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188:オリハルコンとヒヒイロカネ


 ミレムダーマ部族──またの名を、鍛冶の部族ともいうらしい。

 エルフ伝来の魔法合金ヒヒイロカネの精錬法を現代に受け継ぐエルフ唯一の部族であり、太古から変わらぬ彼らの原始的な生活様式は、秘伝の鍛冶技術とも密接に結びついているという。それゆえ南霊府は代々、ミレムダーマ部族の居住域を特別保護区とし、きわめて丁重に扱ってきたのだとか。


 ヒヒイロカネは特殊な魔力を内に秘め、鉄よりはるかに比重が軽く、硬度ではダイヤをも上回り、けっして錆びることがなく、熱にも冷気にも強いという。それ欠点ゼロじゃねえか。あえていえば、軽さが仇になって、矢尻やハンマーなど一定の比重が必要な武器や道具にはあまり向かないってことくらいか。それでも現時点では最強の超合金といえそうだ。


「ヒヒイロカネにも欠点はあります。魔法によって強固な分子結合を維持しているため、その魔力を打ち消す波長の干渉を受けると、途端に分子結合が弱まり、簡単に砕けてしまうのです」


 リンが説明する。

 いま俺とハネリン、トブリンは、部族の集落を離れ、三姉妹の案内で、密林の道なき道を進んでいる。


 時刻は昼過ぎ。族長のジジイは俺たちを集落に引き止めたがったが、こっちは夕方までにシャダーンの邸に戻るとリューリスに約束しちまってるからな。あまりのんびりしてる暇はない。


「その特定の波長とは?」


 俺が訊ねると、リンはくるりとこちらへ向き直り、俺の肩口あたり──正確には、いま俺が背負っている轟炎の聖弓を指さした。


「そのパリューバルと、そちらの方がお持ちのカシュナバル。その二つの弓から放たれる矢は、まさにその特定の魔力波長を帯びて、ヒヒイロカネを破壊するのです。その二つの弓は、わたしたちの祖先が製作したものなんですよ」


 三姉妹が、入れ替わり立ち替わり、諄々と説明してくれたところでは──。

 大昔。初代魔王率いる魔族とエルフとが小競り合いを繰り返していた時期。当時、魔族はオリハルコンという強固な魔法金属の精製技術を擁し、これを武具として多用していたという。オリハルコンで武装した魔族軍を前に、エルフはしばしば苦戦を強いられた。もともとエルフと魔族の魔法相性は最悪で、エルフの魔法は魔族には一切通用しない。これに加え、物理戦闘においても、当時のエルフの原始的な鉄器では、地上最高の硬度を誇るオリハルコンの装備に対してまるで歯が立たなかったという。


 やがて、あるエルフの一部族が、オリハルコンの現物を入手し、その構造を解析して、そっくりそのままコピーすることに成功した。同時に、解析によってオリハルコンの弱点を研究し、これを破壊しうる新たな武具を作りあげた。

 その一部族こそがミレムダーマ部族の遥かな祖先であり、オリハルコンの複製品が、すなわち超合金ヒヒイロカネ。そしてオリハルコンを破壊するべく鍛えあげられた武具こそ、閃炎の魔弓カシュナバル、轟炎の聖弓パリューバルという一対の魔力武装だったというわけだ。


 オリハルコンの製造技術はとうの昔に失われており、もはや伝説上の存在になっている。現存するオリハルコン製品というものも、少なくとも俺は聞いたことがない。ヒヒイロカネについては、魔族側の記録にわずかにその名が見出せるが、オリハルコン同様、とっくに消えてしまったものと思っていた。ともあれ、聖弓と魔弓は本来、魔族のオリハルコンを破壊するために製作された。当然、オリハルコンのコピーであるヒヒイロカネを砕くことも可能というわけだな。

 だが、そんな貴重品が、なぜ南霊府から西霊府のオーガンのもとに渡っていたのだろうか。


 三女のホーが言う。


「シャダーンさまのご指示だと聞いてます。あのお二人は、もともと仲が良いらしいですし。やがて弓を扱うにふさわしい人物が現れたら、オーガンさまのもとから、自然にその人物の手に渡ることになるだろう、って」


 またもシャダーンか。確かに予言どおり、多少の紆余曲折はあったにせよ、聖弓と魔弓はきっちり俺の手に渡った。しかし、なーんか踊らされてるような感じで、あまりいい気はせんなぁ。そのへんは考えたら負けか。





 草深い森の奥。びっしり茂った枝々が天を覆って、あたりは昼なお暗く、寂として鳥の声さえ聴こえない。集落から歩き続けること一時間。かなり奥地まで踏み込んだようだ。

 三姉妹は、ふと足を止めて、こう告げてきた。


「わたしたちは、ここまでです。ここから先は、部族の者には立ち入ることができない聖域ですので……」


 ちょっと先に、なにやらぼんやりと赤い光が浮かぶ一角が見える。どうやら、あれが目指す結界発生源のようだ。割と近いようだし、ここから先は案内は不要だな。


「ご苦労だったな。おまえたちは集落に戻れ。俺たちはこのままシャダーンのところへ戻るが、集落にはまた近いうちに顔を出す。三人とも、それまでいい子で待っていろ」

「はい。……では、お待ちしています」

「色々と、ありがとうございました」

「勇者さま……かならず、また来てくださいね!」


 三姉妹は、ぺこんとお辞儀し、眩しい笑顔を残して立ち去っていった。

 彼女らには、俺たちがこれから何をするつもりなのか、具体的なことは聞かせていない。だが、おおよそ想像はしていたようだ。だからヒヒイロカネを破壊する方法をわざわざ語って聞かせてくれたんだろう。もっとも、その方法については、チーがすでに独自調査で同様の結論を導き出している。


 すなわち、エルフ伝来の聖弓と魔弓のパワーを合わせて結界魔法の発生源に叩きこみ、これを砕く──!

 いよいよ、あの厄介なエルフの森の結界を消し去るときが来たようだ。



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