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046:外道勇者のいい旅・夢気分

 身体を洗うつもりが、ついつい戯れがすぎて(自主規制)まで。まあ珍しくないことだ。俺の場合。ルミエルも実に楽しそうだった。

 愉快だったのは、ジーナとリリカとかいうエルフ娘たち。最初は俺らの姿を見て驚いてたが、こっちが洗いっこを始めると、あいつらも負けじと激しく(自主規制)して、結局ダブルノックアウトまでいってしまった。


 俺たち四人は、ほぼ一斉に深々と満足の吐息をつき、連れ立って露天風呂に入った。なぜかお互い、奇妙な連帯感のようなものが生まれて、すっかりフランクな状態に。なんとも面白いことになってしまった。

 リリカとジーナはかなりガチのあっちカッポゥらしく、ルミエルに変な色目を使うことはなかった。お互い「だけ」を愛し合ってて、他は欲望の対象にならないんだろう。ピュアに歪んでやがるぜ。


 どっちも割と似たような顔つきと髪型で、ぱっと見は姉妹のようにも見えるが、別にそういうことはないそうだ。胸のほうには明確な違いがある。ジーナはかなりの巨乳。Eカップくらいありそうだ。ルミエルといい勝負。リリカのほうは、どっちかといえば貧乳だが……かなり、黒い。先端が。


「へぇー、地下から来たんだー。あたしたちは、北霊府から来たんだよ」

「あたし、人間って初めて見たけど、女の人も男の人も、すっごい綺麗なんだね。なんだか羨ましいなぁー」


 すっごい綺麗……誰が……。そういや、こいつらの美的感覚じゃ、俺は絶世の美少年なんだっけか。


「北霊府って、どんなところだ?」


 尋ねると、二人は顔を見合わせた。


「うーん。ゴチャゴチャしてるよねえ、ここより」

「だねー。それに、最近はちょっと物騒だし」

「物騒?」

「戦争が近いんだって。翼人との。いままではこっちの軍隊が攻めてたんだけど、近々、向こうから攻めてくるんじゃないかって噂でね。あちこちで兵隊が訓練とか見回りとかやってて、森全体が緊張してるんだよねー」

「そうそう。だからあたしたち、中央に避難しようかと思ったんだけど、中央も兵隊だらけで、落ち着かないし」

「……それで、この西霊府まで来たってわけか」


 二人は同時にコクンとうなずいた。息ピッタリだなこいつら。中央霊府を経由してきたのなら、ちょうどいい。


「中央霊府について、詳しく聞かせてくれんか? ちょいと、あそこに用事があってな」

「んー、あそこはねぇ……」


 ──二人が語るところによれば。

 中央霊府はエルフの森では最大の森林集落で、とくに中枢部は木造の城郭で囲まれた要塞のような体裁になっているという。人口およそ二十万というから、ウメチカを凌ぐほどの大規模なコミュニティだ。中枢は長老直属の親衛隊によって守られており、東西南北それぞれの関門に衛兵らが常駐している。あのフィンブルの研究所も、その中枢部の城郭内にあるという話だ。ただ、中枢の守備兵力の具体的な規模までは、二人にもわからないという。


「二、三万人くらいはいるんじゃない? とにかく街中、兵隊だらけだったよね」

「うん。それに、みんなピリピリしてたし」


 北霊府が緊張状態なのは、隣国である翼人の国と境を接しているためだろう。翼人と本格的な戦争になれば、その矢面に立つことになる。物々しいのも当然だ。しかし中央までもが、そうも険呑な空気になっているのは何故なんだろうな。


「竜の襲撃に備えてるって噂だよ。実際、東霊府の森なんかも、かなり竜の大群に焼かれちゃったらしいし。次は中央じゃないかって」

「あの竜って、どこから来るんだろうねぇ。結界も素通りだし」


 この二人も、竜を何度か目撃しているそうだ。北霊府にも、少数ではあるが襲撃して来ているらしい。


「竜ですか……たしかにあれは謎ですね。魔王の魔力の影響で暴走していると聞きますが……」


 ルミエルが呟く。そりゃウメチカの王様が言ってるだけだ。ケーフィルだって否定してたし。

 俺はちょっと考え込んだ。かつて旧魔王城付近に棲息していた竜どもとは明らかに別種の、禍々しい怪物。エルフの結界を素通りできるということは、そもそも魔族とは関わりのない存在のはずだ。魔族やその眷属は、あの結界を抜けられないからな。肉がやたら旨いのも不思議だ。どういう食性なんだろう。考えれば考えるほど謎だらけだ。情報が少なすぎて、なにひとつ断定できる事柄がない。


 ともあれ、二人のおかげで、中央霊府については、おおよその雰囲気を把握できた。それだけ守備の兵力がいて、がっちりガードされているなら、こちらも暴れ甲斐があるってもんだ。正直、中央までがこの西霊府みたいなど田舎だったら、気が抜けて、それどころじゃなくなっちまうだろう。


「ねーねー、地下の話、聞かせてよ!」

「ウメチカってどんなとこ? エルフでも行ける?」


 今度は二人から質問攻め。ウメチカの事情なら、俺よりルミエルのほうが何かと詳しいよな。


「ルミエル、任せる」

「はい、お任せあれ」


 ルミエルはニッコリ笑って質問に応えはじめた。





 風呂から出て部屋へ戻ると、豪華な夕食が待っていた。

 伊勢海老や黒鯛のお造り、地元の牛肉と野菜をふんだんに使った各種の煮物、ヤマメの塩焼き、網焼き松茸。すげえ。この世界で松茸なんて初めて見た。あるんだなあ。まさに山海の美味燻醸。温泉宿の醍醐味だな。


「あいにく竜肉の在庫を切らしておりまして……。今日ようやく、商人から連絡が届いたんです。明日には入荷できそうなんですが、今夜はどうしても間に合いませんで……」


 女将が言う。多分それ、俺が移民街の商人どもに売りさばいた肉だろうな。まあ、昼間も竜肉サンドイッチ食ってるし、別にいいけど。


「気にしなくていいぞ。どれも旨いし。ずいぶん腕のいい板前がいるんだな」

「いえ、その。実は……」

「ん?」

「それ、全部、わたしが料理したんです」


 それは凄い。プロ級、いやプロそのものじゃないか。大したもんだな。


「魔法を使わず、手作りにこだわったお料理がモットーです。最近はお刺身すら、包丁を使わないで、風魔法で切り刻んだりする料理人が増えてるんですよ。嘆かわしいことです」


 それのどこがどう嘆かわしいのか、俺にはいまいち理解できん。料理も魔法でさっと済ますのがエルフ流、とルミエルは言ってたが、それに頼らないコダワリ派もいるってことかね。

 女将は例によってルミエルに妖しげな流し目を送りつつ、障子を引いて、退がっていった。よほどルミエルを気に入ったものとみえる。


 当のルミエルは、料理に夢中のようだ。ひとくち食べるごと、心から幸せそうに微笑んでいる。見ているだけで、こっちまで幸せになれそうなくらい。


「どれもずいぶん手間がかかってますよね。このしぐれ牛肉なんて、トロットロに柔らかく煮込んであって、本当においしいです」

「ああ。この茄子の揚げ浸しもいいぞ。ダシが染みっ染みで」

「この松茸の香りが、また……」

「ヤマメか。鮎もいいが、こっちも独特の野趣が……」


 結局、ひたすら旨い旨いと言い合うだけになってしまった。これだけのものを一人でこしらえるなんて、あの女将もやるじゃないか。魔王城の食堂にスカウトしたいくらいだ。

 魔王城といえば、畑中さんも和食が得意だったなぁ。今でも元気で料理やってるんだろうか。いずれまた、あの食堂で糠漬けや納豆を味わいたいもんだ。


「さて……満腹になったところで。さっき面白いもんを見かけたんだが」

「なんですか? ……あ、もしかして。これですか」


 応えつつ、ひょいっと腕を振るルミエル。


「そう、それそれ。一緒にどうだ」

「いいですね。でも手加減してくださいね?」

「むろんだ。遊びだからな。楽しくやろう」


 俺たちは浴衣姿で連れ立って部屋を出た。念のため、顔の下半分を手拭いで覆い、ロビーを経由して、娯楽室へと向かう。

 目指すは、温泉宿の定番──卓球台。



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