表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/856

012:超古代の神器

 不意に、すべての魔法の輝きが、かき消えた。

 魔法陣の青い光も、賢者の石の赤い光も消滅し、同時に俺は、その場にがくりと膝をついた。


 俺はもう、ほぼすべての魔力を出し切っている。全身から力が抜けて立っていられなかったのだ。手にしていた賢者の石も、無意識のうちに床に取り落としてしまった。

 視線を動かし、魔法陣の中央を見ると――あの水晶球が、不思議な輝きを帯びていた。内側に、蒼い炎のような神秘的な光を揺らめかせている。あきらかに今までとは様子が違う。


 チーが興奮気味に口走る。


「神魂が、目覚めた……!」


 そうか。これが神魂か。こいつが俺の願いを叶えてくれるのか……。

 俺は、ふと安堵の息をついた。まさに、その刹那。


 すさまじい轟音とともに、何か大きな黒い影が石壁を突き破って広間に飛び込み、けたたましい爆音を響かせながら、俺めがけ、まっしぐらに突進してきた。

 俺は、それが何であるかを、ひと目に理解した。戦慄が全身を駆け抜ける――。


 ――暴走トラック。

 なぜここにそんなものが? いや、それを考えてる場合じゃない。


「逃げろぉぉーッ!」


 俺は、周りの野次馬どもに向かって、そう叫ぶのが精一杯だった。もう魔力はほとんど使い果たしている。迎撃はおろか、体もろくに動かない。瞬間移動もできそうにない。

 俺は床に膝をついたまま、ふと眼をこらし、今まさに迫り来る謎のトラック、そのフロントに輝くロゴを視界に収めた。そして悟った。これは間違いだ――と。


 違う! 俺はエルフのねーちゃんたちを押し倒したいと願ったのであって、ELFのトラックに押し倒されたいなどと願ったわけではない! 断じて!

 などと考えてる間に、俺の肉体はものの見事にトラックにはね飛ばされ、紙のごとく軽々と宙に舞い、放物線を描いて石壁に叩きつけられた。ご丁寧にも、トラックは一旦減速したあと、再度爆音を響かせて急加速し、トドメとばかり突っ込んでくる。ゴバグシャメギィッとかなんとか形容しがたい嫌な音とともに、トラックは石壁に激突して、ようやく止まった。


 俺の――この無敵を誇った魔王の肉体は、いまやトラックと石壁に挟まれ、完全に押しつぶされていた。

 薄れゆく意識のなかで、野次馬どもの悲鳴と、慌てて駆けよってくるいくつかの足音がきこえる。どうやら、俺以外、巻き込まれた奴はいないようだな。それだけが救いか……ああ、もうだめだ。一度ならず二度までも、トラックに轢かれるなんて。俺っていったい。


 誰かが俺のそばまで来て、ぽそりと呟いた。


「ミンチよりひでえや……」


 嘘だといってよ。





 暗い。

 何も見えない。


 肉体を失って、意識だけが、ただ深い闇の中を漂ってる。そんな感じだ。

 声が聞こえる。誰の……?


 ――うわああああああああーッ! 魔王さまぁ! 魔王さまああ! なんでっ、なんでよぉッ! ハネリンをっ、置いていかないでよおおー! うあああああーん!

 ――へ、陛下……。いったい、なぜ、こんなことに……。

 ――スーさん、落ち着いてよ。そこの羽娘も。

 ――しかし、チー殿、これが落ち着いていられますか……! 陛下が……。

 ――う、ううっ、ひっく……まおーさま……まおーさまぁ……。

 ――心配ないよ。いま、神魂が教えてくれたんだ。これは通過儀礼だってねー。

 ――どういうことですか……?

 ――これは、トラックっていってねー。対象者を別の存在へと転生させる機能を備えた、超古代の神器なんだって。

 ――別の存在?

 ――そ。魔王ちゃんの願い事は、世界制覇だって。それを叶えるために、これは必要なことだって神魂が言ってる。魔王ちゃんの肉体は、ご覧の通りの有様だけど、魂と精神は別の器に移って生き続ける。それがトラック転生だってさ。

 ――ええっ? じゃあ、じゃあ、魔王さまは、生きてるのっ?

 ――少なくとも、神魂はそう言ってるねー。多分、そのうち帰ってくるんじゃない?

 ――な、なんと……! ではチー殿、我々は、いったいどうすれば……。

 ――待つしかないねー。アタシたちは、彼のために、しっかりここを守っててあげようよ。いつ帰ってきてもいいようにさ。


 え。トラックって、そういうものだったのか。いま初めて知ったぞ。神器ってアンタ。しかし、別の存在か……俺、今度は何になるんだ?

 また声が聞こえる。さっきまでとは違う……。


 ――まさか、聖騎士ライルの軍勢が敗れるとは。

 ――エルフの秘宝……あの閃炎の魔弓すら、魔王には通じなかったのか。やはり、我ら凡人では勝てないというのか……。

 ――勇者でなければ、魔王は倒せない。信じたくありませんが、やはり伝説は正しかった、ということでしょうか。

 ――噂ですが……アレステルの家に、何か不思議な発光現象があったと聞きました。ひょっとしたら、勇者誕生の兆しでは。

 ――今まで何度も、そういう噂はあったじゃないか。そのたび、ぬか喜びさせられてきたんだぞ。

 ――ええ。ですが、一応、確認しておくべきかと。

 ――そうですね。出産の報告が届いたら、お祝いがてら、私が様子を見てきましょう……。


 こいつら何者だ? 何の話をしてるんだ。というか、ここはどこなんだ。何も見えん。

 いかん。本格的に、意識が、遠のいていく……。


 光……。

 光が、見える……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ