表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
661/856

660:叡智の対価


 ミレドアの住居は、造りこそ古いものの、なかなか立派な木造二階建て。

 一人で暮らすにはいささか広い。とはいえ、ミレドア自身に加えて、今はリネスとシャダーンが居候している。


「おかげで賑やかですよー。家事も、リネスちゃんが魔法で手伝ってくれますし、シャダーン様の占いのおかげでお客さんも増えて。毎日ほっくほくです!」


 ミレドアは、なんとも幸せそうな笑顔で現状を語った。

 ここは店舗奥にある一階の居間。畳の床のど真ん中に大きな木製ちゃぶ台が鎮座する和室。いつぞや俺が干しイモをご馳走になった部屋であり、かつて人狼グレイセス率いる黒狼部隊の連中が蒸しイモをふるまわれた部屋でもある。現在は、大精霊幼女ツァバトが、ちゃぶ台の上に積み上げられた干しイモを、夢中でむさぼり食っている。イモばっかだな。


 そのツァバトのほか、俺とミレドア、リネス、さらにシャダーンもこの部屋に集まり、ちゃぶ台を囲んで畳にあぐらをかき、番茶など啜って、ようやく一息ついたところだ。時刻は、ぼちぼち日暮れにさしかかる頃あい。


「シャダーン。ルードは、貴様にどこまで話したんだ?」


 俺が問うと、シャダーンはぐぐっと番茶を飲み干し、椀を置いて、大きく息を吐いた。


「はぁー、やっぱりミレドアちゃんのお茶はおいしいねえ。……んで、アタシがルードから聞いたのは、さっきアンタに言った通りのことさ。なんでも、この世界の外から、化け物か神様か知らないが、とんでもない未知の存在が入り込もうとしている。いまは大精霊シャダイがそれを食い止めているが、そのとばっちりで、アンタの城や領土が大変なことになっている……そんなとこだね」


 シャダーンの説明は、つい先刻、俺がツァバトから聞いた北方の事情とほぼ一致している。ルードがそこまで事態を把握していたのは意外だな。アイツも、それなりに現状には危機感を抱いてるってことか。

 この世界の外からやって来た、未知の存在――ツァバトがいうところの、異世界の神。途方も無く強大な力を振るい、この世界の外殻部分を叩いて砕き、その破損部分が、大陸北方の上空に広がる巨大な亀裂……空間断裂になったという。異世界の神とやらは、この空間断裂からこちらの世界への侵入と実体化をはかっており、大精霊シャダイはこれを防ぐべく、空間断裂とその周囲のあらゆる分子運動を強制停止させ、絶対零度の壁を作り上げた。いまのところ、この方策は功を奏し、異世界の神の侵入は、かろうじて食い止められているという。


 しかし、その影響はすさまじく、大陸の北半分、ゴーサラ河以北の地上全域に極低温化をもたらし、俺の魔王城もいまや完全に凍り付いている。城にいた魔族の旧部下や奴隷どもは地下に逃れてほとんど無事だが、肝心の宰相スーさんが凍って動けなくなっているらしい。

 まず喫緊の課題として、俺がなすべきは――なるべくすみやかに魔王城へ赴き、火風青雲扇の魔力によって城及び周辺地域の気温を上昇させ、地表を解凍して、城の住民どもを救うこと。その後どうするかは、そのときになって考えればよかろう。


「お城? ……領土?」


 リネスが、両手で茶碗をささえ持ちながら首をかしげた。


「ねえアーク、お城なんて持ってたの?」


 ああ、そうか。リネスは、まだ俺が魔王だとは知らなかったな。近頃、ルードは、サージャやムザーラと会って、景気良く俺の正体をバラしまくったという話だが、まだリネスとは接触してなかったのか。

 ならばここで、俺の正体を、俺自身の口から、リネスやミレドアにきちんと告げておくべきだろうか。


 いや、今あえてそれを急ぐ理由はなかろう。どうせ、いつかは分かることだし。この二人には、なるべく今まで通り、気楽に接してもらいたい……。


「そりゃあ持ってるさ、とても立派なお城をね。なんせ、魔王様だからねえ」


 いきなり真正面からシャダーンが平然とぶちまけてきた。って何してくれてんだこのババア!


「ま、魔王? えっ? アークがっ?」

「は? ええ? 勇者さまが……魔王?」


 リネスとミレドアは、ほぼ同時に素っ頓狂な声をあげた。おいおい、どうすんだこれ。二人とも動揺のあまりデイビー・クロケットの直撃を喰らった鳩みたいな顔になっちまってるぞ。


「そんなもの喰らったら死ぬだろう。鳩が」


 横から俺の内心を読んで真顔で返答するツァバト。皿に残っていた最後の干しイモをきっちりたいらげ、番茶をぐぐっと飲み干し、だんっ! と、茶碗をちゃぶ台に置いて、大きくひと息。


「はふー。んー、ようやく、空腹がおさまった。……うむ。雑貨屋の娘ミレドア、賢者の娘リネス。まずは落ち着くがよい」


 ツァバトは、満足げな顔して、その場にスッと立ち上がった。


「ちょうどよい。干しイモを我に捧げた代価として、この男……勇者アークといわれる存在について、我が知る限りの来歴と知識を、汝らに授けてつかわそう」


 おごそかにツァバトは告げた。

 俺の来歴、干しイモと対価。安いな俺……。


 というか、俺の都合はガン無視か貴様。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ