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152:不思議エネルギー


 映像は連盟本部の建物を離れ、早送りで虹都の郊外へと進んでいる。

 会議での要点をまとめると──。


 まず。空間断裂の発生後、五色連盟は三次に渡って断裂の向こう側へ調査隊を繰り出し、こちらの世界の様々なデータをひそかに収集していた、ということ。その結果、彼らバハムートにとって、こちらの世界は色々な意味でたいそう好都合な環境を擁していると判明したこと。そして今回の最高会議によって、異世界植民計画が議決承認され、いよいよ具体案を詰める段階にまで至った──と。

 クラスカがいうには、もともとこの計画は赤龍人代表の発案によるものだという。あの目つきの悪いおっさんドラゴンだな。


(議長にせよ、他の代表たちにせよ、べつに悪人でも野心家でもない。世界の行方を憂い、そのあまり、短兵急な行動に出ようとしているのが問題なのだ。我々黒龍人と白龍人は、どうにかこれを止めさせたいと考えている)


 そういえば、さっきの議決の際も、黒龍と白龍の代表は反対票を投じていたな。つまり、クラスカとイレーネは、自分たちの種族の総意を背負って、わざわざ俺に会いに来たってことなのか。


(ああ、それは確かにある。他に個人的な動機もあるが、それは後で語ろう。──ここで最も重要なことは、我々の世界におけるエーテル濃度の急激な低下だ。大戦の爪跡というにも、あまりに大きすぎる代償といわねばならない)

「……そもそもエーテルってのが何なのか、よくわからんのだが」


 と俺が訊くと、クラスカは大きくうなずいてみせた。


(そうだな。わかりやすくいえば、エーテルというのは、空間を漂うエネルギー物質だ。目には見えないが、我々はそれを絶えず体内に取り入れ、肉体を維持している。むろん、他に水や食物なども摂取せねばならないが、まずエーテル無しでは我々は生きられないのだ。バハムートだけではなく、我々の世界の生物すべてが、そういうふうにできている。現在では、そのエーテルを、たんなる生命エネルギーとしてだけでなく、それ以外の用途……たとえば動力機関の燃料などに変換応用する技術も確立されている。私も、もともとは、その分野の技術者だったのだ。現在は少し別の方面へ手を出しているがね)

「発生源とかはわかってないのか?」

(エーテルは、我らの世界を構築する星の核からほとばしるもの……星そのものの力だといわれている。だがこれは、いくつかの事象から推測された学説であって、まだはっきりと確認されてはいない)

「で、そのエーテルの濃度が低下したのは、さっき言ったハルバラスのせいか」

(ああ。会議でも誰かが言っていたが、いまでも世界中のエーテル濃度はじわじわ低下し続けている。ハルバラスの後遺症とでもいうべきものだ。試算では、あと七公転周期ほどはこの状況が続き、その後、ゆるやかな回復へ向かうといわれているが……確実ではない)

「会議の連中は、それを待てないと?」

(そういうことだ)


 クラスカがうなずくと、横からイレーネが思念を挟んできた。


(さっき、わたし言ったわよね。こっちの──あなたたちの世界って、肌ではっきり体感できるくらい、空気中のエーテルが物凄く濃いの。空間断裂を隔てた先に、こんな高濃度エーテル環境があると知れば、そりゃ会議の人たちは、どうにかしてそれを手に入れたいと思うでしょ。こっちへ逃げ込んできた野生ナーガにも、良い意味で様々な影響が出てるって、会議でもやってたし。そんなデータが出てくればなおさら、ちんたらと自然回復を待つより、手っ取り早く異世界のエーテルを活用しようって気になるわよ)


 あー、そういえば、ナーガの繁殖率がどうとか食味がどうとかいってたな。こっちはナーガたちにも住みやすい世界ってことか。しかし、この世界の大気に、そんな不思議エネルギーが満ちているとは。

 いや。なんかどっかで、それに類する話を聞いたような? なんだっけかな……。


 クラスカが言う。


(エーテル濃度が高いということは、それだけで我々にとって様々な恩恵がある。快適な環境、動力源としての活用、食料となる家畜の生育改善。現在、我々バハムートの世界が抱えるエーテル濃度の低下と、それによって発生している諸問題を、この世界の資源は補って余りある。最高会議は、この資源を欲しているのだ)

「だから、植民地に……か」


 資源をめぐる争いってのは、どこの世界でも絶えずあるものとはいえ。バハムートは、世界の壁をまたいでまで、それを実行しようってわけか。なんとも業の深いことだ。欲望の権化たる俺様には、そのへん、あまりいえた義理はないかもしれんが。


「それで最高会議とやらは、具体的には何をどうするつもりなんだ? 空間断裂から軍隊でも送り込んで来るのか」


 クラスカは、ゆっくりうなずいた。


(これから、そのあたりについて見てもらいたい。……見えてきたぞ)


 映像は、虹都の郊外から、大地の果てのような断崖をスーッと飛びこえ、薄青色の空間を移動し、隣接する別の浮遊島へとさしかかっていく。

 見渡す限り、だだっ広い緑の草原。ただその一角に、キラキラ輝く尖塔状の構造物が天へ向け突き立っている。


 それへ近付くにつれ、その周辺に、まるでガラス細工のような透明なボディーを持つ自動車……か何かよくわからないが、そういう四つの車輪がついた流線型の乗り物らしきものが、ずらりと整列しているのが見える。さっき虹都の市街で見かけた自動車っぽいものに似ている。ざっと数百はあるだろうか。その乗り物ひとつひとつに、複数のバハムートが群がって、車輪を交換したり、扉の開け閉めをしたり……なんだろう、整備でもやってるのかな。そういうふうに見える。

 乗り物の大きさは、バハムートの三倍くらいある。ということは、単純に見積もっても高さ五十メートル、長さは百メートル以上はある。映像だとバハムートとの単純対比のせいで、そう大きなものとは感じないが、人間基準で考えれば、実は途方もなく巨大な乗り物だ。


(虹都が保有する空間戦車隊。ここには三百二十両が揃っている。現時点では、五色連盟の最大戦力だ。この部隊が、こちらの世界への侵攻戦の中心戦力となるだろう。他に、各都からも、それぞれ百両程度の保有戦力を出すことになっている)


 てことは……少なめに見積もっても、こんなもんが七百両以上、こっちの世界に一斉に攻め込んでくるのか。

 これは、想像以上に厳しい事態かもしれん。あんなの全部を俺一人で相手にするのは、無理ではないが、ちと骨が折れそうだ。少し頭を使って、何かしらの対抗策を立てておくべきかもな。



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