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020:神魂様がみてる

「スーさん……どうして、ここへ」


 俺は呆然と尋ねた。驚くなんてものじゃない。超可愛いお嬢様が、実は変装したスーさんって。久々の再会は嬉しいけど、どうにも素直に喜べないじゃないか。俺の純真なスケベ心を弄ぶなんてヒドいよスーさん。


「では、順を追って、説明いたしましょう」


 ――スーさんが語るところによると。

 俺がトラックに轢かれてから数日後、神魂の宿る水晶球が、突如、一人の赤子を映しはじめたという。神魂は、スーさんに、こう伝えた――これが魔王の転生先。未来の勇者だと。


 その日から、今日に至るまで十六年。水晶球は一日も休まず、三百六十五日、二十四時間、ひたすら延々とアークの姿を追い続け、その成長過程を余すことなく映し出してきたという。


「我らは、ずっと見守っておりました。陛下が人間の少年として、健やかに成長なさってゆくお姿を……」


 スーさんがしみじみと述懐する。俺は慌ててその言葉をさえぎった。


「ちょ、ちょっと待て。三百六十五日、二十四時間、休まずって……まさか俺、ずーっと見られてたのか?」

「その通りでございます」


 スーさんは当然のごとくうなずいた。なんというトゥルーマン・ショー! 

 てことは! 昔、アークがこっそり幼馴染のレオタードを盗んでクンカクンカしたり、しかもそれで初めてひとりアレをしちゃって初めてアレなことになっちゃったり、その後は夜な夜な、こっそり盗んだ幼馴染の下着をクンカクンカしつつひとりアレに励んだり、かと思えば教会でルミエルにアレな手ほどきをされちゃって、そのまま初めてアレな経験をしたり、実は母親の下着もしょっちゅうこっそりクンカクンカしてたりと、そんな! アークのあられもなき恥態がすべてッ!


 すべて見られていたというのかああああああ!


「幼児期の可愛らしさもさることながら、やはり見所は、十歳を迎えられたあたりからでしたな。色々とお覚えになられて、ひとりハフンハフンと悶えておられる美少年の愛らしさといいましたらもう、おかげで城の魔族たちの間でも、なにやら新しい性癖に目覚める者が続出したほどでございまして。チー殿など、毎日ハァハァしながらかぶりつきで観察しておりましたな。かくいう私めも存分にハァハァさせていただきました」


 ヒイイイイー! 城のみんなに見られてたー! 勘弁してー! ていうかハァハァすんな! おまえら揃いも揃って変態ばっかりかよ!

 そもそも、それらはアークの行動であって、俺がやらかしたわけではないんだが、俺とアークの記憶はすでに一体化している。つまり俺自身の過去にひとしいわけで。もう恥ずかしいとかいうレベルを突き抜けている。


「いえ、まあ……陛下はもともと、ところかまわずご乱行なさっておられたではありませんか。戦場のど真ん中とかでも。今更恥ずかしがられることでもございますまい」


 スーさんは顎をカックンカックン揺らしながら言った。あんた明らかに面白がってるだろ。そんな微妙なフォロー入れられても。


「そんなわけでですな。神魂のもたらす映像によって、陛下のご動向や現状に関しましては、こちらもじゅうぶん把握いたしておりますので」


「そ……そうか……」


 おのれ神魂。神様か精霊か知らんが、いらん真似をしおって。

 ここで、スーさんの態度から、ふと気付いた。


 俺は人間の、それも勇者に転生している。すでに魔王ではなくなっているはずだ。それなのに。


「……まだ、俺を陛下と呼んでくれるんだな。こんな姿になっても」

「何をおっしゃいます。姿形などに意味はございません。陛下は、絶滅寸前に瀕していた魔族を立ち直らせ、今日の隆盛へと導かれたお方。我ら魔族にとって、陛下は恩人にして偉大なる英雄、魔王のなかの魔王でございます。すべての魔族は、今なお変わらず陛下に忠誠を誓っておりまするぞ」


 相変わらず口がうまいな、スーさんは。おかげで俺は内心大いにホッとしていた。

 勇者に転生したことで、魔王としての地盤を全て失ったと思っていたのだが、それは早合点に過ぎなかったようだ。俺は今でも魔王であり、同時に勇者でもあるということか。なんとか、この状況を世界制覇へと活かしていきたいものだ。


「……それにしても、よくこんな場所まで来られたもんだな。ここは魔族も知らない、人間の隠れ里のようなところなのに」

「私の特技をお忘れですか? 神魂から、ここの位置については早くから聞いておりましたので」


 そうか。スーさんは瞬間移動ができるんだったな。位置さえ判明していれば、どこでも一瞬で飛んで来られるんだ。残念ながら、俺はこの能力を失ってしまったようだが。


「ただ、陛下はずっと本来の記憶を封じ込められていると聞きまして、あえて接触を控えておりました。勇者として覚醒すれば記憶も戻るはずという神魂のお告げを信じ、ずっとその時を待ち続けてきたのです。で、昨夜の(自主規制)を見るに及び、ああこの見事な(自主規制)、きっと陛下は記憶を取り戻されたに違いないと確信いたしまして」


 それも見てたんかい! 変なとこで確信すんな!


「そ、そうか。それで会いに来てくれたと……。そりゃいいが、なんでわざわざ、あんな変装を」

「約束してくださったではありませんか。私とデートしてくださると」


 約束?

 ……あー、そういやそんなこともあったな。神魂覚醒の秘儀の少し前に、そんな約束してたわ。


 十六年前の約束を、スーさんはずっと憶えていてくれたんだな。俺は完璧に忘れてた。ちょっと申し訳ない気分。


「いくらなんでも、この姿で人間の街でデートというのは無理がありますので、扮装で私の昔の姿を再現してみました。実は私、もとはサキュバスでございまして。色々あってスケルトン化してしまったのですよ。陛下が通りかかられるのを待って、声をおかけしようと考えていたのですが、まさか陛下のほうからお誘いいただけるとは思っておりませんでした」


 なんと……。昔はあんな可憐なお嬢様だったのか。このスーさんが。しかも女淫魔。あの物凄い魅力と吸引力は、そういうことだったんだな。


「おかげで今日は、昔に返ったような気分で、楽しく過ごさせていただきました。心より御礼を申し上げまする」


 カクンと頭蓋骨を下げるスーさん。いや……何か色々突っ込みどころ満載な気はするが、まあいいか。俺もけっこう楽しかったし。あのお嬢様スーさん、マジで可愛かったし。肉襦袢だけど。


「またあの姿になってくれるなら、今度は他の場所でデートしてやってもいいぞ。いつになるかは、わからないけどな」


「おお、本当でございますか。実は現在、さらなる精巧なボディを製作中でございまして。それこそ、夜のお相手もキチンとつとめられるようなものを。次の機会には、それを身につけてまいりまする」


 いえ。着ぐるみで夜のおつとめまでしてくれなくていいです。

 そのへんは今は置いといて。


「スーさん。聞かせてくれないか。そちらの状況を」


 気になっていることが山ほどある。情勢を把握したうえで、今後のことを考えなければ。



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