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40代IT社長の俺がギャルゲーの悪役に転生したけど、主人公が頼りないので「大人の包容力」と「経済力」でヒロイン全員幸せにします  作者: U3


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第98話 データベースの城と二十歳の祝杯

 強烈な直射日光がアスファルトを焦がす午後。俺は、今週三度目となる新宿のテストセンターにいた。

 夏休みを利用した、ビジネスの権威付けのための資格取得ラッシュ。


 OSやサーバー管理を証明する『MCP』、ネットワークの基礎を固める『CCNA』に続き、今日俺が受けるのはデータベース管理の専門知識を証明する資格、『Oracle Master』だ。


 指定されたパソコンのブースに座り、試験を開始する。

 あらゆる企業活動において、顧客データや売上データを管理するデータベースは心臓部と言える。これからの時代、ITシステムはより複雑化し、データベースの堅牢性と検索の高速化が企業の命運を分けることになる。


 画面に表示されるのは、SQLの構文、メモリ領域のアーキテクチャ、バックアップとリカバリの手法に関する専門的な設問だ。

 システムグローバル領域の構造や、トランザクションの概念。

 当時の最先端の知識であっても、未来から来た俺にとっては、すでに歴史の教科書を読んでいるようなものだ。


 迷うことなくマウスをクリックし、最適解を選び続けていく。

 制限時間を半分以上残して、全問の解答を終えた。


『試験終了』をクリックすると、画面には即座に『PASS(合格)』の文字が浮かび上がった。


「……これで、OS、ネットワーク、データベースの三種の神器が揃った」


 俺は静かに席を立ち、退出手続きを済ませた。

 秋から営業を開始し、年明けから本格稼働させる『社内SEのサブスクリプション事業』。

 ITに疎い中小企業の経営者たちに対し、これら三つの世界的ベンダー資格のロゴが並んだパンフレットを提示すれば、彼らは反論の余地なく俺たちを「プロフェッショナル」として扱う。

 権威とは、無知な人間を納得させるための最も効率的な鈍器だ。


「さて、今日のメインイベントはこれからですね」


 時計を確認し、俺は新宿から恵比寿へと向かうハイヤーに乗り込んだ。


 夕方。

 恵比寿ガーデンプレイスの一角にそびえ立つ、豪奢なフランス風の洋館。

 最高峰のフレンチレストラン『タイユバン・ロブション』だ。


 重厚な扉を抜け、ウェイターに案内されたのは、優雅な装飾が施されたメインダイニングの特等席だった。

 すでに席には、一人の女性が待っていた。


 俺の専属秘書である、如月舞だ。


 普段の隙のないビジネススーツ姿とは打って変わり、今夜の彼女は深いワインレッドのイブニングドレスに身を包んでいた。

 滑らかなシルクの質感が、彼女の細くしなやかなボディラインを美しく際立たせている。艶やかな黒髪は上品にまとめられ、白く細い首筋が露わになっていた。

 そのクールで知的な美貌と、ドレスが醸し出す大人の色香に、周囲のテーブルの客たちが思わず視線を奪われているのが分かる。間違いなく、今夜この空間で最も目を惹く女性だ。


「お待たせしました、舞」


 俺が声をかけると、彼女は少しだけ緊張した面持ちで立ち上がった。


「いえ……私も今、着いたばかりです。社長、その……このような素晴らしい場所に、私なんかのために……」


「今日、8月6日は君の20歳の誕生日でしょう。大人の女性の門出を祝うのに、これ以下の場所はふさわしくありません」


 俺はウェイターに促されて席に着き、彼女にも座るように微笑んだ。

 借金に苦しんでいた彼女の人生を俺が買い取り、秘書として雇用してから数ヶ月。彼女の献身と事務処理能力の高さは、俺のビジネスを根底から支えてくれている。


 ソムリエがうやうやしく現れ、食前酒の注文を尋ねてきた。


「彼女には、ヴィンテージのシャンパーニュを。……僕は未成年ですので、ペリエにライムを添えて」


「かしこまりました」


 グラスに注がれた黄金色のシャンパーニュの泡が、華やかに立ち昇る。


「……誕生日おめでとうございます、舞。今日から、君は法的な意味でも完全な大人ですね」


 俺がペリエのグラスを傾けると、舞は少しだけ頬を染め、シャンパングラスを合わせた。


「ありがとうございます、社長。……20歳になれたこと自体が、私にとっては奇跡のように思えます。数ヶ月前まで、人生に絶望していたのに……社長が私を見つけて、救い出してくださったから」


 彼女の切れ長の瞳が、潤みを帯びている。


「僕は合理的な投資をしただけです。君の能力は、僕が支払った対価以上のリターンを生み出している。……君はもう、僕の『従者』ではなく、対等なビジネスパートナーですよ」


「社長……」


 舞は嬉しそうに微笑み、シャンパーニュを一口飲んだ。


 コース料理が運ばれてくる。

 キャビアを添えた甲殻類のジュレ、黒トリュフの香るフォアグラのポワレ、そしてメインの仔羊のロースト。

 芸術品のように盛り付けられた一皿一皿を、俺たちは静かに堪能した。


 食事の終盤、デザートの前に、俺は内ポケットから小さなベルベットの箱を取り出し、テーブルの上に置いた。


「僕からの、個人的な贈り物です」


「……よろしいのですか?」


 舞が震える手で箱を開けると、中には『カルティエ』のレディース腕時計、タンク・フランセーズが収められていた。

 ステンレススチールとイエローゴールドのコンビネーションが、洗練された大人の女性にふさわしい輝きを放っている。


「時計は、時間という最も価値のある資産を管理するための道具です。君の有能な働きに対する、正当な報酬と感謝の印として受け取ってください」


「……こんなに高価なものを。ありがとうございます、社長。一生の宝物にします」


 舞は時計を胸に抱き、この日一番の、心の底からの笑顔を見せた。

 冷徹な秘書という仮面の下にある、年相応の純粋な喜び。そのギャップが、彼女の魅力をさらに引き立てていた。


「これからも、僕の右腕として期待していますよ」


「はい。……私の人生は、全て社長のためにあります」


 彼女の言葉は重いが、そこにあるのは盲目的な依存ではなく、確固たる決意と忠誠心だった。

 最高の料理と、優秀なパートナーとの祝杯。

 1999年の夏、俺の陣営はより強固な絆で結ばれつつあった。


 午後、俺は吉祥寺の街を歩いていた。

 休日のアーケード街は、夏休みを楽しむ若者や家族連れでごった返している。

 その喧騒を抜け、少し路地に入った場所にある落ち着いたカフェのテラス席に、俺は腰を下ろした。


「お待たせ、西園寺くん!」


 カラン、と氷の鳴る音と共に、アイスコーヒーのトレイを運んできたのは桜木マナだった。

 彼女は白いブラウスに、淡いピンク色のフレアスカートという清楚な私服姿だ。

 肩にかかる柔らかな髪と、優しく温かみのある顔立ち。彼女が歩くたびに、周囲の男性客が吸い寄せられるように視線を向ける。


 実家の洋食店「キッチン・チェリー」で鍛えられた愛想の良さと、家庭的で隙のない美しさ。マナは無自覚なまま、多くの男たちを惹きつける天性の魅力を持っている。


「こんにちは、桜木さん。休日の貴重な時間を割いていただき、ありがとうございます」


「ううん、全然! 午後の仕込みまでの休憩時間だったし、西園寺くんに会いたかったから」


 マナは向かいの席に座り、嬉しそうに微笑んだ。


 俺は現在、彼女の実家である「キッチン・チェリー」の経営再建のコンサルティングを行っている。メニューの絞り込みや、看板の掛け替え、そしてマナ自身の接客という「強み」を前面に押し出した戦略だ。


「お店の売り上げの推移は、いかがですか?」


 俺が尋ねると、マナはパッと顔を輝かせた。


「それがね、すごく順調なの! 西園寺くんのアドバイス通り、ランチのメニューを『特製デミグラスハンバーグ』と『オムライス』に絞ったら、提供スピードが劇的に上がって。回転率が良くなったから、外で待ってるお客さんも減ったし、売上も先月の1.5倍になったんだよ!」


「それは素晴らしい。お父様の料理の腕が確かな証拠です。僕はただ、その価値を正しく顧客に届けるための道筋を作っただけですから」


「ふふっ。西園寺くんはいつもそう言って謙遜するけど、お父さんも『あの高校生はタダモノじゃない』って、すごく感謝してるんだよ」


 マナはアイスティーのストローを咥えながら、愛おしそうに俺の目を見た。


 かつて、原作主人公である日向翔太に無条件の好意を寄せていた彼女は、その傲慢な態度に完全に愛想を尽かした。そして今、彼女の瞳に映っているのは、彼女の家族を実質的に救済した俺だけだ。


「ねえ、西園寺くん。お店の再建が完全に終わったら……その、今度はコンサルティングとか関係なく、普通に遊びに行ってもいいかな?」


 彼女が上目遣いで、少しだけ頬を赤くして尋ねてくる。


「もちろんですよ。……桜木さんの特製弁当を持って、公園にピクニックでも行きましょうか」


「本当!? やった! 絶対に美味しいの作るから、期待しててね!」


 マナは花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。

 その純朴で真っ直ぐな好意は、ビジネスの冷徹な盤面で戦い続ける俺にとって、心地よい清涼剤となる。


「……あ、そろそろお店に戻らなきゃ。夜の仕込みがあるから」


 時計を見たマナが、慌てて立ち上がる。


「お見送りしましょう。……暑いので、無理はしないように」


「うん。ありがとう、西園寺くん。……じゃあ、またね!」


 彼女は大きく手を振りながら、アーケードの奥へと走っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、俺は残ったアイスコーヒーを飲み干した。


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