638:謎のメッセージ
結局、俺の必死の説得により、普通にアークと呼ぶってことで、サージャもどうにか納得してくれた。和え物にされてはかなわんからな。
「ちぇー、つまんないのー。でも、勇者しゃまがそうしろっていうなら、それでいいでしゅ」
サージャはまだちょっぴり不満顔。なんでああああなんて呼びたがるのか、さっぱりわからん……。そりゃ魔王時代、人間どもからは、そう普通に呼ばれてたが、そのたびに膝から力が抜けるような気分になったものだ。
こちらの相談が一段落ついたところで、仙丹があらためて声をかけてきた。
「もうよろしいですか? 白和えさん」
白和えって……。せめて胡麻和えで。
「おいしいですよね、ホウレン草の胡麻和え」
「さっさと本題に入らんかい!」
なんでこんな無駄にノリが軽いのやら。おかげでこちらも気楽に話せるが。というか胡麻和え食ったことあるんかね。精霊なのに。
「……では、アークさん、ミルサージャちゃん。これからお話しすることは、他言無用です。決して口外しないでくださいね」
結局コイツもアークで決まりか。無難な選択で何よりだ。俺とサージャは二人揃って真面目くさった顔つきで同時にうなずいてみせた。
「七仙のデータを解析したところ、彼らのデータに手を加えていた犯人が判明しました。エロヒムです」
いきなり断言する仙丹。よほどハッキリした証拠でも見つけたんだろうか。
「エロヒムとは?」
「太古の精霊です。この世界の造物主から分かれた四つの分霊のひとつといわれていますね。ツァバトとほぼ同格の力を持つ、強大な上位存在です。もっとも、わたしは直接の面識はありませんが」
ほう、あのツァバトと同格とな。そりゃ強そうだ。しかし造物主の分霊って、どっかで聞いた気が……。
あー、そうか。ルードだ。あの超絶イケメン楽士も、自分のことを造物主の分霊だと言ってたな。ルードは任意に非生物のデータアドレスに介入し、自在に消去する、まさに神に通じる能力を持っていた。ひょっとして、エロヒムとやらもルードと同じような能力を持ってるんだろうか? だとしたら、俺にとっては途方もない強敵ということになりそうだが……。
「……そんなご大層な存在が、わざわざ俺の結婚の邪魔をしてたってのか?」
「より正確にいえば、アークさんとミルサージャちゃんの結婚、ですね。お二人が結ばれることが、エロヒムはお気に召さないようです」
「え? どーしてでしゅか?」
サージャがキョトンとした顔でたずねる。
「それはですね……。どうもその、エロヒムは、ミルサージャちゃんが随分お気に入りのようでして……」
は?
「勇者ごときにミルサージャちゃんは渡せない……とか、そういう理由らしいです」
なんじゃそりゃ。
お気に入りのサージャの結婚を阻止したいがために、俺に妨害工作を仕掛けてきてたってのか。造物主の四分霊のひとつ、太古の精霊ともある上位存在様が、わざわざ? ……いきなり話がぶっ飛びすぎじゃないか?
「……本当なのか? どうも、にわかに信じ難いんだが」
「事実です。さきほどデモーニカちゃんのデータ領域を調べたとき、新規にコメントが書き込まれてるのを見つけまして……バイナリエディタでは文字化けして読めなかったんですが、該当箇所をコピーしてテキストエディタに貼り付けると、変なメッセージが先史文字で書かれていたんです」
先史文字って、ここの出入口の扉にも刻まれてたやつだよな。文字化けしてたってことは、たぶん文字コードが違うんだろう……ってこれ、七仙のデータの話だよな? パソコンの話じゃねーよな?
「……で、その内容とは?」
「はあ、それがですねぇ。えーっと、これなんですけど。見えますか?」
ふと、仙丹の表面に、ぽうっと青白く輝く文字列が浮かび出した。
「なんでしゅか、これ?」
サージャが首をかしげた。先史文字だな。サージャには読めんようだが、俺はなぜだか普通に読めてしまう。その内容は……。
――ミルサーたんはボクの理想的な最高の美幼女です。あの笑顔を見るだけで即お持ちかえりしたくなります。あの可愛いかぼちゃパンツを(自主規制)したり(自主規制)したいです。いやいっそもう、あのかぼちゃパンツを(自主規制)(自主規制)して、ミルサーたんの(自主規制)な(自主規制)を(自主規制)(自主規制)したいです。ああもう想像するだけでボクの(自主規制)が(自主規制)で(自主規制)です。ミルサーたんと(自主規制)するのは絶対ボクだけです。そうでなければいけないのです。成り上がりの半端精霊ごときに絶対ミルサーたんを(自主規制)(自主規制)させません。かくいうボクはエロヒムです。エロヒムです。エロヒムです……。
「うわキモっ」
俺は思わず呟いた。想像以上に気持ち悪いコメントだった。ドン引きどころの騒ぎじゃない。キモいテキスト世界選手権の予選リーグC組を二位通過して本選トーナメントに出場できそうなぐらいキモい。
「ですよねぇ。わたしも最初これ読んだときは、あまりのキモさに、つい口からキラキラした何かを吐きそうになりましたから」
仙丹から呆れたような声が響く。さっきキモッとか呟いてたのは、まさにこれのせいか。キラキラした何かってなんだろう……。




