150:龍人都市
映像は虹都の中心市街とやらを滑るように進んでゆく。
バハムートの建築様式や設計思想など知るよしもないが、目につく建造物はだいたい円筒や円錘形で、あの日本の高層ビルのように角ばったものはひとつもない。
材質は、石かコンクリートかよくわからん。ほとんどの建物が灰白色の壁面と透明なガラスの窓とドアで構成されている。それらも円もしくは楕円を基調とした形状で、全体として、建物でもなんでも、ひたすら曲線を多用する傾向があるようだ。
地面や街路もガラス状のキラキラした物質で舗装されており、二足歩行のドラゴンたちが、あちらこちら、群れをなしつつ、のっしのっしと闊歩している。水銀灯っぽい街灯らしきものやら電飾っぽい様々な色にピカピカ点滅する何かやらが街中に設置されていて、とにかく賑やかで光彩あふれる情景だ。
店舗らしきものもある。ショーウィンドウにずらりと並ぶ円筒形の謎の物体。ドアはすべて自動で開閉し、店内ではなんと椅子に座ってテーブルに向き合っているドラゴンたちの姿も見える。街路のあちこちにもベンチが設置されていて、そこに腰かけ、黄色い棒っぽいものを掴んでがふがふ齧ってる連中もいる。
「ありゃなんだ? 食い物か」
(ああ。街頭のスタンドなどで売られている一般的な軽食だ。ウルスラグナ・マイクロ・スティック──略して、うまい棒と呼ばれている)
本当かよ。やっぱりサラミ味とかチョコレート味とか明太子味とかあるんだろうか。
時折、道の真ん中を、奇妙な流線型の四輪車──たぶん自動車──が、のろのろと通り過ぎていく。動力はなんだろう。というか、こいつら飛べるのに、わざわざ車なんかに乗る意味がわからん。なんかそれらしい理由があるんだろうとは思うが。
やや様式は異なるといえ──これは、人間が生活する街そのものだ。五色龍人か。たしかにこいつら、見ためはともかく、その態度や立居振舞いからして、中身は人間としか思えない。スケールはまるで違うけど。龍人も建物も、なにもかもが人間の尺度からは途方もなく大きい。
石とガラス、円と曲線、色とりどりの光彩が織り成す巨人の国。全体として、街の外見や様子からは、そういう印象を受ける。感歎はするが、あまり住みたいとは思わんな。
(見えてきたな。あれが五色連盟の総本部だ)
クラスカがいう。
前方はるか、複数の円錐を横にずらり並べたような意匠の、ひときわ壮大な建造物がそびえている。
また映像が早送りのように高速移動をはじめた。広々とした前庭を抜け、自動ドアをくぐって中へはいると、やけに無機的な白い壁と透明なガラスと鏡が入り組んだ、奇妙な情景が広がっていた。バハムートたちは、そのだだっ広い空間に翼をひろげ、飛び回って移動しており、鏡面加工された床の上には、ボールと棒を組み合わせた、単純な人形のような何か──あれだ、棒人間ってやつ。あれにそっくりだ──が複数、忙しそうに、ちょこまか歩き回っている。大きさは、ちょうど俺の身長の倍くらい。ということは、バハムートたちにとっては、かなり小さい物体ということになる。
(清掃ロボットだ。ああやって、床のゴミやホコリを集めている。この街では、単純作業はたいていロボット任せだ。建築や補修などの工事、街の清掃美化から食品加工、運搬流通、すべて彼らが自動でやってくれる)
イレーネが呟く。
(わたしは、ああいうの、あんまり好きじゃないけどねぇ。便利だけどさ、なーんか無機的っていうか……なにより、可愛くないのよね、ロボットって)
そうか? 棒人間ロボット、けっこうかわいいと思うけどな。少なくともナーガよりは、よっぽど。
映像は上層へと駆け上がっていく。壁面にかかったいくつかの丸いドアを抜けると、一瞬、目も眩むような白い光が視界を覆った。俺は思わず目をつぶり──。
瞼を開くと、そこは光溢れる空間。壁も天井もすべて湾曲した透明ガラスで、床だけは鏡になっている。どうやら円錐塔の頂上部分にあたるフロアらしい。天から降り注ぐ光を床が複雑に反射させ、まぶしいことこのうえない。
フロアのど真ん中に、ばかでっかい円卓がある。それをぐるり囲んで互いに睨みあう、赤青黄白黒のバハムートたち。数は──それぞれの色に応じて五体ずつ。つまり合計二十五体のバハムートが円卓について向き合っていることになる。
どいつもこいつも、他のバハムートどもと比べてもまた一段、ドスが効いてるというか、目つきといい口もとといい面構えといい、凶悪の二字をそのまま具現化したような異様な風格を漂わせていやがる。ヤクザとマフィアとギャングの大親分どもが一堂に会したみたいな険呑さを感じる。むろん、それは人間である俺の目からはそう見えるというだけで、クラスカたちには、また違う見え方をしてるんだろうとは思うが。
映像を拡大させつつ、クラスカが俺へ向き直って言った。
(五色連盟の最高会議……それぞれの種族の代表たちだ。彼らの話をよく聞いておいてくれ。この最高会議での決定事項こそ、私とイレーネが、きみに伝えたかったことなのだ)
会議が始まったようだ。




