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045:湯けむりに響く声

 馬車小屋に馬車を預け、旅館の玄関へ。

 エルフの仲居さんたちが並んで出迎えてくれた。


「おこしやすぅ」


 膝をつき、さわやかな笑顔で声を揃えてご挨拶。なんでいきなり京都弁。しかもみんな和服。おまけに若くて美人揃いとくる。ずらっと並んでる姿を眺めてるだけで、ついつい鼻の下が伸びてくる。

 いや、若く見えるだけで、実際に何歳くらいかはわからんがな。なんせあのクレアたちも、見た目は十代の美少女って感じだったのに、実はみんな百歳越えてたし。人間の年齢でいうと二十代半ばくらいになるそうだ。わからんもんだな。


 旅館内部は意外と広い。掃除も行き届いてて清潔だ。

 一階奥の二人部屋に案内され、ようやく旅装を解く。なんと和室だ。畳の部屋だ。この世界にも畳があったのか。まあ納豆や奈良漬けがある世界だし、そんなに不思議でもないか。


「この畳っていう敷物、好きなんですよ。手触りと香りがなんとも……」


 ルミエルが上機嫌で畳をなでなでしている。ルミエルが言うには、畳はエルフ秘伝の床材で、製法も素材も謎なんだとか。たかが畳ひとつで大袈裟な。稲藁とイグサがありゃ、人間でも作れるだろうに。それなりに手間はかかるがな。

 顔を覆い隠していたマフラーを取っ払い、浴衣に着替えたところで、障子の引き戸が開いて和服姿の金髪女将登場。おおぉ、これまた物凄い美形だ。たおやかな物腰、切れ長の目もとが、ちょっと大人びた雰囲気。しかし美しい女将は、柔和な笑顔を浮かべつつ、もっぱらルミエルへチラッチラッと興味深げな視線を向けている。チィッ、こいつもアレなのか……。


「お疲れでしょう。今日はどうぞ、ごゆっくりなさってくださいね。後でお料理をお持ちいたします」


 女将は型どおりの挨拶を済ませて出て行った。なんだ、京都弁じゃなくて普通だな。それはいいが、あの視線、ちょっと危険なものを感じたぞ。


「ルミエル。気をつけろよ。また犬に噛まれるぞ」

「……はい。気をつけます。アークさまも、油断は禁物ですよ? 男性の旅行客も来てますから」

「お、おう……そうだな」


 ともあれ、二人で大浴場へ繰り出してみる。混浴の露天風呂だ。うまくすれば、エルフのねえちゃんたちのヌードが拝めるかな……と思ったが、他に客はいなかった。ちと残念。

 湯けむりのなか、二人でそっと湯船に浸かる。ちょうどいい湯加減。まともに風呂に入ったのは何日ぶりだっけな。地下通路の宿場の豪華ホテルに泊まって以来か。だいたいシャワーで済ませちまうからなあ。


 ふと見上げれば、もう日はすっかり傾いて、夕焼けの空に始祖鳥の群れがギャアギャア鳴きながら列をなして飛んでいる。だからなんでそんなもんが普通に存在してるんだよこの世界は。


「アークさま。あとで、お背中お流ししますね」

「ああ。じゃ、俺もルミエルの身体を洗ってやろう」


 背中じゃなく、あえて身体というところがポイントだ。前のほうもキッチリ洗ってやろうじゃないか。


「うふふ、アークさまったら。でしたら私も。すみずみまで、洗いっこしましょう」

「上等だ」


 ルミエルが身を寄せてくる。ちゃぷんっと、湯がはねた。

 俺はルミエルの肩を抱き、ぴとりと肌を密着させた。


 静かな露天風呂。温泉に浸かりながら、ふたり身を寄せ、紅く燃えるような夕空を眺めて。

 人生たまには、こういう命の洗濯も必要だよ。


 とか思ってたら、脱衣所のほうから、新たな足音と話し声が響いてきた。またなんか騒々しいのが来たな。女の二人連れらしいが、湯けむりのおかげでよく見えん。


「……でね、ここって他にはなんにもないでしょ、だからー」

「だねー、すんごい田舎って感じ。でもー」

「泊まるとこあって良かったよねー。もう野宿はイヤだよー」


 旅行客のようだな。確かにこのへん、何もないよなぁ。


「あー、ジーナ、またおっぱい成長してるー」

「そういうリリカだってぇ、先っぽが可愛くなってるじゃん」

「えー、でも、もうだいぶ……」

「まだまだ大丈夫だって。サリナなんかぁ、もう真っ黒だったよー」


 むむ。これが噂のガールズトーク……? 真っ黒ですか。いやむしろ大好物です。


「ね、ね、リリカ、洗いっこしよっか」

「背中?」

「んーんー、ぜーんぶ!」

「うん。いいよ」


 なんかどっかで聞いたような会話が。いやしかし。あいつらも、あっちかよ。なんだかねえ。もったいないなぁ。歪んでるよな。


「あはっ、くすぐったい! あっ、ちょっと、そこダメだって」

「いいじゃん、ほらほらぁー、いまさら恥ずかしがらずにさー。うりうりっ」

「ひゃんっ! あうぅ、ほんと、だめだってば……」

「ほーら。ここもしっかり洗わないと。ふふっ、ぴくんぴくんって動いてるよ。かっわいー。食べちゃいたいくらい」


 おおう……。ぴくんぴくんって。なにがだ。無駄に想像力を掻き立てられちまうわ。


「アークさま……」


 ふと、ルミエルが潤んだ目を向けてくる。なんか触発されちまったようだな。あんな声を聞かされたらなあ。俺も気持ちは同じだ。

 よーし。こうなったら、こっちも負けずに洗いっこだ!



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