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107:隣り合わせの天才と変態

 

 薄暗い部屋の一隅。明かりは小さな蝋燭ひとつ──俺は布団の上にあぐらをかいて、左右に全裸のリリカとジーナをそっとかき抱き、潜入調査の報告を聞いた。

 もうすっかり夜更け。ついさっきまで、四人まとめて(自主規制)(自主規制)(自主規制)(自主規制)しまくってたが、まずフルルが失神、続いてルミエルも精魂尽き果て、今は二人仲良く寝息をたてている。


「……そうか。長老については、やはり収穫なしか」


 俺が呟くと、リリカが申し訳なさそうにうなずいた。全裸で。


「想像以上にガードが厳しくて……近付くことすらできませんでした。資料も色々と漁ってみたのですが、長老に指名された時期以外のことは、皆目……」

「その時期とは? いつごろのことだ?」

「えっと……十五年くらい前ですね。先代が自発的に引退し、その際に後継者に指名されたのが現在の長老です」


 二人が言うには、もともとエルフの長老というのは代々の秘密主義で、名前以外の情報はほとんど表に出てこないのだという。現長老をとりまく謎のヴェールも、そんな慣習を踏襲しているに過ぎないようだ。

 長老の基本的な役割は、土着信仰の祭祀。だが同時に中央霊府の直接統治者、エルフの森全体の権威の象徴でもある。さらに先代魔王との大戦以降は、新設された対魔族結界の維持管理者という役割をも併せ持つ。そんな重要人物が、あえて表舞台に姿を見せない理由は、今の時点ではよくわからん。あえて推測するならば、神秘性を自身に付与するため、という線が考えられる。ようするに、徹底的にもったいぶることで、ミステリアスな雰囲気を醸しだし、実像より偉そうに見せかける一種の演出だ。


 むろんこれも単なる推測でしかない。実際にはそんな底の浅い理由ではなく、何かもっと物凄い奥深い事情とかがあったりするかもしれんが、なんせこっちには情報がないからな。それくらいしか思い付かん。


「長老のことは、別にいいや。行ってみてからのお楽しみってことにしとく。んで、フィンブルのほうは」

「ええ、あの方については、随分と詳しく調査できました」


 ジーナが微笑んで応えた。全裸で。

 その説明によれば──フィンブルは、幼少の頃から並外れた魔術の才能を持ち、地、水、火、風、雷、あらゆる属性の魔法に精通し、その巨大な魔力キャパシティーは魔王にも匹敵するとされ、その攻撃魔法は一撃で竜をも屠るという。あの厄介な瞬間移動能力は、フィンブルが独自提唱している新たな魔法属性──すなわち「時」を操るもので、エルフの魔術師のなかでも、現時点ではフィンブルしか使えないオリジナルの魔法であるらしい。


「ほう。瞬間移動の魔法とは、そういう理屈なのか」


 かつては俺自身も瞬間移動を使っていたが、それがどんな理屈による現象なのか、実は考えたことがなかった。魔王には先天的に備わっている能力で、使えて当然と思っていたからな。おそらくスーさんもそうだろう。フィンブルは、「時」という新たな魔法属性を提唱し、それをもとに瞬間移動の魔法を独自に編み出してみせたわけか。認めたくないが、やはりあのメガネ野郎はとんでもない天才だな。ムカつくけど。

 もっとも、当人は魔法そのものより、その応用分野としての魔導兵器の開発にご執心で、おもに魔術による無機物の遠隔操作技術に強い関心を持っているという。ロックアームはその結晶というべき研究成果なのだとか。


「あの方の研究所には、ロックアームのボディが何体も並んでいました。大きさも形も様々で、全部あの方がお一人で組み立ててるようです。作業中のところをこっそり覗いてみましたが、ひとつひとつに名前を付けて、話しかけてるんですよね。おはようベティー、とか、調子はどうだいキャシー、とか……それはもう、とても楽しそうに」


 報告しつつ、ジーナはかすかに苦笑を浮かべている。確かにそれは、想像すると、なんとも微妙な情景。

 エルフの大半が変態とはかねて聞くところだが、フィンブルはまた別の意味で変態みたいだ。正直、あまりお近づきにはなりたくないな。



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