001:魔王と水晶球
魔王ライフは気楽でいいやねぇ。
でっけー城に住んで、大勢の家来がいて、なんでも世話してくれて、至れりつくせり。メシはうまいし酒もうまいし、ハーレムにゃ女が山ほどいるし。
この世界にゃ人間、エルフ、翼人族、魔族って四種族がいて、俺は魔王ってくらいだから、魔族の王様だ。
魔族はもう世界のほとんどを牛耳ってる。この俺が圧倒的魔王パワーで世界を支配してるといっても過言じゃない。
もう何年前になるかな。俺様じきじきに魔族の軍勢引き連れて、人間どもや翼人どもと戦争してな。俺もありったけの魔法を使って、火の玉とか雷とか降らせまくって、手当たり次第殺しまくったよ。部下の魔族の奴らも、オークだの巨人だのガーゴイルだのスライムだの、見た目はキモいけど超強いし。まさに無敵の軍勢。
それで人間の国も翼人の国も占領して、そこの王族とか皆殺しにしてな。あ、美人のお姫さまなんかは殺さずに俺のハーレムに放りこんだけど。
その後、人間どもと翼人どもは、俺ら魔族の下僕ってことになった。特に人間のほうは、徹底的に痛めつけて、もう完璧に奴隷扱いだ。いまも毎日コキ使いまくってる。俺が住んでるこの城も、人間どもを十五万人くらい、ひっさらって働かせて建てたもんだし。そういや十五万人連れてきて、工事が終わった頃にゃ五千人くらいしか残ってなかったっけな。いやいやご苦労さん。
ま、こういうことやってると、そりゃちょっとは反発もあるよ。
今も、玉座のそばでふよふよ浮かんでる水晶球に、面白いもんが映っててな。人間どもの反乱軍とやらが、城の近くまで押し寄せてきてる。ざっと見たとこ、二万人くらい。
「こんな軍勢、今までどこに隠れてやがったんだ? 前の戦争のとき、騎士やら戦士やらなんて、ほとんどぶっ殺しといたはずだけどな」
俺が尋ねると、脇に控えてるスケルトンのスーさんが、外れそうなアゴを直しながら答えた。
「おおかた、生き残りがエルフの森に逃げこんで、こそこそ準備してたんでしょう。あそこは我々には手出しできませんので」
「あそこか……」
この世界の大半は俺らの支配下にあるが、エルフの森だけは例外だ。あそこには硬い結界が張られてて、俺ら魔族は絶対に森に入れないようになってる。人間と翼人はスルーなのにな。ひでえ差別だ。
いずれ、エルフもぶっ潰さなきゃならんとは思ってる。エルフの女ってのはめちゃくちゃ美人ぞろいらしいから、ぜひお持ち帰りしたいし。結界さえなんとかできりゃ……。
そんなことを考えてる間にも、反乱軍とやらはどんどんこの城へ近付いてきてる。城の周りには、ゴブリンだのゾンビだの、弱いめの奴らしか配備してないから、当然といえば当然だ。わざとこの城の手前まで来させて、あと一歩! ってとこで俺様が圧倒的な力を見せつけて、たっぷり絶望を味わわせるってのが、俺の迎撃プランだからな。
水晶球のなかに、白馬に乗った若い男が見えてる。ちょっと気になったんで、俺は水晶をつんっと小突いて、その男の顔をアップで映し出させた。
あー、この顔は見覚えがあるぞ。たしか、俺がぶっ潰した人間の王国の騎士隊長とかで、俺様の火の玉の魔法で騎士団ごと吹っ飛ばした奴だ。なんだ、生きてやがったのか。
その若いのが、馬を走らせながら、剣振り回して、なんかわめいてる。
どーせあれだろ。あと少しだ! みんなで魔王を倒すんだー! とかいってんだろ。ボクらが世界を救うんだ! みたいな。
そういや、この騎士のボクちゃん、あの国のお姫様の婚約者なんだっけ。まあそのお姫さまは、今は俺のハーレムにいるんだけどな。もう俺無しじゃ生きていけないってくらいにキッチリ調教済みだし。
さて、じゃ、ぼちぼち出迎えてやろうかね。