004:光の守護者
俺のハーレムは王宮の奥を抜けた別棟にある。文字通りの後宮ってやつ。いまは一万人くらいかな。三分の二が人間で、あとは翼人だ。
一応、女どもには個室をあてがって、そこそこまともな暮らしをさせてる。ハーレムの女ってのは、ようするにメカケで、奴隷じゃないからな。俺の感覚じゃペットというほうが近いが。なんにせよ、こう数がいると、正直、誰が誰やらわからん。で、ついつい、ある程度印象に残る女のもとに通いつめてしまったりする。
最近は人間のお姫さまのとこによく行ってたが、今日は、なんとなく翼人って気分。その名の通り、背中に小さな鳥みたいな羽が生えてる種族だ。といっても空は飛べない。人間より多少ジャンプ力があるくらいだ。ようはニワトリだな。ニワトリ。
羽以外の見ためは人間とほぼ変わらないが、女はなぜか胸がやたらデカいのが多い。顔立ちもしっかり整ってて、いかにも気丈そうな雰囲気を漂わせてる。人間のほぼ二倍という長寿命もポイント高い。老化が遅いってことは、それだけ長いこと若くてピチピチした状態を維持できるってことだ。
そんな翼人の女の部屋へ、ノックもせずに入ってみた。
いきなり凄い光景が目に飛びこんできた。
すっ裸で大股広げて床で寝てやがる。大イビキかきながら。なんという大胆不敵。
俺は無言で女のそばへ歩み寄って、腹を踏んづけた。むぎゃ! とか面白い声をあげて、翼人女は目をあけた。
「目がさめたか?」
「あふん、魔王さま……今日はこういうプレイ?」
「違うわ」
俺が足をどけると、女はひょいっと立ち上がって、俺に抱きついてきた。でかい胸をぎゅむぅっと押しつけてくる。
「魔王さまぁ、ハネリン、寂しかったよぉ」
そう切なげにすがりつき、甘えてくる。にしても、羽が生えてるからハネリンとかいうネーミングはどうなのか。魔王ああああよりはマシか。
「もうねー、ハネリン、魔王さまが来てくんないから、飽きられちゃったのかなーって、毎日泣いて暮らしてたんだよ?」
今の今まで大股開いて幸せそうにイビキかいて寝てただろがオマエは。
「わかったから、さっさと顔洗ってこい。目ヤニだらけじゃねえか」
「はーい」
パタパタっと羽を動かしながら、ハネリンは浮き浮きした足取りで洗面所へ立ち去っていった。翼人は羽の動きで感情がわかる。犬のシッポと同じだ。久々に俺様がたずねて来たのが、よっぽど嬉しいらしい。
今でこそこんなだが、ハネリンはもともと翼人最強といわれた女戦士だ。だいたい翼人って奴らは人間より身体能力が高くて、戦いにも滅法強いんだが、ハネリンはそんな連中のなかでも別格だったな。
俺がわざわざ軍勢を率いて翼人の国に攻め込んだのは、翼人族の秘宝といわれる水晶球の噂を聞いて、ぜひ手に入れたいと思ったからだ。いま俺の玉座の間に浮かんでるやつな。人間どもの王国を滅ぼした後で、俺も少々調子に乗ってた時期だ。だが、この戦いは意外に手こずった。翼人どもが強かったってのもあるが、何よりこいつら、魔族の魔法がほとんど通じないっていうインチキ体質で、ひたすら力押しで攻めるしかなかったからな。
相当な犠牲を出しながら、なんとか翼人の都近くまで軍勢を進めて、よしあと一息、ってとこで、あいつが出てきやがったんだ。
――わたしはハネリン! 光の守護者の称号を継ぎし者! 魔王、あなたの思い通りにはさせない!
崖の上から、輝く金髪ロングを風になびかせながら、ビシィィッとこっちを指さす女戦士。ちょいと小柄ではあるんだが、胸だけはきっちり大きくて、なんかキラキラ光る鎧とか着てて、顔つきもキリッと引き締まってて、いかにも威風凛々って感じでな。光の守護者ってのは、翼人のなかでも最強と認められた戦士に与えられる称号だ。その小さな最強戦士さまが、選りすぐりの精鋭数万を従えて、魔族を討ちにやってきたってわけだな。
自分の身長の何倍もある馬鹿長い戟を持って、颯爽と崖を飛び降りると、ハネリンはいきなり俺らの軍勢の真っ只中に斬りこんできた。これがもう、強いのなんの。あいつが戟を振り回すたんびに、俺の部下どもの首が飛ぶ、腕が飛ぶ、足が飛ぶ。あのちっこい身体のどこにそんなパワーがあるのか、草でも刈るみたいにバッサバッサと斬るわ突くわぶん殴るわって、オーガもトロールも全然相手にならねえし。まさに無双ってやつ。さんざ部下どもの返り血を浴びて、血煙がもう赤い霧みたいにあたりを漂うなかで、それでもあいつは鬼みたいな形相で刃を繰り出してやがった。あいつ一人で軽く千匹以上はぶち殺したんじゃねえかな。そこに、翼人の軍勢が突撃してきて、もうこっちは総崩れ寸前よ。
こりゃいかん、と思って、俺様がハネリンのそばに瞬間移動して、後頭部を一発ブン殴っておとなしくさせてやった。っていうと、なんだハネリン弱いじゃんってなるかもしれんが、そもそも魔王様が戦場のど真ん中まで出ばって、じきじきにゲンコツ食らわさにゃならんとか、相当な異常事態だぞ。俺以外じゃ誰も手に負えんくらいハネリンが強かったってことよ。
その頃にゃ、周りはすっかり乱戦になってて、魔族側はかなり押されてたんだが、光の守護者さまがアッサリ魔王にノックアウトされたことで、翼人どもが動揺しはじめた。形勢逆転だ。ここで一気に勝負を決めるには──やるしかないわな。
ちょうどハネリンの意識も戻ったところで、俺はハネリンの鎧を剥ぎ取って、その場で(以下自主規制)。
……結局、ハネリンはあっさり俺の軍門に降り、その場で俺のペットになることを誓約した。直後、翼人どもはいっぺんに士気阻喪して、ほうほうの態で逃げ出していった。頼みの綱だった最強戦士が戦場で魔王に服従を誓うとか、そりゃ逃げたくもなるわ。
その後、さらに軍勢を進めて、とうとう翼人どもの都を包囲し、突入のタイミングを見計らってた頃に、翼人側の使者が全面降伏を申し入れてきた。何でも要求を呑むから、都を火の海にするのだけは勘弁してくれってな。
俺は王族全員と水晶球の引き渡し、魔族の軍勢を都の近くに駐留させること、俺の部下を執政官に据えて都を暫定統治させること、などを条件に降伏を受け入れ、無血入城をはたした。これで翼人どもは魔族の支配下に入ったわけだ。




