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608:すべて俺の仕業


 つい先頃……巨大なカマイタチで隣山の頂をぶった斬ったことで、今の俺には、魔王時代に匹敵するほどの魔力が宿っていることを確認できた。

 もと魔王としては、本来の力を取り戻した――というべきだろうか? もっとも、魔法の行使にいちいち詠唱が必要になるため、すべて以前と同じというわけにはいかない。あらかじめ呪文と術式を知ってる魔法でないと使えないし。


 そんなわけで、初級の攻撃魔法でも、今の俺なら相当な威力が出せるだろうとは一応予測していた。それを地面に打ち込んで強めの爆風を発生させ、落下速度に少々ブレーキをかけてみようと試みたところ――それはうまくいったが、山林の一部に大穴が穿たれ、地表は灼熱して岩石は赤く煮えたぎり、濛々たる黒煙とおびただしい熱気流が渦巻く焦熱地獄のごとき状況を現出させてしまった。ナショナルトラストが激しく抗議してきそうなレベルの環境破壊だ。

 その地獄のような地表へと、俺はまっすぐ降下した。地面にぶつかる寸前、くるりと宙に一回転し、ギリギリのところで姿勢を整え、両足から見事に着地。我ながらキレイに決まった。観客がいないのが残念なところだ。これも爆風で減速していたからこそできた芸当で、それがなければ、いくら空中で姿勢を整えようとも、高速でまっすぐ地面に突き刺さり、そのまま地表を穿ち抜いて土中深く埋まってしまったことだろう。この判断自体は間違っていなかったと思う。ただ、今の俺がメラを撃ったらメラミくらいになるだろうと思ったらメラゾーマになってしまった。それだけのことだ。


 周囲を見渡してみる。俺の魔法で空中に巻き上げられた土砂が、ばらばらと頭上から降り注いできている。他人の気配のようなものは特に感じないのだが、どこからか、俺を見ている奴がいる。どうもそんな気がする。

 ふと、足もとに視線を落とす。地面の一部が不自然に隆起しているように見える。


 ……よくよく観察してみると、それは隆起した地面ではなく、何者かが仰向けの姿勢で土砂にほぼ全身埋まり、顔の上半分だけ地表に出た状態で、じっと俺を見つめている姿だった。――気のせいじゃなくて本当にいやがった。しかしまた、なんとも器用な埋まり方をしていやがるな。


「あのぅー……」


 土砂の中から、くぐもった声が聞こえた。


「できましたら、助けていただきたいのですがぁ……」


 女の声だ。こんな状況にしては妙に間延びした、のんびりとした声だが。なんにせよ女なら助けてやろう。……男だったら、無視して立ち去ってたところだ。運がよかったな。

 俺はその場にしゃがみ込んで、積もった土砂に両手を突っ込み、埋まった女の身体を両腕で抱きかかえるようにして、一気に引きずり出した。


「そっ、そんな、いきなりぃ……大胆なんですねぇー……」


 女は俺の腕のなかで、ちょっと戸惑ったような声をあげた。かなり豊かな、柔らかい膨らみが、俺の胸もとに弾力たっぷりに密着してくる。これはよいものだよいものだ。まさに役得。……とか言ってる場合でもない。地面から引きずり出した女は、例によって金髪碧眼長耳のエルフ美女。しかし髪も顔もすっかり土砂に汚れて、もとは純白だったであろう長衣も見るかげもないほど泥まみれ。


「はー……助けていただきましてぇ、ありがとうございますぅ」


 それでも、俺が助け起こして座らせてやると、ようやく人心地がついたのか、美女は穏やかに微笑んで礼を述べてきた。


「さすがは勇者さま。困ってる者には、きちんと手を差し伸べてくださるんですねぇ」


 いや、女だから助けたんだけどな。男なら確実にスルーしてる場面だった。


「……俺が勇者だと知ってるってことは、おまえ……七仙の?」


 俺の問いかけに、泥まみれのエルフ美女は当然のようにうなずいてみせた。


「はい。光仙のアンジェリカと申しますぅ。お待ちしておりました、勇者さまぁ」


 なるほど。山頂から、光仙が待つというチェックポイントめがけて直接ダイブしてみたら、見事に大当たりしちまったようだな。これは好都合。さて、コイツはいったいどんな能力を持ってるんだろうか?





「それにしてもー、ずいぶん、お早くおいでになられましたねぇ。もう少しー、時間が掛かると思ってたんですけどぉ」


 アンジェリカは、長衣にまとわりつく土砂をぱたぱた払いながら、ゆっくり立ち上がった。


「山頂から直接、飛び降りてきたからな」


 俺が応えると、アンジェリカはクスクスと微笑んだ。


「またまたぁー、そんなご冗談を……」

「いや普通に事実だ。ついでにいえば、さっきの爆発も俺の仕業だ」

「あらぁー、それはそれは……」


 ひた、とアンジェリカの顔つきが変わった。


「ってこたァ! アタシが埋まったのも、テメェのせいかよぉ!」


 今までのノンビリ穏やかな表情から一転、グワッと怒髪天を突くがごとき壮絶な顔つきで俺を睨みつけてくる。おお、なんたる物凄い顔芸。うん確かに俺のせいだけどな。だが謝罪などせぬ。


「せっ、せっかくオメカシして、服もキレイに洗って、お行儀よく待ってやってたのによぉ! こんなんなっちまって! どうしてくれんだテメェェ!」


 あー、やっぱこういう奴なのね。どうも七仙ってのはどいつもこいつも無駄にクセが強いっつーか。もうだいぶ慣れちまって、今更驚く気にもなれん。

 と思ってたら、ザックからアグニの声が響いた。


「いえ、アンジェは本来、ごく穏やかな性格ですよ。何があろうと、こうも激昂するはずはないのですが……」


 ほう……ならば、こいつもマテルと同様に、精霊だか何だかによって、変な改造を施されてる可能性がある……ということか。



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