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純水  作者: 水嶋


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地下水

「八神先生は仮死状態だったんですよ」


「仮死?」


「ええ、まあ厳密に言えば冬眠状態に近いですかね」


「冬眠…」


「今回ド○ペジルを使いました」


「それって…アルツハイマー型認知症の進行抑制剤ですよね?普通に患者に使われていると思いますが…」


「仮死状態に出来るとちょっとした話題になっていたんですよ?知りませんでした?」


「僕は其方の方面の治療には携わっていませんでしたから…」


「まあ、近い内に世間にも公表されるでしょうね。この薬はそのままの状態では効果が表れるのは難しいので、少々特殊な工程が必要です」


「はあ…」


「まあ、裏のルートからその状態の物を入手してみましたので、八神先生に試してみたと言う訳ですよ」


「そうですか…僕で人体実験をしてみた訳ですね」


「八神先生を生まれ変わらせる為ですよ」


「そうですか…」


中々食えない男だ…



「八神先生の死亡診断書が出てからお父さんの病院にすぐに引き取って貰いました」


「はい」


「そこで、八神宮乃先生にお願いして蘇生させて貰いました。蘇我先生も手伝ってくれましたよ」


「宮乃叔母さんとアキラが…」


「蘇我先生は蘇生した後も昼夜を問わず献身的に八神先生を介護していましたよ」


「そうだったんだ…」


「今は八神先生が安定して来たので休んでもらってます」


「そうか…早く会って安心させてあげたいな…」


「一応八神先生の葬儀もしましたよ」


「そうですか…何だか変な感じです」


「なので、もうこの世界には八神眞事は存在しません」


「そうなんですね…」


「今度から神谷真(カミヤシン)として生きて行ってください」


「神谷真…」


「此方は新たな戸籍です」


そう言って田所は戸籍謄本を渡して来た


「僕がツテを使って用意しました」


「そうですか…有難うございます」


「僕は八神先生に救われたんですから、今度は僕が八神先生を自由に…しがらみから解放させてあげたいんですよ。友人ですからね」


「解放…」


「八神先生は病院の仕事からも八神家の使命からも解放されて神谷真として新たにここの地下施設で自由に…楽園の主となって好きな事だけをして行くんですよ」


「そうですね…」



「まずは…見た目も別人にならなといけませんね」


「まあ…そうですね。いくら戸籍が違っていても同じ見た目だとおかしいですよね」


「その点は八神宮乃先生にツテがあるようですよ」


「そうなんですか?」


「色々裏の知り合いも居るようで…まあ所謂闇医者ですね。極秘に整形をして貰えるそうです」


「成る程…」



「後は…お子さん達はまだ八神先生が死んでいると思ってますので、全て片付いてからお会いした方が良いでしょうね」


「そうですね…今の状態で会うと混乱させてしまうかも知れません」


「葬儀に僕も参列しましたが、韻くんは特に動揺して泣き崩れていましたから…早く韻くんが大好きな八神先生に会わせてあげて安心させてあげましょうね」


「イン…そうですね。早く会いたいです」



「田所先生は今はどうしてるんですか?」


「僕の家の病院は閉鎖しました。土地も手放しました。今は更地になってますよ。マンションが建つ予定みたいです」


「そうですか…」


「僕は今は八神先生の後を引き継いで正式に精神科医として病院に勤めていますので、患者さん達の事は気にしないで下さいね」


「そうなんですね…宜しくお願いします」




成る程…


僕を嵌めて追い出してまんまと後釜に収まった訳か


ちゃんと支配の後の身の置き場も考えていた訳だ


やはり食えない男だ



まあ僕はあの病院にもそこで出会った子供達にも…僕の思いが伝わっていなかった子達にはもう何の思い入れも無いし、僕をこの世から消して生き返らせて新たに戸籍まで用意してくれた田所の策に素直に乗ろう





そう諦めにも似た決意をしていた





○○○○○○○○○○





パソコンに保存してあった動画や画像は警察がパソコンごと押収していた


後から知ったが病院での患者の子供達、麻里奈以外の2人の物以外は全て消えていたようだ


志帆や杏やドライの物が他人に晒されなくてホッとしていた


どうやら田所の知り合いが警察の手に渡る前に遠隔で消去したようだ

今回の件に関係ない物と依頼された麻里奈の物は消去する様にと田所が指示したらしい


どうも田所は友人アピールをしたい様だ

友人なら僕を嵌めたりしないと思うのだが…


僕の携帯に入っていた追跡アプリもその人物が作っていた様で恐ろしい…

因みにもうその携帯は解約している

今後は取り扱いに、特に田所には気をつけないと…


そんな経緯で僕の罪は未成年3人との「不同意性交罪」と児童ポルノ所持となったらしい。

麻里奈の方は映像は無いが音声の証拠があったらしく知らない間に録音されていたらしい

やはり女は恐ろしい


関係は無理矢理では無く麻里奈以外の子は僕に好意を持ってくれていたので何とか情状酌量で刑は比較的軽く済んだ様だ


しかしもう僕は死んだ事になっているので正直どうでも良い





僕は身体が回復してから宮乃のツテで整形手術をした


最終的には何軒か梯子して整形をして別人になって行ったが、最初に整形した時に杏と韻に会った




「ごめんな…ダメな父親で…心配させたね」


「良かった!マコト生きてた!」


杏は喜んでくれた


「マコト!!」


韻は僕に抱きついて泣いていた


「これからは…神谷真って名前になるけど…お前達はここの中ではマコトって呼んでくれていいからね。外では神谷…シンって言ってね」


「うん!」


僕は韻の頭を撫でてあげていた


杏も抱き寄せて頭を撫でてあげた




僕はこの地下から出て真っ当に働いて…生活して行く事はもう出来ないのだろう



これからは…





ここで地下水となって生きていくのだろう



このマコトの整形のツテは後の田所に繋がっていきますね


架空の戸籍は恐らく田所は普段の違法薬物の入手から高木組とも遠からず関わりが有るのでその辺りから手配しているのだと思います


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