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まどろみ珈琲店へようこそ  作者: にしのくみすた


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まどろみ珈琲店へようこそ

まどろみ珈琲店へようこそ。

せっかく来てもらったところにいきなり悪いんだけど、ここは変な店だ。

コーヒーでも飲みながら、どこが変なのか、ちょっと聞いてほしい。


 ここは変な店だ。

 いったいどこが変なのか、ちょっと聞いてほしい。

 

 まず、店名が『まどろみ珈琲店』なのに、コーヒーのメニューはブレンドの1種類しかない。

 それなのになぜかお茶に関しては、紅茶とか、聞いたことない葉っぱのお茶とか、覚え切れないほどたくさんの種類がある。

 

 もう、まどろみ紅茶店でいいじゃん!

 もしくは喫茶店とか?


 

 そもそも、珈琲店って言ってるのに、ほとんどのお客さんはコーヒーを飲みに来るんじゃない。ご飯を食べに来る。

 コーヒー&軽食みたいなかわいいやつじゃなくて、がっつりと食事って感じ。

 

 食事のメニューはほぼ日替わりで、完全に店長のその時のマイブームによって決まる。

 世界各地の料理がいろいろアレンジされているらしくて、見たことも聞いたこともない食べ物も結構ある。

 

 もう、まどろみ食堂でいいじゃん!

 もしくは定食屋とか?


 

 あと、店長がほとんど店にいない。

 いつも暇そうにしてるのに、なぜか忙しいみたいで、気がつくと消えてる。

 おかげで店番が私ひとりの時もあるけど、それほど大きい店じゃないから、まあそれは大丈夫。

 

 ごくたまに団体客で店がいっぱいになることはあっても、基本的にはいつもそれほど混んでない。

 とはいえ、メインストリートから外れた目立たない場所にある割には、お客さんが途絶えることなくやってくる。

 ほどよく穴場的なお店かも。


 

 それから、この店の制服はなぜかメイド服。

 別に高級なお店でもないし、内装が貴族のお屋敷みたいに凝っている訳でもない、ただの街角にある小さなお店なんだけど。

 全然メイド要素がないのに制服だけメイド服なのは、店長の趣味なのかも。

 なんかあんまり知りたくない気もするから、聞いたことはない。

 

 私がある日このお店の近くをぶらぶらと散歩していたら、お店の前を掃除していたメイド服の女の子があまりにも可愛くて、私も着たいっ、働きたいっ!

 ってなったので今ここで働いてる。

 あの子は遠くの学校に通うことになって、そのあとお店を辞めちゃったけど、元気にしてるかな。


 

 そういえば、この店の2階には座敷わらしが住んでる。

 店舗は1階だけで、2階は住居と物置になっているんだけど、2階にある部屋のひとつにそのわらしがいる。

 

 まあ実際は本物のお化けって訳じゃなくて、座敷わらしみたいな見た目の女の子だ。

 背がかなり小さくて、髪の毛はおかっぱ。

 普段は部屋から出てこないけど、ときどき2階から降りてきて、引き戸の隙間からお店の中をのぞいたりしてる。

 

 本場の座敷わらしと違うところは、髪が金髪なところと、着物じゃなくて白衣を着ているところ。

 見た目が幼いので女の子と言ったけれど、年齢的には大人らしい。

 このニセ座敷わらしは『はかせ』と呼ばれていて、何者なのか詳しくは知らない。



 

 さてと。

 いろいろお店の話をしてきたけど、まあここまでは全然普通。

 このお店が変なのはここから。

 

 ――なんとこのお店、お客さんに異世界人がいる。

 

 混じっていると言ったほうがいいかな。

 普通のお客さんに混じって、ごく自然に『異世界』から来たであろう人間がお茶を飲んでいたりする。


 

 まあちょっと落ち着いて見ていこう。

 こうして店内を見回してみると、普通の人も含めて、いろんなお客さんがいるよね。

 いま店内にいるお客さんは全部で5人。

 

 奥のソファー席に座ってる、上下とも紺のスーツでメガネをかけた男性は、外まわりの仕事の合間にランチでうちの店を訪れたみたい。

 今日の日替わりメニューのカレーライスを、少し汗ばみながらスプーンで口に運んでる。

 店長が妙にこだわっている色んなスパイスが入っているから、結構辛めかもしれない。

 

「あっ、もしもし」

 

 スーツの男性が手に持っていたスプーンをいったん皿に置いて、誰かと話し始めた。

 どこからか仕事の連絡が入ったのかな。

 話が長引いていて、なかなかカレーに戻ってこられないみたい。

 

 仕事とはいえランチの間にも普通に連絡が来てしまう世の中なのはちょっと嫌だけど、それよりもこうやっていつでも連絡が取れることをありがたく思うべきなのかも。

 こんな簡単に離れた人と連絡が取れるなんて、あらためて考えるとまるですごい魔法みたいだしね。

 


 こっちの窓ぎわの席に座っている、シンプルな服装で髪をポニーテールに縛っている女性は、コーヒーを飲みながら仕事をするために来たみたい。

 お店に入ってきたとき「ここでリモートワークしても大丈夫ですか?」って聞かれたから、具体的にどういう仕事かは分からなかったけど、騒がしくしないなら大丈夫ですって答えた。

 

 最近はこんな感じで、職場には出勤しないでうちの店に来て仕事をしていくお客さんが増えた。

 うちみたいなカフェで(うちがカフェなのかはさておき)いったいどんな仕事をしているのか気になって、迷惑にならない程度に聞いてみたことがある。

 結構いろんな仕事をしているお客さんがいて、物を売る商売をしている人もいれば、何かの設計やデザインをしている人、本を書いているという人もいた。

 

 私もカフェで仕事が出来たらカッコ良さそうだなあと思ったりもしたけど、全然できそうな商売が思いつかないから、とりあえずはここの店番を頑張ることにしよっと。


 

 そして、中央のテーブル席に向かい合って座っている2人の女の子。

 彼女たちは、魔法使いだ。

 

 いかにも魔女って感じの三角ぼうしと、常にそばに置いているあの杖。

 ピンク色のロングヘアの子が先輩で、水色のショートカットの子が後輩みたい。

 

「コーヒーって初めて飲んだけど、結構苦いのね」

「先輩、舌が子供なんですよ。そんなんじゃ冒険者ギルドに行ったときに困りますよ。あそこは麦酒しか無いっすから」

「むぅー。苦いって感想を言っただけで、誰も飲めないとは言ってないわ。あなたこそ世界樹の根っこのダンジョンで、せっかくの薬草を飲めずに吐き出していたじゃない」

「いやいや先輩、あの薬草は苦いとかの次元じゃなくて、もはや痛い味っすから!」

 

 話している内容にところどころ意味の分からない部分はあるけど、どうやら2人が冒険者らしいことは分かる。


 

 最後に、カウンター席に座っている年配の男性。

 彼は見るからに王国の兵士だ。

 身にまとった金属製の鎧はいぶし銀で貫禄が出てるし、腰に下げた武器も使い込まれていて熟練の戦士っぽい。

 

 黙々と食べているのは今日の日替わりメニューのひとつ、煮込んだ豚肉をお米の上に乗っけたやつ。

 店長が置いてったレシピによると、ルーローハンっていうらしい。

 私も前に食べてみたけど、肉の脂身のバランスが絶妙で、口に入れるとトロリと脂のとろける甘みがして本当においしい。

 しっかりした肉の味を、独特なスパイスの香りがいい感じにリフレッシュしてくれるから、胸焼けせずにどんどん食べられる。

 

 この戦士のおじさんも、目をつぶって美味しそうに味わってくれてる。

 ……あれ?

 おじさん、急に目を見開いて、箸も止まっちゃったけど、どうしたのかな。

 味付けが変だった?

 

「これは……若かりし頃、はるか西にある漆黒の大森林で激闘の末に倒して食したオークの肉の味……。まさかここで再び味わえるとは」

 

 え、おじさん、何か呟いてる?

 いまの、聞かなかったことにしていい?

 私は店長が朝仕込んでいった材料を、レシピに沿って調理しただけだし、詳しいことはよく分からないんで。


 

 ――バゴォォーン!

 うわ、びっくりした。

 突然お店の入り口のドアが大きな音を立てて勢いよく開いた。

 勢いがよすぎて、ドアが完全に開き切ってからワンテンポ遅れて、ドアベルのカランコロンって音が店の中に響く。

 こんな乱暴な入り方をするやつはひとりしかいない。

 

「まいどー! ワタセガワ魔法店でーす!」

 

 丸メガネを掛けた、なんだか出前の配達みたいに威勢のいい魔女が店に飛びこんできた。

 すると、中央のテーブル席に座っていた水色髪の魔女の子が反応する。

 

「あ! ぺちこさんじゃないっすかー!」

「やあ! 久しぶり!」

「今日も押し売りのお仕事っすか? 大変っすねー」

「押し売りじゃないし。あんた達もうちの薬を買っていきなさいよ。次の冒険に必要でしょ」


 この押し売り魔女、ペチコ・ワタセガワさんは植物を専門に扱う魔女なんだそうだ。

 花やハーブ類、調合した薬なんかを作っては売る商売をしている。

 うちのお店で料理に使っているハーブや、いろんな種類のお茶の葉、窓辺やカウンターに飾る花なんかは定期的にぺちこさんから仕入れている。


 店長のメモを見ながら仕入れの品物を確認して、ぺちこさんに代金を支払った。

 

「ありがとうございまーす! では、私はもう行きますので」

「もう行っちゃうんすか? 商売繁盛っすね」

 

 水色の髪の子がぺちこさんに手を振りながら言う。

 ピンク色の髪の子も頭を下げて挨拶してる。

 

「まーた川っぺりの魔女が腰を痛めてベッドから動けないっていうから、早くうちの薬を届けてやんないと。では、次回もごひいきに!」

 

 ぺちこさんは最後は私に向けてそう言うと、来たときと同じように勢いよくドアを開けて出ていった。

 次の押し売り先……いや、納品先へ向かうのだろう。


 

 窓ぎわに座っていたポニーテールの女性が、テーブルの上を片付けて立ち上がり、カウンターに近づいてきた。

 

「ごちそうさまでした。お会計お願いします」

 

 そういって渡された紙幣が少し見慣れないデザインだったので、私がまじまじとそのお札を見ていたら、その女性が言う。

 

「ああ、最近お札が新紙幣に変わりましたもんね。慣れるまでちょっと違和感がありますよね」

 

 私はお釣りを渡して笑顔でお客さんをお見送りした。


 

 そういえば、普通の人と異世界の人とで、お店のドアを出たあとはそれぞれ別の世界につながっているんだろうか。

 ガラス窓から見える景色は特に変わらないようだけど。

 まちがって違う世界の方に出ちゃったりしないのかな。

 そしたらちょっと面白いのに。


 

 そんなことを考えてたら、ふと視線を感じてあたりを見回してみる。

 すると2階への階段につながる引き戸が少しだけ開いていて、はかせが隙間からこちらの様子をじーっと伺っていた。

 たぶんお腹がすいたんだろう。

 手招きして何を食べたいか聞くと、今日の日替わりメニューのひとつをリクエストされた。

 

炒飯(チャーハン)!」

 

 要望にお応えして私はチャーハンを作り始める。

 せっかくだから2人分作って私のまかない飯にしよう。

 レシピ通りにチャーハンを炒め、お皿にまあるく盛り付ける。

 従業員の特権を行使し、ルーローハンの角煮もちょっと添えた豪華仕様だ。

 

 はかせは定位置になってるカウンターの端っこの席に座ってチャーハンを食べ始めた。

 身体は小さいのに、結構よく食べるなあといつも思う。

 ひとくちが小さいので食べ終わるのに時間がかかるのもいつものこと。

 私もカウンターの中でチャーハンを食べることにした。


 

 そんなこんなで、食べ終わった食器を片付けて洗ったりしていたら、だんだん日が暮れてきた。

 お客さんも何度か入れ替わり、今はあの2人組の魔女の子達だけが残って、長話に花を咲かせている。

 水色の髪の子は種類が無限にある紅茶が気になるみたいで、何種類か違う紅茶をおかわりして味くらべしていた。

 ピンク色の髪の子は、頑なにコーヒーをおかわりしてた。


 

 店長はまだ帰ってこないな。

 はかせも食べ終わったらすぐ、隠れるように2階へ戻ってしまった。

 このお店は西側に窓があるので、夕方になると出窓から夕日が差し込んでいい雰囲気になる。

 やさしい、なつかしい、さみしい――。

 そのどれともつかないような気持ちになる景色。

 私はこの時間帯のお店がいちばん好き。


 

 ここは変な店だ。

 お客さんたちは、明らかに異世界の人間がとなりに座っていても違和感を感じないのだろうか?

 私はなぜか自然に受け入れていた。

 お客さんもみんなそうなんだと思う。

 

 このお店のまとう雰囲気が、すべてをあるがままに受け入れてくれる。

 違いはただそこにあるものとして、とくに評価なんてせずにそのまま存在している。

 まるで短いまどろみに見ている夢の中のよう。

 本当に変な店だ。


 

 夜になると土地柄のせいかあまりお客さんは来ないので、日が沈んだら割と早めの時間にお店を閉める。

 店じまいの準備を少しづつ進めていると、カウンターに2人組の魔女の子達がやってきた。

 

「ごちそうさまでしたっす。お金、払います」

 

 水色の髪の子にお会計を伝えてお金の受け渡しをしていると、ピンク色の髪の子が私に尋ねてきた。

 

「お姉さんって、魔法は使える人ですか?」

 

 私はなんて答えようか迷ったけれど、嘘をついても仕方ないと思って、少し苦笑いをして正直に答えた。

 

「はい、ちょっとだけなら使えますよ」

 

 そう言って私は右手を2人の顔の前にかざし、魔力を練ってみせる。

 手のひらのまわりを緑色の半透明な光がまとうと、その手に吸い寄せられるようにカウンターの後ろの棚に置いてあった紙切れが飛んできた。

 私はその紙切れを掴むと、2人に差し出す。

 

「よろしければ、またぜひ当店にお越しください」

 

 その紙切れは、お店の場所や営業時間が書いてある宣伝用のショップカードだ。

 

「ほらやっぱり! 私の言ったとおりじゃない。魔女かどうかは匂いで分かるのよ」

 

 ピンク色の髪の子がドヤ顔をして言い、水色の髪の子が答える。

 

「えぇーまじっすかー。匂いなんて非論理的なもので魔法が語れる訳ないっすよー!」

「ふふ、店員のお姉さん、ぜひまたコーヒーを頂きにきますね」

 

 そんな会話のあと、2人は匂いと魔法の関係についてあーだこーだ言いながら店を後にしていった。


 

 私は店の外にある『OPEN』の看板プレートをひっくり返し、『CLOSE』に変える。

 今日はもう店じまいだ。

 裏口で物音がしたから店長も帰ってきたっぽい。


 お店のドアを閉めながら、魔法が無い世界について考えてみた。

 『異世界』は色々不便なことはあるだろうけれど、魔法の代わりになる便利なものもたくさんあるようだった。

 あのいつでも遠くの人と連絡が取れる光る板とか、カフェで座りながらでも商売ができちゃう、ボタンがびっしりついた本とか。

 いつか私も『異世界』に行ってみたいなあ。


 

 さて、今日は遅くまで私の話につきあってくれてありがとう。

 あなたがどの世界の人なのかは分からないけど、もしどこかでうちのお店を見つけたら、ぜひ立ち寄ってほしいな。

 そのときはこの変な店で、メイド服を着てお出迎えしますよ。


「まどろみ珈琲店へようこそ」ってね。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひ、応援して頂けると嬉しいです!


連作短編小説のため、不定期更新になります。

よろしくお願いいたします。

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