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151:評議一決


 まず口火を切ったのは、赤龍人の代表団。やたら目つきの悪い、眼光だけで小動物ぐらい殺せそうな凶悪な面相の龍人が、周囲を睨め回しつつ思念を飛ばす。


(三次調査隊からの報告が届いた。エーテルの濃度と分布についてだが……まずは、この資料を見ていただこう)


 円卓の中央に、立体画像っぽい何かが出現した。静止画らしいが、なにかゴチャゴチャした地図と記号の組み合わせのようだ。

 途端、議場全体に、キョオオオオォとかゴバァァァァとかムゴォォォーとかいう、なんともいえぬ奇声が溢れかえった。どうやら皆、驚いたり感歎したり興奮したりしているらしい。


 黄龍人の代表団のひとりが、驚きを込めて発言した。


(これは、こちらの研究機関の想定を遥かに上回っている。素晴らしい!)


 ざわざわざわと思念の声が八方乱れ飛ぶ。よくわからんが、彼らにとっては、何やら大層喜ばしい報告であったようだ。

 まだ興奮さめやらぬなか、続いて、青龍人の代表団が立ち上がった。


(こちらにも新たな報告が届いています。ご覧ください)


 立体画像が別のものに切り替わる。今度のは棒と折れ線を組み合わせたグラフみたいだな。


(ナーガの生存率、成長率、繁殖力、肉体構造の変化について、まとめてみました。黒が従来の基準データ、赤が今回新たに判明した数値となっております)


 再び、メギョォォォォとかパギャァァァァとかンホォォォーとかいう声が議場を満たした。どうやら皆、ひどく驚愕しているらしい。


(段違いではないか! これなら、食糧問題も一気に解決するのではないか?)


 そう興奮気味に発言したのは、これも黄龍人の代表団のひとり。

 すると、横から白龍人の代表団が、グッゥゥゥ……と声をあげた。なんというか、今更ながら、耳で聴こえる声がケモノじみた唸り声とか吼え声で、それとは別に、ちゃんとした会話が思念で届いてくるっていうのは、どうにも違和感が強い。だいぶ慣れてはきたんだが。


(実際に食用として使えるかどうかは、また別問題だと思う。もし肉質が劣化していたり、最悪、毒性を備えていたりしたら……)

(その点は心配無用)


 青龍人の代表団が応える。


(三次調査隊は、これまでに四頭のナーガを現地で捕獲し、試食している。その結果、食味も従来種より向上しているそうだ。ただし、すべての個体で細胞膜の強度低下が確認されている。平たくというと、あちらのナーガ肉は冷凍焼けを起こしやすく、日持ちもしない。長期保存や長距離輸送には向かなくなった、ということだ)


 これに対し、あちらこちらから思念が飛び交いはじめた。


(技術的には、たいした問題ではなかろう。より本格的な超急速冷凍施設を各地に設置すればよい)

(それなら、我が黄都の技術がお役に立てるでしょう)

(いやいや、我々にもその程度の技術は……)

(貴様のところが得意とするのは乾物作りだろうが。せっかくのナーガ肉を干物にしてどうする)

(何をおっしゃる。まだ干しナーガの旨さを知らないとは)

(ナーガは刺身に限る!)


 議論は次第にヒートアップしはじめた。もう誰が何を言ってるのやら、わけがわからん。


(諸君、静粛に!)


 赤龍人の代表が、ゴハァッ! と声を発しつつ、鋭い思念で一喝。議場はたちまち水を打ったように静まりかえった。どうやら、この赤龍のおっさんが、この会議全体の議長格っぽいな。


(三次調査隊が持ち帰ったデータは、いずれも、きわめて有意義かつ有益なものだった。もはや何らの疑問も障害もない。我らの抱える諸問題も、今回の議案さえ一決すれば、たちまち解消されることになるだろう)


 議長のおっさんの思念に、それまで黙して語らなかった黒龍人の代表の一人が起立し、反論した。


(我らは反対です。なぜ、このような時期に……)

(このような時期だからこそではありませんか)


 と、横から割って入る黄龍人代表。


(近年、各地のエーテル濃度は低下の一途。回復の兆しさえありません。家畜や農産物の生育にも悪影響が出はじめています。この世界のエネルギーと食糧生産力は、全龍人を支えきるには、すでに不足なのです。全てが、もうもたないところまで来ているではありませんか。あなたがたの黒都には、それを解消しうる手段も技術もあるとはお聞きしますが、それもまだ可能性の段階でしょう。我々は、これ以上待ってはいられないのです)

(何を言うか!)


 突如、白龍人代表が、ピッギャァァとか喚きつつ、やおら憤激の思念を黄龍人側へ叩きつけてきた。


(そのような危機的状況を引き起こしたのは、あなたがた──黄都が用いたハルバラスではないか! 何を抜け抜けと!)

(あれを使わせたのは、あなたたち白都です! マッシマに一方的に攻め込んできたあなたたちを退けるには、他に手段がなかった!)

(マッシマは我らの固有領土だ! 不法占拠者を強制代執行によって排除するのは当然のこと!)

(まだそのような妄言を!)

(まあまあ、お二方とも、もうそのへんは過ぎたことでしょう)

(まだ終わってなどいません! そもそも、あなたがた青都が我々を裏切ったから、こんな……)

(なにを! 裏切ったのは、そちらのほうではありませんか)


 またもガヤガヤと騒然たる空気が議場を覆いはじめた。こいつら、連盟とかいっても、まだ互いに感情的なしこりは残ってるようだな。


「ところで、ハルバラスってのは何だ?」


 クラスカに訊いてみた。


(……大戦末期、黄都で開発された兵器だ。凄まじく威力のある爆弾だが──大気中のエーテルを猛烈に消費する。三発も使えば、世界中のエーテルが半減するとされ、十発使えば世界が滅亡するといわれるほどの超兵器だったのだ。大戦中、黄龍人陣営は、このハルバラスを白都へ二発用いた。黄都と同盟を組んでいた青都も、ハルバラスの供与を受け、やはり二発を黒都に炸裂させている。白龍人と黒龍人は、この報復として、大規模な総攻撃をそれぞれの相手に仕掛けた。結果、四都いずれも壊滅したのだ。近頃、ようやく四都の再建も進んできたが、まだまだ……)


 クラスカの説明によれば、大戦中、唯一中立を保っていた赤龍人の陣営だけが、ほぼ無傷で済んだという。この赤龍人たちの呼びかけで戦争は終結し、中心都市である赤都に五色連盟が結成されたそうだ。当然のように連盟の主導権は赤龍人が掌握することとなったが、大戦に疲弊していた四種族としては、むしろそのリーダーシップに頼りきっている、というのが現状らしい。


(静粛に!)


 再び、その赤龍人議長のおっさんの叱咤が轟き、瞬時に紛議は鎮まった。


(資料は提出済み。いまだ各陣営に各論あることとは思うが、連盟としては、すでに議論は尽くされたものと認識している。──これより最終意思決定を行う。代表がた、おのおの異存はあるまいな?)


 おっさんの思念に、黒龍人、白龍人の代表らは、まだ何か言いたげな気色を見せたが、おっさんは構わず議決を取りはじめた。

 賛成三、反対二。賛成票は赤、青、黄で、いっぽう黒、白は反対票を投じている。


(……賛成多数により、異世界植民計画は最高会議の承認を得た。以後、本件について一切の異論は認められない。各陣営は、ただちに具体的な方針をとりまとめ、行動に移られよ)


 赤龍人のおっさんは、高らかにそう宣言し、きわめて満足げな様子で着席した。

 同時に、拍手ならぬ拍前肢が、バチバチバチバチ……と議場に響き渡る。


 ──なるほど。これで、およその事情は飲み込めたかな。まだ細かい部分をクラスカとイレーネに詳しく補足してもらう必要はあるが。ナーガの刺身についてとか。



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