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190:高らかに鳴る白骨

 ハネリンと二人、草のうえにしゃがみこんで、ああでもない、こうでもないと白骨を組みあげていく。

 ──どうにかスーさんを復元し終えた頃には、すっかり天候が悪化し、雷雨の様相を呈しはじめていた。


 俺たちは急いで引き返してトブリンと合流し、手近な樹の下へ移動した。みっしりと枝を繁らせるジャカランダの巨木だ。その枝葉で雨をしのぎつつ、スーさんから魔王城の近況などを聞いた。


「神魂の映像が回復したことで、城はもう早くも大騒ぎでございますよ。なにせ、陛下お手ずから、あの忌々しいエルフの森の結界を消し去られたのですからな。これでもうエルフも近々陛下の軍門に降ることは疑いなし、魔族による大陸制覇も近からんと、みなそれはもう喜んでおりまする」


 顎をカタカタいわせながら、ちょっと興奮気味に語るスーさん。スーさん自身も本当に嬉しそうだ。たしかに、俺たち魔族にとって、エルフの結界は多年の癌だったからな。


「……俺ひとりでは、こううまくいかなかったろう。スーさんが気を利かせて、ハネリンと閃炎の魔弓をこっちによこしてくれたおかげだ」

「い、いえいえ、私などは……すべては陛下のご威光の賜物でございますよ。やはり陛下こそは魔王のなかの魔王、まことの魔族の英雄にございます」

「はっはっは。もっと褒めていいぞ」

「いよっ、さっすが陛下! 天下最強! 鬼畜魔王!」

「はっはっは」

「憎いよっ! このど腐れ外道勇者!」

「わはははは!」


 俺がいい気になってそっくり返っているところへ、ハネリンが小首をかしげてみせた。


「褒めてんのそれ?」


 いやいや、今でこそ人間の勇者なんぞやってるが、本来俺様は魔族だからな。やはり鬼畜外道よばわりこそ俺様に相応しい最高の賛辞だ。むしろ、このスーさんの名調子で、ようやく魔王だった頃の感覚が戻ってきた気がする。やっぱこういう調子のいい部下がいてくれないとなぁ。

 ふと見ると、トブリンがなぜかスーさんの頭蓋骨をぺろぺろしている。なんだろう、珍しい光景だ。ひょっとしてスーさんのことが気に入ったんだろうか。スーさん当人は、むしろ大いに戸惑ってるようだが。


「ヒィィッ! ま、また頭蓋骨が外れてしまいますぅ! や、やめさせてくだされー!」

「トブリン、それは食べられないよー」


 ハネリンが笑いをこらえながら言う。トブリンはおとなしく頭をひっこめ、ハネリンのそばに悠々とうずくまった。食うつもりだったんかい! ひょっとしてあれか、白い骨を、岩塩の塊か何かだと思ったのか。


「ところでスーさん。クラスカとイレーネは、今、城にいるのか」


 異世界からの来訪者たち──黒龍クラスカ、白龍イレーネ。彼らとは、あのザグロス山の中腹で別れたきりだ。俺の命令書を持たせて城へ戻らせたはずだが──。


「あの方々は、陛下のご命令を我々のもとへお伝えくださった後、北の空間断裂へ向かわれました。いまは、こちらの作戦準備の手助けをしてくださっておりますよ」

「……そうか。あいつらも頑張ってるようだな。作業ははかどってるか?」

「ええ、順調でございます。近々、陛下のご命令どおり、作戦を実行する手筈になっております」


 空間断裂を通って侵攻してきたバハムートの先遣部隊は、すでに旧魔王城付近に橋頭堡を築いて、こちらの世界に居座っている。これに対し、俺は「ある方法」で時間稼ぎを行うよう、スーさんたちに命令書を出しておいた。どうやらすべて問題なく進行しているようだな。


「では、その件はそちらに任せる。……あ、そうだ。スーさん、こいつをチーのところへ持っていってくれ」


 俺は背中のザックをおろし、中からトレントの枝を取り出した。シャダーンに言われた通り、真っ二つに切って、半分を加工用としてシャダーンの邸に置いていき、残る半分を、こうしてスーさんに渡すために持ってきていたのだ。


「ほほう……! トレント化した樹木でございますか。それは珍しい」


 スーさんは、感歎したように首の骨をカクカクいわせながら、俺の手からトレントの枝を恭しく押し戴いた。


「スーさんもトレントを知っていたのか」

「ええ。陛下がこの世界へおいでになる以前は、どこにでも生えていたのです。しかし先の大戦の後、人間たちに焼き払われて、もう残っていないものと思っておりましたが」

「ああ。さっきアエリアも同じことを言ってたが……」


 突如、カコン! っと、スーさんの頭蓋骨が鳴った。


「ア、アエリア……とおっしゃいますと、よっ、よもや、あの天魔将軍アエリア様でございますか! い、いったい、どちらに……!」


 ずいぶん驚いてる様子だ。あ、そういや、スーさんとアエリアは、ともに先代魔王に仕えてたんだっけな。確かアエリアが魔剣になった際にも、現場に居合わせていたはずだが。


「気付かなかったのか? ここにいるぞ。ほれ」


 そう言って、俺は腰に佩いてるアエリアの柄をぽんぽんと叩いた。


 ──ナデナデシテー。


 やかましいわ。


「お──おお……! そこにおられたのですか……! この私としたことが、まるで気付きませんでした……! お、お懐かしや……!」


 えらく感動している。魔族の宰相たるスーさんが、エナーリアとまったく同じ反応をするとは。こいつら、どういう間柄だったんだろう。


 ──スーチャン、オハナシ、サシテー。


 そりゃ構わんが、スーちゃんて……。そんなに仲良かったのかおまえら。


 ──ンー。スーチャン、ムカシ、サキュバス。アエリアノセイデ、スケルトン、ナッタ。


 なにぃー? スーさんがサキュバスから歩く骨格標本になったのが、おまえのせいだと? どういうことだそりゃ。



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