185:各個撃破
南霊府中枢から北西およそ五キロほどの距離に広がる森林地帯。
俺とハネリン、トブリンは、閃炎の魔弓と轟炎の聖弓を携えて、シャダーンの邸から空を飛んで移動し、地図を頼りに大樹林のど真ん中へと舞い降りた。
そこは昼なお暗い鬱蒼たる密林。空気はじめっと湿り気を帯び、下生えの草も瑞々と露に濡れている。地面の土までじんわりと柔らかい。足もとを見れば、アオガエルか何か小さい物体が絶えずぴょんぴょん跳ねていく。木々の枝には極彩色の小鳥たちが並んでピキョォーとかプキャーとかクキキキキとか意味不明な奇声をさえずってる。
これはもうどっからどう見てもジャングル。熱帯雨林。いつどこで槍を持った真っ黒い土人たちが襲ってきても不思議ではない雰囲気だ。もっとも、最近は業界の自主規制で、そういう人々が物語に出てくることはないそうだが。ってなんの話だ。
「あ、あっついよー……なにここぉ……」
ハネリンが気怠げに呟く。確かに蒸し暑い。晩秋とはとても思えない。トブリンは平気そうだが。霊府中枢からさほど離れてるわけでもないのに、えらく体感気温に差がある。相当に湿度が高いんだろう。
俺が先頭に立って、密林の奥へと進んでゆく。その後にハネリン。手にした閃炎の魔弓をぶんぶん振り回し、そこらに垂れ下がる枝葉をかき分けながら続いてくる。トブリンはその後を、のったらのったらついてくる。
「地図では、ここらへんのはずだが……」
歩きつつ、シャダーンから貰った地図をひろげてみる。対魔族結界の発生源たるオベリスクの位置を示すものだが、きわめて大雑把なものだ。本当にここらであってるんだろうか? なんかちょっと不安になってきたな。
いったんまた空へあがって、上から探そうか──とか考えているところへ、不意に、ガザザッ、と、どこからか足音が響いた。
人の気配がある。ハネリンもそれを察したようだ。俺たちは足を止め、軽く身構えた。
気配は三つ。それぞれ異なる方向から、俺達を取り囲むように接近してきている。
やがて木々の間から姿を現したのは──若いエルフの女たち。いずれも木弓を構えて、ぴたりと俺たちに狙いをつけながら、じわじわと三方から距離を詰めてくる。三人とも粗末な布きれを胸と腰に巻いただけの姿で、ほぼ半裸。出てきたのは真っ黒い土人ならぬ白い半裸美女たちか。いやこっちのほうが断然嬉しいけど。
「貴様たち、何者だ!」
女のうち一人が、鋭い誰何の声を投げかけてくる。見たところ、このへんに住んでる連中みたいだな。ちょうどいい。こいつらからオベリスクの位置を聞き出すとしようか。
「ハネリン、ちょっとそこで待ってろ」
「やっちゃうの?」
「ああ。やっちゃうぞ」
「おー。やっちゃえやっちゃえー!」
やっちゃうぞー。というわけで、覚悟しやがれ美女軍団。
敵が三方向から同時に接近してくる──この場合、凡人ならば、そこで足が止まってしまう。いかにこれを防ぐか、やりすごすか、という具合に、防御のほうにばかり意識がいってしまうからだ。
だが、相手の包囲はまだ完成していない。真の勇者ならば、ここはむしろ前面に出て、積極攻勢によって各個撃破をはかるべきなのだ。これを世にアスターテ星域の戦訓という……かどうか知らんが。ようは、殺られる前に犯れってことだ。
まず前面の一人。
地を蹴って、一気に距離を詰め──相手に対応する暇すら与えず、超高速の早業で──。
(自主規制)
「あぁぁーれぇぇぇー……!」
金髪の半裸美女は、弓を放り出し、何がなんだかわからないという顔で失神した。一人目!
続いて、向かって右手側の美女へ、ステップを踏んで急接近。そのまま──。
(自主規制)
「んほはへぇぇぇー……!」
瞬時に失神。これで二人目!
息もつかせず最後の一人めがけて全力突進。音速に近い手さばきで美女の胸と腰を覆う布きれをふっとばし──。
あ。こいつのは、なんかこう。大きい。先端が。
それはともかく(自主規制)。
「はひっ、はっ、はにゃあああああぁぁー……!」
最後の金髪美女も、全身ぷるぷる震わせつつ、どうっと地に伏した。
この間、わずか数秒の超早業。これぞ名づけて時間差各個(自主規制)。
背後から、ハネリンがとてとて駆け寄ってきた。
「もう(自主規制)しちゃったの?」
「うむ、(自主規制)しちまった」
「えへへ、みんな気持よさそーに寝てるー。あ、ねぇねぇ、さっきの、くるくるってするやつ。ハネリンにもやってよー」
「ああ。後でな」
ハネリンの背後から、トブリンが、なにやら物欲しげな目で俺を見つめている。いや、いくら俺様でも、巨大トカゲと(自主規制)するのはちょっと無理だ。いろんな意味で。そもそもおまえオスだろ。
ともあれ、これで美女三人とも片が付いた。あとはこいつらが目覚めるのを待つだけだ。




