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065:死を呼ぶ金属タライ

 ウメチカとエルフの森を繋いでいた地下通路を馬車で踏破してから、まだ一週間ほどしか経っていない。まさか、こんなところで、まったく同じ構造の通路を歩くことになろうとは。

 あの地下通路は、もとは超古代の地下遺跡だったそうだが、ここもそうなんだろうか。


 俺とミレドアは連れ立って歩き続けた。階段を下りて通路に入ってから、二、三十分くらいは経っている。最初のうちはキャアキャアうるさかったミレドアも、歩くうち、さすがに疲れてきたのか、口数が減ってきた。


「あのー、勇者さま」


 そのミレドアが、後ろから声をかけてくる。


「なんだ?」

「いまさらですけどぉ……道、わかるんですか? なんかここ、カンペキに、迷路って感じなんですけどぉ……」


 ミレドアの言うとおり、ここは迷路そのものだ。階段からしばらくは直線路だったが、次第にあからさまなカーブを描くようになり、やがて分岐点に出くわした。俺たちはアエリアの指示するままに、右へ左へ折れながらどんどん進んでいったが、おかげで、自分がいま向いてる方角すら、よくわからない。もともとマップも何もないし、そりゃ不安にもなるだろう。


「怖いなら、引き返してもいいんだぞ?」

「じょっ、冗談はよしてくださいよぉ! もう帰りの道だってわからないんですから、一人で引き返すなんて無理ですよぉ!」

「なら、しっかりついてこい。道案内は、こいつがしてくれる」


 俺は腰のアエリアの柄をなでなでしながら応えた。


 ──アアン。ハニー、ソコ、カンジチャウゥ。


 嘘こけ。


 ──チッ。


「それ、剣……ですよね? それが、案内してくれるんですかー?」


 ミレドアが不思議そうな顔で尋ねてくる。


「こいつは魔剣だ。自分の意思をもっている。そもそも、こいつが、ここの地下に何かあると言いだしたから、いまこうやって俺たちは歩いてるわけだ」

「へええ。その剣とお話とか、できるんですか?」

「触れれば、一応、こいつの声を聞くことができる。もっとも俺以外の人間が触れると、途端に正気を失うぞ。呪いがかかってるからな」

「えぇー? そんなおっかないものなんですかっ? ゆ、勇者さまは、それ平気なんですかっ?」

「俺は問題ない。ようするに、俺以外には扱えないってことだ」


 ──アエリア、ノロイ、チガウ。マゾク。


 んなこた、わかってるよ。エルフの一般人に、魔族がどうとか言ってもわからんだろ。方便ってやつさ。


 ──ハニーモ、マゾク。マオウ。


 そうさ。まだ人間やエルフでそれを知ってる奴は誰もいないけどな。内緒にしといたほうが何かと面白いだろ。


 ──ワルイヤッチャナー。


 なんで急に関西弁やねん。





 ふと、前方に異変を感じ、俺は足を止めた。

 ミレドアも倣って立ち止まる。


「どうしたんですかー?」

「……静かに」


 現在地は──わからん。が、アエリアがいうには、ここは湖の下──それもけっこう沖のほうの、湖底の地下だという。ずいぶん歩いたからなあ。

 それはともかく、ここいらの通路には、何か仕掛けがあるようだ。全体的に妙な気配が漂ってきている。


 床を眺めやると、ずらりと並ぶ石畳のなか、少々他より浮き上がった感じの部分がいくつかある。あれだな。仕掛けを作動させるスイッチになってるんだろう。

 こういうときは。


 迷わず、手近のスイッチを踏む。

 左の壁に、小さな穴がパカンと開き、そこから矢が数本、飛び出してきた。


「おっと」


 定番の罠だな。ちょいっと手を払って、チョップで矢を叩き落とす。俺の動体視力ならば造作もないことだ。


「な、なんですか? 罠?」


 ミレドアが驚いて声をあげる。


「そのようだ。他にも仕掛けがあるようだぞ。気をつけ……」


 言ってるそばから、ミレドアがうっかりスイッチのひとつを踏んづけたようだ。カチリ、と音が響いた。

 途端、天井から大きな金属のタライが落ちてきて、ミレドアの脳天にガギョーンっと直撃した。「ほげっ」と妙な声をあげて、ミレドアはその場に倒れこみ、動かなくなる。どうも首の骨が折れて、即死しちまったようだな。何のコントだこれは。


 仕方ないのでミレドアに蘇生魔法をかけてやる。


「あ、あれ、わたし……?」


 魔力の輝きが消えると、ミレドアはむっくりと起き上がって、きょときょと左右を見回した。


「まったく、手間をかけさせる。気をつけろよ」

「は、はい……」


 ミレドアは、ちょっとションボリした様子でうなずいた。

 しかし。その後も、天井から槍が降って頭に突き刺さったり、床がパカッと開いて穴に落ちたあげく剣山に全身貫かれたり、左右の壁から炎が噴き出して黒焦げになったりと、罠にかかりまくるミレドア。その度に俺が蘇生させてやったが、当人はあまり反省もせず、また新たな罠にかかる。わざとやってんのかお前は。


「あのな、いくら蘇生できるったって、これでけっこう魔力も体力も使うんだぞ」

「す、すいませんー……。いえ、決して、わざとってわけではー……」


 そう涙目を向けてくるミレドア。服は炎に焼かれてボロボロ。ほぼ半裸だ。なかなか色っぽい姿だが、今は欲情してる場合じゃないな。

 もう面倒だ。こうなったら。


 アエリア、力を貸せ。


 ──ウニャ? トブ?


 そう、飛ぶんだよ。正確にゃ、浮かんで移動するって感じだが。


 ──ン。ヤッテヤンヨー。


 アエリアが魔力を解放した。たちまち身体が軽くなる。

 俺は腕をのばし、ミレドアをひょいっと抱きかかえた。お姫さま抱っこだ。


「ひょえっ? な、なんですかぁっ?」


 ミレドアが目をぱちくりさせて聞いてくる。


「じっとしてろ」


 そう言いきかせつつ、俺は少々意識を集中させ、ミレドアを抱えたまま、宙に浮かびあがった。だいたい床から一メートルくらい。これなら、罠も動作しないだろう。


「えっ、ええっ? 浮いてるっ?」

「あーもう、騒ぐな。目的地まで、一気に突っ切るぞ」


 ふわふわ浮いて前進し、スイッチの大群を飛び越え、俺たちはそのまま通路を飛び続けた。思えば、最初からこうしときゃよかったかもな。



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