173:白衣乱れる
「で? なんで、俺の身体にそんなもんを刻まにゃならんのだ?」
「いえ、べつに他の人でもいいんですよ? ですが、万一のとき、アークさまご自身でフルルさんを助けるおつもりなら、アークさまのお身体にその紋章があれば、手間が省けるってことです。具体的にはですね……」
身振り手振りをまじえつつ、熱心に説明するティアック。
ようするに──万一、フルルの肉体に強制魔法の烙印が刻まれていた場合、その効果を打ち消すには、俺の肉体に刻んだ紋章を、直接、強制魔法の烙印に押し当て、そこから俺自身の魔力を放出して、烙印を消滅させる──という手順になるらしい。なんだ、意外に簡単そうじゃないか。
「ただ、いますぐ、その紋章をアークさまに施すってわけにはいかないんですけどね。なんせ、たったいま思いついたアイデアですから。まずはその紋章の原型となる反転術式の構築から始めませんと」
「どれくらいの時間が必要だ?」
「んー……まずは術式構築、それを具体的なデザインにまとめて雛形をつくって、実証確認のために動物実験……なんだかんだで二週間くらいはかかりますねぇ……あと、費用も……」
二週間だと? そりゃさすがに時間かかり過ぎだ。
「三日でやってもらいたい」
「み、三日ぁ?」
俺が厳として告げると、ティアックは飛び上がらんばかり驚いてみせた。
「それは、いくらなんでも無理ですよぉ」
「費用なら、いくらでも出してやるぞ」
「いえ、そういう問題じゃなくてですね……」
「無理でもなんでもやってもらう。こちらも時間がないんだ」
「ですからぁ……」
なおも渋るティアック。
俺が見たところ──この女、その怠け性ゆえか、作業ペースをかなり甘めに見積っているようだ。だが、あのドラゴンレーダーの試作品は、俺と初対面からほんの数日で仕上げてきた。こいつは本気を出せばできる奴だ。多分。
今は一刻を争う非常時。ティアックには、それこそ死力を振り絞って作業してもらわねばならん。むろん相応の報酬を提示して、その気にさせる必要がある。金銭だけでは釣れない、となると──。
「よし。では身体で払ってやろう。前払いで」
「え。それは、どういう……」
「こういうことだ」
俺は疾風迅雷のごとく移動し、ソファに腰掛けたまま呆気にとられているティアックの、だらしないパンツルックと白衣に包まれた豊満ボディーを問答無用で抱き寄せた。
「にゃっ、にゃに、にゃにするですかああああァ?」
「いやちょっと(自主規制)をだな」
「だっ、ダメですよぉっ!アークさまには、サージャさんっていう正妻がいるじゃ……」
ちっげーよ! こいつ、ひょっとしてあのときの話、本気で真に受けてたのか?
「いくらなんでも、あんな小さい子供と結婚できるわけないだろう」
「え……? じゃ、じゃあ……」
「安心しろ、俺は誰のものでもない──」
「そ、そう……なんですか……」
「そうだとも」
ただし、この世界の美女はみんな俺のものだがな!
では、納得してもらえたところで、いよいよ本格的に──(以下、よい子の皆様方にはちょっとお見せできないシーンが続きます)。
(自主規制)
(自主規制)
(自主規制ですったら)
……事後。
「あのぉ……私、初めてだったんですけど……」
おや、そうだったのか。やけに反応が初々しいと思ったら。
「ひどい……ですよぉ……こんな、いきなり……」
俺の腕に抱かれながら、涙目でぶーたれてくるティアック。俺はその髪をもふもふ撫でてやりながら、耳元に、そっと囁いた。
「……良くなかったか?」
「……」
ティアックは、ちょっと頬を染めて、うつむいた。良かったらしい。
「頑張って作業してくれ。なんとしても、三日でやり遂げるんだ。そうしたら、もっともっと可愛がってやるぞ」
そう言いつつ、ティアックの頬をそろりと撫でてやる。
「はい。がんばってみますぅ……アークさまぁ……」
うっとり夢見心地な顔つきで、ティアックは俺の胸に頬をすり寄せた。
苦労の甲斐あって、なんとかその気にさせられたようだな。ではさっそく、これから作業にかかってもらおう。




