囲に暖気の膜を張り巡らせるというやつ。以前、地下遺跡の十二階層で使っていた。もちろん、それもリネスの魔力が切れたらそれまでだ。そのまま推移すれば、この車内で凍死者が出る事態になりかねん。


「……あまり悠長に構えてる時間は無いってことだな」


 前面のスクリーンを睨みながら、俺は呟いた。この先に待っているのは、氷雪に覆われ凍て付く魔族領。

 まずは俺の城――魔王城の上空へ辿り着き、そこで火風青雲扇を使用することだ。こちらの思惑どおりの効果を発揮してくれればいいんだが……、こればかりは、実際やってみないとな。



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