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161:結界を砕くもの


 ハネリンが魔王城を出て南へ向かったことと、クラスカたちバハムートの動向は、特に関連がないようだ。

 ハネリンはクラスカたちとは面識がないという。クラスカたちが魔王城を訪れた頃には、すでにハネリンは出発し、城から遠く離れていたのだろう。


「へぇー、念で話しかけてくる竜? そんなのがいるんだ。ハネリンも会ってみたかったなぁ」

「いずれ、嫌でも会うことになるぞ」


 クラスカとイレーネは今、魔王城に逗留しているはずだ。俺もいずれ城へ戻り、バハムート対策に本腰を入れねばなるまい。そのときには、またハネリンの力を借りることになるかもしれない。

 正直、いったん自分のハーレムに入れた女を、また外に出して働かせるというのは、あまり気が進まない。俺のものになった女は、あくまで俺のもとでハーレムの安逸をたのしみ、俺は女どものそんな暮らしを守ってやる──王として、ハーレムの主として、それが筋だと思っている。だがハネリンは自分の意思でハーレムから飛び出してきた。ただ俺に会いたい一心で。ならば、ハーレムという場所にこだわらず、たとえそこが戦場であろうとも、俺のそばにいさせてやるほうが、当人にとっては幸せかもしれない。


 もうかなり夜も更けつつあるが、組合員たちはなおキャンプファイヤーを囲んで宴会を続けているようだ。星空に冴えざえ浮かぶ青い三日月の下、肩を組んで歌ったり笑ったり、なにやら声をそろえてスローガンっぽいものを唱和したりと、妙に盛り上がっている様子。

 風呂あがり、俺とハネリンは平服に着替えて、商人たちからあてがわれたテントに入った。中には蝋燭のカンテラと毛布が備えられている。たいして広くはないが、二人で寝るぶんには充分なスペースだ。


「宴会やってるみたいだけど、行かないのー?」


 ふかふかの毛布にぐるりんっとくるまって、ごろごろ床を転がりつつ、ハネリンがきいてくる。湯上りの頬が薄紅に染まって、ちょっぴり色気が増している風情。


「……今日のところは遠慮しとこう」


 今は宴会とか、あまりそういう気分じゃない。いつもなら、何も考えずに皆と火を囲んで馬鹿騒ぎに興じるところだが。色々と気になることもあるし、なにより、ハネリンとの話がまだ途中だ。


「さっきの、閃炎の魔弓の話だが。もう少し詳しく聞こうか。チーは、なんと言ってたんだ?」


 チーは、見ためは愛らしいお子様だが、実はアンデッドのリッチーであり、御齢六百歳という極限ロリババア。魔法アイテム関連の知識において魔族随一の専門家でもある。あいつが閃炎の魔弓について何か言ってたというなら、それはぜひ聞いておかねば。


「んー、なんか難しいこと言ってたなぁ。エルフの魔法のぉ、術式? だっけ? それの、……そう、そうじ、せ……ソーセージ?」

「相似性か」

「あー。そんな感じ」


 どうもまだるっこしいが、もとより翼人といえば魔法知識には縁遠い脳筋種族。わけても脳筋のスペシャリストというべきハネリンに、こういう話はちょっと難しすぎるか。

 それでもなんとかハネリンから引き出した話をまとめると──。


 エルフの結界と閃炎の魔弓。チーの調査によれば、このいずれも本来、エルフが対魔族用に編み出したもので、ほぼ共通の魔法術式が用いられているそうだ。ところが、一方は防御、一方は攻撃に特化し、それぞれ真っ向から相反する性質を与えられている。したがって、結界の発生源を、この弓から放った矢で射抜けば、両者の効力を対消滅させることが可能かもしれない──ということらしい。

 ぶっちゃけ俺も詳しい原理まで完璧に理解できるわけではないが、ようは結界の発生源とやらを探しだして、そこに矢をぶち込めばいいと。そういう話だな。


「でもね、んっとねー、それだけじゃ足りないかもしんない、って、チーさん言ってたよ」

「ん? 他に何か必要なものが?」

「あの弓は、同じ威力のものが、もう一つ、ペアで作られてるはずなんだって。ふたつ合わせないとパワーが足りないかも、って。でも、もうひとつの弓がどこにあるかは……」

「……もしかして、轟炎の聖弓のことじゃないのか」


 俺が言うと、ハネリンは、こくこくとうなずいてみせた。


「あー、それそれ! そんな名前! そのゴーインのセーニューっていうのがー」


 どんな空耳やねん。突っ込む気にもならん。


「それなら、とうに手に入れてる。いまはルザリクの街に置いてきてるがな」


 エルフ伝来の魔力武装、強引の聖乳……ではなく、轟炎の聖弓パリューバル。オーガンからもったいぶって手渡されたものの、とくに使いどころもないので、箱馬車に放り込んで、それっきりになっている。あの馬車は今でもルザリク市庁舎の馬小屋に停めてあるはずだ。


「え、そーなの? じゃあ、じゃあ、これで結界を壊せるんだ?」

「その前に、結界魔法の発生源とやらを突き止めねばならんぞ」

「あー、そっか」


 とはいえ、そのへんは人手を使って情報を集めればいい。特定はそう難しくないだろう。

 魔弓と聖弓。この二つの武器のパワーを揃えて発生源に叩き込むことで、対魔族結界を内側から破壊できる可能性がある──。


 これは、使えるかもしれん。やりようによっては、今後の長老との交渉において、かなり有力なカードになりそうだ。



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