表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40代IT社長の俺がギャルゲーの悪役に転生したけど、主人公が頼りないので「大人の包容力」と「経済力」でヒロイン全員幸せにします  作者: U3


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/58

第49話 青きサバの味噌煮とホテルラウンジの決別

 中間試験の結果発表も終わり、週末の開放感に包まれた金曜日の放課後。


 俺は、渋谷のゲームセンターで、激しいビートの中に身を置いていた。




 ドッドッドッドッ……!




 重低音が響き渡る筐体の上で、城戸隼人が華麗なステップを刻んでいる。


『ダンスダンスレボリューション』。


 1998年の稼働以来、日本中を席巻しているリズムゲームだ。


 元陸上部のエースである隼人にとって、このゲームは単なる遊びではなく、身体能力を見せつけるステージのようなものだ。


 矢印に合わせて正確に、かつリズミカルにパネルを踏む彼の動きに、周囲のギャラリーから歓声が上がる。




「っしゃオラァ! フルコンボだぜ!」




 曲が終わり、汗だくの隼人がガッツポーズを決める。


 金髪にピアス、着崩した制服。いかにもな不良スタイルだが、その笑顔はスポーツ後のように爽やかだ。




「やるな、城戸。リズム感もさることながら、体幹がブレていない」


「へへっ、だろ? ……次、西園寺の番な! 逃げんなよ!」


「……仕方ない」




 俺はジャケットを脱ぎ、隼人に預けた。


 41歳の精神を持つ俺にとって、人前で踊るのはいささか抵抗があるが、15歳の肉体は音楽に反応してうずいている。


 選曲は『PARANOiA』。難易度は高めだ。


 スタート。


 流れてくる矢印を、最小限の動きで処理していく。


 派手なパフォーマンスはしない。重心を一定に保ち、無駄なエネルギー消費を抑える「省エネ打法」ならぬ「省エネステップ」。


 結果、スコアは隼人を僅かに上回った。




「はぁ!? お前、なんでそんな涼しい顔してんだよ! ロボットか!」


「効率化だよ。……さて、ジュースをご馳走になろうか」


「くっそー! 覚えてろよ!」




 隼人は悔しがりながらも、自販機へ走っていった。


 炭酸の刺激を喉に流し込みながら、俺たちは他愛のない話で笑い合った。


 彼との時間は、ビジネスの重圧を忘れさせてくれる貴重なリセットタイムだ。


 だが、今日はこの後、重要な「仕事」が控えている。




「悪いな城戸。俺はこれから用事がある」


「おう、デートか? 隅に置けねーな」


「仕事だよ。……ある意味、デート以上に気を使う相手だ」




 俺は隼人と別れ、駅前へと向かった。


 そこには、少し緊張した面持ちで待っている少女の姿があった。




「お待たせしました、桜木さん」


「あ、西園寺くん! ……こ、こんにちは」




 桜木マナだ。


 ショートボブの黒髪と、意思の強さを感じさせる眉。


 今日は制服姿だが、スカートの丈やリボンの位置を何度も気にしている。


 これから向かう場所を聞かされ、緊張しているのだろう。




「行きましょう。車が待っています」


「う、うん……。本当に私でいいの?」


「君でなくては意味がありません。今日は『キッチン・チェリー』のコンサルティングの一環、競合他社の視察ですから」




 俺たちはハイヤーに乗り込み、渋谷から恵比寿へと移動した。


 向かった先は、『ウェスティンホテル東京』。


 ヨーロピアンクラシックの重厚な内装と、最高級のホスピタリティを誇るラグジュアリーホテルだ。


 その1階にある『ザ・ラウンジ』。


 高い天井、豪華なシャンデリア、そして窓の外に広がる緑豊かな庭園。


 制服姿の高校生が足を踏み入れるには、あまりに敷居が高い空間だ。




「す、すごい……。ここ、本当に入っていいの?」




 マナが俺の袖を掴み、小声で囁く。


 その瞳は不安で揺れている。


 周囲の客層は、優雅にアフタヌーンティーを楽しむマダムや、商談中のビジネスマンばかりだ。




「堂々としていればいいんです。僕たちは客として、対価を払ってここにいるのですから」




 俺はボーイに目配せをし、予約していた窓際の席へと案内させた。


 椅子を引いて彼女を座らせる。




「……ありがとう」




 マナは恐縮しながら座った。


 俺はメニューを開き、オーダーを済ませた。


 季節のケーキセットと、最高級のアールグレイ。




「さて、桜木さん。ただ楽しむだけではありませんよ。……この空間、サービス、そして味。これらがなぜ高い金額で提供されているのか、肌で感じてください」


「う、うん……。でも、うちのお店とは全然違うよ? 参考になるかな……」


「違っていいんです。重要なのは『体験』という付加価値です。お客様は、単にカロリーを摂取しに来ているわけではない。……この優雅な時間に対価を払っている」




 運ばれてきたケーキは、皿の余白さえも計算された芸術品のような盛り付けだった。


 マナは目を輝かせ、一口食べた瞬間、頬を緩ませた。




「……おいしい! クリームが全然重くない!」


「でしょう。……君の店の『限定ハンバーグ』にも、この特別感が必要です。味だけでなく、盛り付けや提供時の演出で、お客様の満足度は劇的に変わる」




 俺は具体例を挙げながら、飲食店のブランディングについて講義をした。


 マナは真剣な表情でメモを取っている。


 その横顔には、もう「場違いな場所に連れてこられた子供」の怯えはない。


 自分の店を良くしたいと願う、一人のプロフェッショナルの顔だ。




 その時だった。


 静かなラウンジの空気を切り裂くような、場違いな大声が響いた。




「おいマナ! 何してんだよ!」




 入り口の方から、ドカドカと足音を立てて近づいてくる影。


 日向翔太だ。


 ジャージ姿にスポーツバッグ。部活帰りだろうか。


 彼は俺たちのテーブルまで来ると、マナの腕を乱暴に掴もうとした。




「こんな高い店で何してんだよ! お前、騙されてんぞ!」


「……っ! 痛いよ翔太、離して!」


「うるせー! 目を覚ませよ! 西園寺みたいな金持ちが、お前みたいな庶民を相手にするわけねーだろ! 金で遊ばれてるだけだって分かんねーのかよ!」




 翔太は顔を真っ赤にして喚き散らした。


 周囲の客が眉をひそめ、ボーイが慌てて駆け寄ってくる。


 最悪のタイミングだ。


 彼は、マナが「自分以外の男」と高級な場所にいることが許せないのだ。


 それを「マナのため」という正義感にすり替えて、自分の嫉妬心を満たそうとしている。




「……日向くん。場所を弁えなさい」




 俺はカップをソーサーに置き、冷徹な声で言った。


 立ち上がる必要すらない。


 ただ、絶対零度の視線で彼を射抜く。




「これはビジネスです。僕は彼女を『キッチン・チェリー』の実質的な経営パートナーとして、ここに招いています。……遊びで連れ回しているのは、君の方ではありませんか?」


「はぁ!? ビジネスだぁ? 高校生が何言ってんだよ! マナは俺の……」


「幼馴染、ですか? それがどうしました?」




 俺は彼の言葉を遮った。




「幼馴染という過去が、彼女の未来を縛る理由にはなりません。……彼女は今、自分の意志で、自分の店を守るために学んでいる。それを邪魔する権利は、誰にもない」


「……ッ!」




 翔太は言葉に詰まった。


 俺の言葉の正しさを理解したからではない。俺の纏う「大人の圧」に気圧されたのだ。




「帰りたまえ。……これ以上騒ぐなら、威力業務妨害で警備員を呼びますよ」




 ボーイたちが翔太を取り囲む。


 翔太は悔しそうに俺とマナを睨みつけたが、多勢に無勢を悟り、「……覚えてろよ!」と捨て台詞を吐いて逃げ去っていった。


 嵐が去った後のような静寂。


 マナは小さく震えていた。




「……ごめんなさい、西園寺くん。私のせいで……」


「謝る必要はありません。……むしろ、不快な思いをさせて申し訳ない」




 俺は新しいナプキンを彼女に渡した。




「……でも、はっきりしましたね。彼は君を子供扱いし、下に見ている。……だが僕は違う」




 俺は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。




「僕は君を、対等なビジネスパートナーとして尊敬しています。君の舌、君の感性、そして店を守ろうとする君の強さを信じている。……だから、自信を持ってください」




 マナは涙を拭い、顔を上げた。


 その瞳には、今まで見たことのない強い光が宿っていた。




「……うん。私、負けない。翔太にも、お店の危機にも」




 彼女は力強く頷いた。


 その瞬間、彼女は「守られる幼馴染」から「共に戦うパートナー」へと進化した。




 ホテルを出た後、俺たちは気分転換に『恵比寿ガーデンプレイス』を散策することにした。


 レンガ造りの建物と、美しく整備された広場。


 夕暮れ時のガーデンプレイスは、ロマンチックな雰囲気に包まれている。




「わぁ……綺麗。ここ、ドラマで見たことある!」




 マナがはしゃいだ声を上げる。


 先ほどの緊張が嘘のように、等身大の15歳の笑顔だ。


 俺たちは雑貨店やショールームを冷やかしながら、ウィンドウショッピングを楽しんだ。


 あくまで「視察」の延長だが、彼女がリラックスしてくれるならそれでいい。




「あ、このお皿可愛い! お店で使ったら映えるかな?」


「いいですね。白い陶器は料理の色を引き立てます」




 ビジネスの話と、他愛のない会話が混ざり合う。


 心地よい時間。


 だが、日は落ち、そろそろ解散の時間だ。




「……今日はありがとう、西園寺くん。すごく勉強になったし……楽しかった」


「こちらこそ。有意義な時間でした」




 駅の改札で別れ際、マナは少し名残惜しそうに俺を見た。




「……今度、試作のハンバーグができたら、一番に食べてくれる?」


「ええ。楽しみに待っています」




 彼女は小さく手を振り、改札を抜けていった。


 その背中を見送り、俺は本来の目的に戻った。


 夕食の買い出しだ。




 恵比寿からタクシーで渋谷へ戻り、東急百貨店本店のデパ地下へ。


 今日の夕食のテーマは「和の真髄」。


 鮮魚コーナーで、最高級の『マサバ』を見つけた。


 この時期のサバは脂が乗っていないと思われがちだが、九州で水揚げされたブランド鯖は別格だ。


 丸々と太り、背中の模様が鮮やかに輝いている。


 これを味噌煮にする。




「……サバの味噌煮。シンプルだが、奥が深い」




 さらに、青果コーナーで『江戸崎かぼちゃ』を購入。


 完熟してから収穫されるこのカボチャは、栗のようにホクホクとして甘みが強い。


 これを煮物にする。




 そして、忘れてはならないのが「お茶」だ。


 日本茶専門店『ルピシア』へ向かう。


 選んだのは、福岡県八女産の最高級玉露『極』。


 低温でじっくり抽出することで、出汁のような濃厚な旨味と甘みを楽しめる、お茶の芸術品だ。


 脂の乗ったサバの味噌煮には、この力強い旨味が合う。




 帰宅後、俺はエプロンを締め、キッチンに立った。


 まずはサバの下処理からだ。


 二枚におろし、切り身にする。


 皮目に飾り包丁を入れ、熱湯を回しかけて霜降りにする。


 表面が白くなったら冷水に取り、血合いや汚れを丁寧に掃除する。


 このひと手間が、生臭さを消し、仕上がりを美しくする。




 フライパンに水、酒、砂糖、スライスした生姜を入れて火にかける。


 煮立ったらサバを、皮を上にして並べ入れる。


 落とし蓋をして、強火で煮る。


 煮汁が白濁してくる。これが乳化だ。


 魚のゼラチン質と煮汁が混ざり合い、とろみがつく。


 ここで味噌を溶き入れる。


 今日は、信州の白味噌と、八丁味噌をブレンドする。


 白味噌の甘みと、八丁味噌のコク。


 煮汁を回しかけながら、煮詰めていく。


 最後にみりんを加え、照りを出す。


 煮汁がとろりと飴色になり、サバに絡みつく。


 完璧だ。




 並行して、かぼちゃの煮物を作る。


 種とワタを取り、一口大に切る。


 皮を所々削ぎ落とし、面取りをする。煮崩れを防ぐための重要な工程だ。


 鍋にかぼちゃを皮を下にして並べ、出汁、砂糖、酒、醤油を加える。


 落とし蓋をして、弱火でじっくりと煮含める。


 煮汁がなくなる直前で火を止め、一度冷ます。


 冷める過程で、味が中まで染み込むのだ。


「鍋止め」という技術だ。




 ご飯は、土鍋で炊いた魚沼産コシヒカリ。


 蓋を開けると、カニ穴の空いた美しい銀シャリが湯気を立てている。




 そして、玉露。


 湯冷ましで50度まで冷ましたお湯を、茶葉に注ぐ。


 じっくりと2分待つ。


 急須を最後の一滴まで絞り切る。


 湯呑みに注がれた液体は、黄金色に輝き、濃厚な香りを放っている。




 ダイニングテーブルに料理を並べる。


 飴色のタレを纏ったサバの味噌煮。


 ホクホクとした黄色が鮮やかなカボチャの煮物。


 艶やかな白米。


 そして、至高の玉露。


 一汁三菜の、究極形。




「いただきます」




 まずはサバから。


 箸を入れると、身がホロリと崩れる。


 口に運ぶ。


 ……美味い。


 濃厚な味噌のコクと、サバの脂の甘みが口いっぱいに広がる。


 生姜の香りがアクセントになり、後味はしつこくない。


 ご飯が進む。


 タレが染み込んだご飯は、それだけでご馳走だ。




 次にカボチャ。


 箸でスッと切れる柔らかさ。


 口に入れると、栗のような甘みと出汁の風味が広がる。


 煮崩れせず、形を保ったまま中まで火が通っている。完璧な火入れだ。




 そして、玉露を啜る。


 ……衝撃だ。


 お茶とは思えない、濃厚な旨味。


 まるで極上の出汁を飲んでいるようだ。


 口の中に残った味噌の脂を、玉露の旨味が洗い流し、さらに高みへと引き上げる。


 最高のマリアージュ。




 一人静かな食卓だが、心は満たされている。


 今日のマナの成長、翔太との決別、そしてビジネスの進展。


 全てが順調に進んでいる。


 41歳の経験と、15歳の肉体。そして310億円の資産。


 これらを駆使して、俺は俺の理想とする世界を構築していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ