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193:屋台の王者

 ハネリンが両手に焼きそばの皿とソーセージを二つずつ、器用に抱えて戻ってきた。


「買ってきたよー! 食べよー!」


 俺たちは邸の玄関先の段差に並んで腰掛けた。ベンチがないんで、他の連中は立ったまま買い食いしたり、トブリンのそばにゴザをひろげて飲み食いしたりしてる。当のトブリンは、エルフの子供たちにちょっかいを出されたりしてるが、とくに気にするふうでもなく飼葉をもひゃもひゃやっている。

 リューリスが見守るなか、まずは、二人で海鮮焼きソバに挑む。薄い木皿にどっさり盛られ、湯気をたてている。味付けはソースでなく塩ダレのようだ。薄茶色の麺にイカ、タコ、剥きエビ、キャベツなどの具がバランスよく混ぜ込まれていて彩り豊か。


 ひとくち食せば、たちまち広がる海の幸のハーモニー。これは──!


「おっいしーっ!」


 ハネリンの笑顔がはじけた。素材を活かす系の、ちょっと薄い味付けだが、その具の素材がまさに絶品。細かく刻まれたイカ、タコは、びっくりするほどやわらかく、しかもほんのーり甘い。よほど新鮮なんだろう。サザエと牡蠣も入っている。なんと贅沢な。歯応えしっかり、広がる潮の香り、じんわり沁み出してくるコクのある旨み。ちょっと細めの縮れ麺が薄味の塩ダレにしっかり絡んでいる。大ぶりの剥きエビが、またぷりっぷりの食感。


「あーっ、おいしかったー! あはっ、これもおいしそー!」


 ハネリンは、ほぼ一瞬で海鮮焼きソバをたいらげ、もうジャンボソーセージにかじりついている。早っ!


「どうです? 海鮮焼きソバ、お気に召しましたか」


 リューリスがにこにこ笑顔で訊いてくる。


「これは旨い。海が近い土地ならではだな。B-1グランプリ制覇もうなずける」


 ハネリンもご満悦のようだ。


「すっごいおいしかったよ! あとでもう一皿食べたい!」

「ええ、何皿でも。これをお持ちください。さっき渡しそびれてしまいまして」


 リューリスは、例のフリーパスチケットをハネリンに手渡した。


「へええ、これ見せたら全部タダなの! じゃあ、あっちのおスシとかも?」

「ええ、もちろん」

「やったー! なら次は、おスシと綿あめ!」


 どんな取り合わせだ。

 大はしゃぎのハネリンを横目に、俺も焼きソバを食べ終えてジャンボソーセージにかぶりつく。こっちはなんというか、普通だな。いかにもジャンクフードって感じだが、こういう状況だと妙に旨く感じるのが不思議だ。パーキングエリアのアメリカンドッグや自販機ハンバーガーみたいなもんだろう。多分。


 ハネリンがぱたぱたとスシバーめざして駆けていく。「サーモンちょーだい!」って声をあげつつ。せっかく海が近いんだから、もっと何か別の近海もの頼めばいいのに。

 次第に、あたりは暗くなりはじめていた。あちこちで篝火がともされ、トレントの枝や屋台に吊られた提灯の列にも一斉に火が入った。どこからか、笛と和太鼓の演奏が聴こえてくる。祭り囃子か。いよいよ本格的にお祭りの雰囲気が出てきたな。





 結局ハネリンは一人で全ての屋台を制覇した。食べ物だけでなく、輪投げと金魚すくいでも見事な腕前を発揮し、大量の景品をゲットした。といっても金魚なんて飼えないし、景品もゴミみたいなもんだが、それもまた屋台の醍醐味。その間、俺やリューリスも適当に買い食いしながらハネリンの様子を見守っていた。りんご飴なんて久々に食ったなぁ。

 屋台の王者ハネリンも、唯一、くじ引きだけはハズレくじばかりで、十数回チャレンジしたが、一等どころか、何ひとつ当たらなかった。どうにも引きが悪いようだ。ハネリンはギャンブルとかには向いてないかもな。


「あーあ。ガッカリしてたら、またお腹すいてきちゃった。海鮮焼きソバ買ってくるー!」


 まだ食うんかい。二周目突入かよ。


「……リューリス、ハネリンの世話は任せた。俺はシャダーンに呼ばれてるんでな」

「ええ、お任せ下さい」


 リューリスはにっこり笑ってうけおった。こいつもなんというか、嫌味のない性格のようで、なんでもにこにこ笑って応えてくれる。まだ若いが、おそらく相当な苦労人と見た。シャダーンの従者として長年仕えて、よほど忍耐力を鍛えられたに違いない。


「明日、ちょっと剣の型を見せてくれんか」


 特に理由はないが──同門として、リューリスの腕前を見てみたい。ひょっとしたら、俺が習ってない型とかもあるかもしれん。


「わかりました。それなら明日の朝、一緒に稽古しませんか」


 ほう、朝稽古か。ハネリンもやってるんだよな。俺もウメチカでアクシードにしごかれてた頃は毎朝やらされたもんだ。むろん今の俺には稽古なんか必要ないが、たまには、つきあいでやってみるのも面白いかもしれない。


「いいだろう。ではまた明朝にな」


 ──リューリスと別れ、邸の玄関をくぐって、シャダーンの部屋へ向かう。例の星読みの暗室だ。

 シャダーンはまた何か話があるといっていたが、こっちから聞きたいことも多い。ケーフィルのこともそうだし、フィンブルやフルルのこと、長老のことなども。


 あと、アヘ顔ダブルピース女神像について小一時間ほど説明を求めたい。



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