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632:東ヨドガー三丁目


 事件は数時間であっさり解決した。

 庭園に倒れていたエルフ娘は長老公邸のメイドで、重傷ではあったが生命に別状はなく、俺の治癒魔法一発でさくっと全快してしまった。なんせ今の俺の魔力はかつての魔王レベルに達している。ごく単純な治癒魔法でも、その効力は凡人のものとは桁違いだ。


 その後、なぜか山さんとスニーカーがてきぱきと現場を仕切り、被害者から証言を取った。

 なんでも、被害者は同僚のメイド少女の一人と恋愛関係にあったが、その痴情のもつれから庭園のど真ん中で口論となり、あげく攻撃魔法を叩き込まれてしまったという。この世界のエルフは同性愛者だらけなので、その点は今更どうでもいいんだが、攻撃魔法って。なんでもかんでも魔法で解決するのがエルフの流儀、と以前ルミエルは言っていたが、痴話喧嘩で攻撃魔法をぶっ放すとは。さすがというべきか、なんというか。


 被害者は一命を取り留め、あっさり回復したとはいえ、これは立派な傷害事件。当然、加害者もお咎め無しとはいくまい。山さんとスニーカーは、まず俺に捜査の許可を願い出てきた。しかし、ここはルザリクじゃない。俺が勝手にそんな許可を出すわけにはいかん。そこで俺のほうからムザーラに連絡し、事情を話してみた。

 ムザーラは「勇者さまが監督責任を負ってくださるならば」という条件付きで、山さんとスニーカーを一時的に火付盗賊改方長官直属の「目明し」として雇い入れ、この一件の捜査を任せるという措置を取った。目明しってのは役人ではなく非公式の警察協力者のことで、時代劇では岡っ引きと呼ばれてるアレだ。こんな緊急措置を瞬時に捻り出し実行に移せるムザーラも、大概タダモノじゃないな。


 そこから先は山さんとスニーカーの独壇場。逃亡した加害者の足取りを追い、わずかな手掛りをもとに潜伏先を推定、火盗改めから出張してきた与力たちと連携して加害者を確実に追い詰め、逮捕に至る。事件発覚からわずか四時間余りというスピード解決となった。逮捕現場は中央霊府の外郭部の下町、東ヨドガー三丁目……。おや。どっかで聞いたような地名だな。


「あのお二人、ルザリクの治安部署の高官と聞き及びましたが……それも納得ですな。勇者さまは実に優秀な人材を召し抱えておられるようで」


 加害者逮捕の詳報が長老公邸に達すると、ムザーラはすっかり舌を巻いた態で呟いた。山さんとスニーカーの捜査ぶりは、火盗改めの与力たちも瞠目するほどの手際であったという。あいつら、本当にどこまでも現場人間なんだな。ルザリクに戻ったら、本格的に今後の処遇を考えてやらねばなるまい。

 なお、加害者は、被害者より年下のメイドの少女で、ついカッとなって風の魔法を操り、被害者をぶっ飛ばしてしまったという。被害者は頭から地面に叩きつけられ、血を流してそのまま動かなくなったため、てっきり殺してしまったと思い込み、怖くなって逃げ出したものらしい。


 どの程度の罪状になるかわからんが、ムザーラがいうには、攻撃魔法を使用しているため、通常の傷害事件よりは少々厳しい裁きになるだろう、とのこと。良くて猶予刑、最悪で実刑三年ぐらいになるとか。……それだと、今後、俺とサージャの婚姻の恩赦で釈放ということになるかもしれんな。ともあれ一件落着ということでよさそうだ。





 事件も無事に解決した、その夕方。

 長老公邸の客館のリビングには、一風変わった料理が並んでいた。


 竜肉の酒蒸し、竜肉入りケバブ、竜肉の天ぷら、竜肉の串カツ、お好み焼きに竜肉を入れた、いわゆる竜玉……。

 竜肉づくし。それも、食材は高価だが、料理自体はどこか庶民的。味はかなりのものだ。ルザリク庁舎食堂の板前さんにも負けてない。


 料理を提供してきたのはムザーラだった。より正確には、下町の定食屋から、ここまで超特急で料理を運ばせたのだとか。


「近頃、東ヨドガーに竜肉料理の専門店がオープンしましてな。早い、安い、旨いと三拍子揃って、巷では随分評判になっておるようです」


 ほう、そんな店が。東ヨドガーに……。

 ……ん?


 東ヨドガーで、竜肉専門店? なんか、身に覚えがあるような。

 ……あ。そうか、思い出した。まさかあいつか?


「なあ、ムザーラ。そこの店主って、クラウスとかいう奴じゃないか?」


 ムザーラはうなずいた。


「左様。やはりお知り合いでしたか」


 やっぱりアイツか。

 クラウス――もとは下町の定食屋の若主人だったが、ギャンブルにハマってルードから借金を背負い、すっかり身を持ち崩していた男だ。少し前、俺はルードと交渉してクラウスの債権を譲り受けている。妹のユニは俺が身元を引き取ってルザリクの庁舎食堂に入れ、クラウス本人には虹の組合の竜肉商人への紹介状を書いてやった。クラウスを料理人として更生させるために、竜肉を格安で、かつ優先的にクラウスのもとへ卸してやるよう便宜をはかってやったわけだ。


 ……と、こう表面上の経緯だけを並べると、まるで俺が善人みたいだな。実際には妹のユニの巨乳っぷりが気に入ったので、ルードから債権を譲ってもらい、借金の抵当に入っていたユニを俺のものにした……というだけのこと。クラウスに虹の組合への紹介状を書いてやったのは、ユニが安心して兄のもとから離れられるよう、ほんのちょっと気をきかせてみたに過ぎん。もちろんその後、ユニの巨乳は存分に楽しませて貰ったけどなふへへへへへ。

 で、そのクラウスが、いまや巷の噂になるほどの店を構えたと。あまり期待してなかったが、どうやら更生できたってことか。ムザーラが言うには、先日の馬車レースの一件で、俺が長老公邸に滞在していることを知ったクラウスが、「是非に勇者さまにご賞味いただきたく」とかいって長老公邸に料理の提供を申し入れてきたという。


 そういうことなら一度、あいつの店に様子を見に行ってみるのもいいかもしれん。借金の取り立てもあるし。実は利息がトサンのままなので、あいつの負債総額はまだまだ膨れ続けてるんだよな……。





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